2、それが出会いだった。
なんだかいつもよりここちよい。
そんなふわふわとした感覚の中で、柚は目を覚ました。
正確に言うと、まだ目は開いていなくて、意識だけ覚醒させた。
ここが気持ちの良い布団の中だということは、わかるのだ。
けれど、自分のベッドよりも快適だった。
まだ意識は微睡んでいて、もう少しだけ、このままでいたい気もする。
しかし、この布団はとてもいい匂いがして、それがこの布団の持ち主の匂いなのだろう。
しかも、この匂いは、同性で無く男性……
そこまでなんとなく思っていた柚は、ハッとして目をぱっちりと開けた。
目の前には、見知らぬ天井が広がっていた。
柚が戸惑っていると、突然視界に人影が入ってきた。
けれど、その顔が知っている顔で、そのことに逆に柚は驚いたのだ。
「尚くん?」
そう問われた相手は、にこっりとした笑顔のまま、んっ? と、首を傾げていた。
「気が付いたようだね。よかった。 昨日はびっくりしたんだ。」
「昨日?」
そう言いながら、青年は柚に、飲み物の入ったカップを手渡した。
「白湯だよ。 少しハーブが入ってる。」
「ありがとう。」
「どうして、あんなところに倒れていたの?」
柚には、青年の言っている意味が理解できなかった。
けれど、青年の髪が窓から入る陽の光にきらきらと青く光るのが綺麗だなと思った。
それと同時に、良く似てはいるが、青年が尚ではないことに気づいてしまった。
その瞬間、柚の眉根が寄せられ、きっと表情がこわばった。
―――このひとは誰で、ここはどこなの?―――
「えっと、ごめん。目が覚めたらいきなり知らないところにいるし、知らない奴がいてパニクるよな?」
そんな柚の異変に気づいて、先にフォローしたのは、青年の方だった。
ハニカムような、やわらかな笑顔を向けられ、気を使われれば、柚も悪い気はしなかった。
「……う、うん。」
逆に、恥じらうように小さな声でそう頷いた。
それに青年はうんうんと頷くと、
「えっとお。 まず、オレはロージア。ここで鋼を叩いてる。 キミは、ここが森の中だってわかってる? キミはこの森の林道に倒れていたんだ。ここらへんは、夜になるとモンスターが出て危険だから家へ運んだんだ。」
「……ロージア。」
そうつぶやくように、柚から声が出ると、ロージアはニっと笑った。
柚もにっこり笑うと、
「私は、柚。」
「ユズかぁ。 かわいい名前だね。」
ありがとう。 そう言いながら、柚は、記憶を辿る。
たしか……。
学校を下校していた。
美耶子と、部活が休みで、久々に一緒に帰れる千尋と。
―――そうだ。雷。
落ちたのか? よくわからない。そこらへんの柚の記憶は曖昧だった。
「友達。 私、友達と一緒じゃなかった?」
幾分、柚の表情が不安そうになる。
それを見て、ロージアの眉も、への字に下がった。
「いや……。ユズはひとりだったよ。 あっ! そうだ、荷物があったんだ。」
ロージアはそう言うと、部屋の隅からバックを3つ持ってきた。
そのバックに、柚は見覚えがあった。
学校指定のスポーツバックだ。
「あっ。」
3つのバック。大きなクマの人形の付いた、それは確かに柚のバックだった。
そして、色違いのクマの人形、それが付いているのは美耶子のバックだろう。
何も飾りのない、シンプルなのは、中を見なければ確かではないが、きっと千尋のバックのはずだ。
―――2人のも、バックだけある。 どうして? 2人はどこに行ったの?
夜はモンスターが出る。
蘇るロージアの言葉に、柚は、ロージアを見た。
「ホントに、2人はいなかった?」
その声は震えていた。
それにロージアは、困った顔をすると、首を横に振った。