1、それが出会いだった。
深緑の中をひとりの青年が家路を急いでいた。
森の中に、街灯などない。ここはそんな世界。
青年は、王都へ依頼の剣などを届けた帰りだった。
青年の住む、森の奥から王都までは、青年の足で半日ほど掛かる。
今朝も、まだ辺りの薄暗いうちから出掛け、暗くなる前に帰って来れるよう、王都を早く出るつもりだった。が、噂に聞いていた王子の隣国の姫君との婚約が決まったらしく、急ぎでの仕事の発注が入ったのだ。
対応していたら、王都を出るのが予定よりも大幅に遅れてしまったのだ。
青年は、いつもより足取りを急いではいたのだが、とうとう辺りは夕闇へと、包まれていってしまった。
「やっぱり、長居しちゃったかあ。 けど、お祝い事だし、うちも助かる。」
青年は、そうひとりごちると、けもの道から比較的見通しの利く林道へと飛び出た。
今晩は、きれいに月が出ていて、月明かりが青年を照らしていた。
照らされた青年は、くせ毛がかった新海のような深い青の髪を月明かりに煌めかせ、同色の青の瞳をしている。少し日に焼けた肌と、森の中を長い時間歩いたことで、薄汚れてしまった衣服で、パッと見は分からないが、なかなかの美青年だった。
家まであと少し。そんな頃合いで青年はふと足を止めた。
すでに辺りは夜の帳に沈んでいる。
そんな中、青年の歩く林道の先に人が倒れているのだ。
しかも、その人影は、女性に見えた。
――こんな家もない処で人が倒れているなんて!?――
青年は、そう驚き、その人に駆け寄ろうとして考えを改めた。
――もしかしたら、追い剝ぎかもしれない。じゃなくても、新手のモンスターか?――
この辺りの森にはモンスターが潜んでいる。
モンスターたちは、昼間は姿を見せないが、夜になると活動を始め、まれに人前にも姿を見せた。だから、モンスターかもしれない。
青年はそう思うと、用心しながらその倒れた人の元へ歩いて行った。
青年が近づいてみると、やはり女性のようだった。
しかもその女性は、青年は20歳だったが、それよりもずいぶん若く見えた。
「かっ、かわいいかも。」
そうつぶやくと、青年は頬を朱に染めた。
少女の纏う衣服は、青年の見たことのない形をしていた。
似たような衣服を、たしか海賊や船乗りと呼ばれる人たちが着ていた気がする。
しかし、海賊にも船乗りも、女人禁制だったはずだ。
そう思うと青年は、その悩ましく素肌を露出した少女に目を向けた。
少女は、その白くて華奢な素足を、惜しげもなく曝け出し、短すぎるプリーツのスカートは、捲れ上がり、白い下着を露出していた。
その下着の下の形良くまるいお尻の形状がまったく隠されていない。
青年は、躊躇いがちに、しかし、目のやり場に困り、少女のスカートを整えた。
それにしても、少女はまるで、自ら好き好んでこの場所で眠っているかのように、無防備な笑みをその顔に浮かべていた。
「ホントに、かわいい寝顔みたいだ。」
青年が、そうぽつりとつぶやく。
少女は、肌理細やかな色白の肌をし、ぷっくりとピンク色の唇。柔らかな整った眉に、長い睫。焦げ茶色の髪の毛は、毛先を緩く巻いていて、ふわりと柔らかそうだ。
青年が、少女の顔に見とれていると、遠くの方で、獣の鳴き声のようなものが聞こえ、ふと我に返った。
「いけない。 兎に角、ここへ寝かせておくわけにはいかないんだ。」
そんな夜の出来事だった。
表記が分りずらいので、この異世界には漢字表記が存在しません。
なので、ロージアたち(柚から見て異世界の人たち)は 柚 を ユズ と
呼びます。
なので、ロージアたちの思考の中でも、 柚 が ユズ になります。