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  作者: 火鳥 らひす
1章;柚
14/45

13、ジルの取り引き。

「おっはよー。」


翌朝、ロージアは仕事部屋で王室の依頼品を進め、柚が洗濯がひと段落し、家の前のテーブルに着いて、ロージアからもらった紙にスケッチしながら、昨夜ロージアに触れられたまつ毛を思い出して、こそばゆい気持ちになっていると、今日もジルがやって来た。

「おはよう。」


柚の目線の先のジルは何やら大きな荷物を掲げている。

柚は、今日もランチを持ってきてくれたのだろうか? とも思ったが、それにしても荷物は大きいし、なによりランチまではだいぶ時間もある。


柚が不思議そうな顔をしていると、ジルはそんな柚を見て、クスリとすると、

「今日はさあ、カーボン持ってきたんだよ。」

そう言った。

「だってさあ、せっかくユズちゃん興味ありそうだったのに、ロージがユズちゃん家に来るの断固反対したじゃん? でもオレとしてはさあ、やっぱユズちゃんにオレの仕事も見てもらいたくってね。 だから持って来たの。」


そんなジルに、柚が目を輝かせて、

「わー、ありがとう! 見せて見せて!」

と、反応を示せば、ジルもまんざらではなさそうだった。



2人がそうはしゃいでいると、がらりとロージアの仕事部屋の引き戸が開き、

「あっ、ジル、また来てたのか。」

そう無愛想にロージアが顔を覗かせた。

「おお、ユズちゃんにカーボン見せようと思ってさ。あと、ランチの材料持って来た。」

やはりランチを持って来たのか。そう思う柚と、

「おまえ、ランチまで居座るのかよ?」

そう腕を組み、不機嫌と、迷惑を隠さないロージアには、さすがにジルも、眉根を寄せた。

普段陽気で人当たりの良いロージアなのだ。長年の付き合いもあり、ジルにはロージアの不機嫌の理由に心当たりがないことでもない。


「そうだ、カーボン持って来たならさあ。それちょっとユズに分けてもらえないか?」

幾分、不機嫌を和らげそう言うロージアに、ジルは、

「えっ?」

理由がわからなくて、ロージアの態度の変化にも、意外だった。

「ユズがどうしても作りたいものがあるんだ。それの材料にカーボンが良いんじゃないかと思って。」

はあ~ん。と、ジルは内心納得した。

ただ、カーボンは貴重素材だ。

この、アルハランにしかない素材。しかも、それを加工できる職人はジルしかいない。

そのことはロージアだってわかってるはずで、それを意図も簡単に分けてくれと言うロージアの真意を、ジルだって少しは疑う。


「兎に角、ユズにカーボンがどんなか、見せてあげてくれないか?」

「ああ。そのつもりで持って来たからね。」

ジルはそう言うと、担いできた大きな袋をテーブルの上に降ろし、中身を探った。


ジルが取り出したそれは、柚が想像していたよりも真っ黒だった。

ローじゃが言っていたように、糸状のもの。紐状、シートのもの。布もあった。

色はすべて真っ黒だが、時間は掛かるが別の色も可能らしい。

「すごーい。」

柚は、目をきらきらさせてそれらを見ると、

「触ってもいい?」

「良いよ。」

柚が手に取った繊維状のものは、つけまつ毛になんとかなりそうな気がした。


「ねえ、これって、髪の毛の毛先みたいに加工できる?」

「うん。出来るよ。」

そう言って、ニっと笑うジルに、柚も笑い返した。

そうして、柚はロージアを見る。

ロージアもそれを確認すると、

「ジル。やっぱりカーボン、少しユズに譲ってもらえないか?」


そのロージアの問いに、ジルの顔は、一瞬真顔になる。

しかし、すぐに笑顔に戻ると、

「いいよ。 ただ、ユズちゃんがオレに抱きついて、お願いってキスしてくれたら。」

えっ?と、柚の表情に不安が陰り、ロージアは険し顔をした。

「それから、ユズちゃんが、ここじゃなくて、オレん家に住んでくれたら。」


それを聞いて、ロージアの表情は、益々険しいものとなった。

「いっそのこと、ユズちゃん。オレと結婚しない? そうしたらカーボンなんて使いたい放題だよ? ねえ? 必要なんでしょ?」

「ジルっ!!」

険しい形相で咎めるロージアに、ジルは笑顔で答えると、

「なんで? 別にユズちゃん、ロージの家に居なくちゃいけないわけじゃないでしょ? だったらオレん家の方が都合がいいんじゃない? いつでもカーボンがある。ここから家まで、100mって言っても森の中だ。女の子がひとりで行き来するには不安だよね?」

そう言うと、ジルは、柚とロージアの顔を交互に見た。

そうして、ククッと笑うと、

「じゃあさ、100歩譲って、ユズちゃんが家に住むっていうだけでいいや。」


もうロージアは何も言えなかった。

ただ、険しかった表情に、今は少しの不安の色が伺える。ジルの言う通り、柚がここに留まる理由はないのだから、あとは柚に託すしかないのだ。





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