11、ユズ的な悩み。
夕食はロージアが用意してくれた。
そう言えば、お昼も夕食も、柚のいた世界の食事と、どことなく何かが違う。
とはいえ、元の世界で、柚自身が料理していたわけではないので、それが何だか、柚にはわからないのだけれど。
そんなことをぼんやり思いながら、柚は身体を火照らせ、湯上りの湯気を立ち昇らせながら、先にいただいたお風呂から頭を拭きながら出てきた。
「あれ?」
部屋に入った早々、ロージアに声を掛けられた。
その声が不思議そうで、
「先にありがとう。 どうしたの?」
柚は、お礼と共に、それを確かめた。
それにロージアは、なんだかたじろじ、そわそわとさせながら、
「うん。 なんか……ユズが幼くなってる。」
そう言って、頬を赤く染めた。
―――おさなく。いったい何歳に見えるのだろう? もともと16なのに……。―――
柚はそう思っていたが、突然ハッとすると、自分のバックに向かって猛ダッシュすると、がさごそと中を漁り始めた。
そして、大きなクリアー、ラメ付の鏡を取り出して、自分の顔を確認した。
柚はもともと、そんなに濃い化粧をしているわけではない。
しいて言えば、あれだ。
鏡に映った柚は、キュートな天然まつ毛だった。
さっきまでは、アメリカンドールタイプのつけまつ毛装着で、お人形顔だったはず。
「ねえ。ロージア。もしかしてこれ?」
柚はそう言うと、白い猫型のケースに大事にしまってあったつけまつ毛を片側だけ取り出して、左の瞼に宛がった。
それを見たロージアは、
「あ――っ、ユズだ。」
やはり原因は、つけまつ毛だったようだ。
「ええ~っ!? なんで? えっ? なにそれ?」
びっくりするような、慌てるようなロージアの反応に、柚は、この世界につけまつ毛が存在しないのか? それともロージアが男だから知らないのかが分からなかった。
「これね。 つけまつ毛って言って、私のいた世界では、女の子のおしゃれアイテムのひとつなの。この世界にはないの?」
柚にそう言われて、ロージアは、腕組みすると、首を傾げた。
「どうだろう? 王都で売ってるのなんて、見たことないけどなあ。」
ロージアにそう言われると、柚の表情は途端に影を落とした。
それは柚にとって一大事なのだ。
今、柚の手元には、何個かのつけまつ毛ストックがある。
それを大事に使っていけば、しばらくは持つかもしれない。
けれど、いつ元の世界に帰れるかわからないのだ。そうなれば、ストックだって尽きてしまうかもしれない。
それは柚にとってただ事ではない。
―――つけまつ毛なしでなんて、人前に出られない。―――