10、どうしょうもない不安。
ジルが帰ると、ロージアも仕事を進めたいと、仕事部屋へ戻っていった。
柚は、お昼の後片付けが終わっても、家の外に簡易で置いた、組み立て式のテーブルから離れることができなかった。
―――聞くの忘れちゃった。 空から落ちてきたお姫さま。異世界人だとしたら、元の世界に帰れたの?―――
柚はそう思ったが、それを確認するのは怖かった。
「私、帰れるのかなあ?」
その言葉を、口に出して言ってみると、それが柚の胸に、小さな棘のカケラになって残った。
「ユズ。 ―――泣いてるの?」
どれぐらいここでこうしていたのか? 柚が気づくと、空はすっかり夕焼け色だった。
見上げたロージアの顔は、柚を心配してくれていた。
「うんん。」
そう言って、首を横に振った柚の頬を、ロージアが親指で拭った。
知らないうちに泣いていた。
「ごめんねユズ。気づいてあげられなくて。 知らない世界にひとりで落ちて、不安でいっぱいのはずなのに。」
柚は椅子に座ったまま、そう言ったロージアの胸に抱きしめられた。
トクントクンと、ロージアの心音が柚に心地良く伝わった。
その心音が、ひとりではないのだと訴えているようだった。
それを強く確かめるために、柚もロージアの背中に腕を回した。その瞬間にロージアの心音が、ほんのわずか、スピードを増したことを柚は気づかなかった。
けれど柚は、その存在を抱きしめることで、自分がひとりでないと強く確かめることができた。
この時はまだ、それが柚の一方的な安心だと思っていた。