9、昔話。
「じゃあ、オレそろそろ帰るわ。 ユズちゃん遊びに来ない? カーボンも見せてあげられるし。」
ジルはそう言うと、にっこり柚に笑い掛けた。
「見てみたい。ロージアも行く?」
柚がそうロージアに振ると、ロージアは途端に表情を険しくさせ、
「オレは仕事を少しでも進めたい。 ユズだって、友達の手掛り、分かるかもしれないだろっ。ここにいた方がいいよ。」
その言葉に、ジルの目が少し、ニヤついた。
が、
「ユズちゃん、友達探してたの?」
「う、……うん。」
柚が少し、躊躇して答え、ロージアはそれを横目に、自身の顔を掌で覆うと、ひとつ、溜息を吐いた。
仕方なしに、2人はジルに、柚がどうやら異世界からやって来たらしい。という話をざっとした。
「ふ~ん。それで、もしかしたらユズちゃんの友達2人もこっちに落ちて来てるかもしれないんだ。 どーりでね。ユズちゃん、王都でも見ないタイプのかわいさだよね。しかも、その顔でそのおっぱいのでかさは反則でしょ?」
ジルにいきなり、変な方向に話を振られ、柚は、顔を赤くすると、急いで胸を両手で隠した。
「ジルっ!! 失礼だろ。ユズも、気にしないで。」
「そんなこと言いつつ、ロージだってユズちゃんのおっぱい気になってただろ?」
「オレはちゃんと、ユズの顔を見てた。」
「むっつり。 じゃあオレ帰るわ。ユズちゃん、こんなむっつりと一緒にいないで、オレんとこおいでよ。」
そのジルの誘いに、柚は眉根を寄せると、
「行かない。」
そうはっきり拒絶した。
それに、ジルの目が、またニヤリとする。
「あ~あ。嫌われちった。じゃあ、オレ帰るね。ユズちゃん、こんど来るとき、カーボン持ってきてあげるわ。」
そう言って、帰ろうとしたジルを、柚は引き留めた。
「待って。」
それには、引き留められたジルも、ロージアも驚いた。
「どうしたの?」
「……異世界人は、落ちてくるの?」
「えっ?」
「今、ジルが言ってたよ。 ……ロージアもさっき言ってた。」
ロージアとジルは、お互いの顔を見合わせた。
それに答えたのはジルだった。
「そうだなあ。王都に行くと、異世界人の話を稀に聞くよ。
あっ。だからって、異世界人に会えるかって言ったら、そんな訳じゃない。というか、たぶん自分が異世界人だとしても、そいつは自分が異世界人だってことを黙ってる。訳は後でロージにでも聞いて。たぶんユズちゃんもそうした方がいいと思うし。
でね、本題だけど、オレらが普通に異世界人は落ちてきた。って言っちゃうのは、王都の昔話が元なんだ。」
「昔話?」
ジルは、ゆっくりと頷くと、ふたたび話し出した。
「そう、昔話。
この国を治める、王都の王宮。その中に、聖なる泉 と呼ばれる泉がある。昔はただの泉だった。その泉は、湧水から泉になったとされている。
ある時、その泉に、一人の女が落ちてきた。ちょうど、王子が水浴びをしている時に、王子の目の前に落ちて来たんだ。
2人はすぐに恋におち、女は、姫になり、そして2人の出逢いの泉を、聖なる泉。落ちてきた姫を巫女として、神殿を建て祀ったんだ。
それからというもの。
この国の王子の結納の儀は、その聖なる泉で行われるようになった。
その話が王都に伝わり、当時、異世界人がたまに現れるという噂もあり、落ちてきた巫女は異世界人だろうと話されるようになった。それで、いつしか、異世界人も空から落ちてくる。と、言われるようになったんだよ。」