プロローグ
柚、美耶子、千尋はごくごく普通の、どこにでもいるような今どきの女子高生だった。
―――その時までは。
柚(16歳)は大きなこげ茶色の目、こげ茶色の髪は艶やかに胸元まで伸ばしていて、やや童顔を隠すように派手目な化粧、つけまつ毛が命な女の子だ。
ただ、童顔の割には胸が大きく、身長は160cmくらい。腰はきゅっとくびれ、なんとも悩ましいカラダをしていた。
美耶子(16歳)は控えめな大人びた目元に持って生まれた長い睫、赤い唇はそれほど化粧を必要としなかったが、化粧でさらに美人が倍増している、黒い艶髪を、腰まで伸ばした美人。胸は柚ほど大きくはないが、身長170cmくらいで、スレンダーなボディだ。
千尋(16歳)は、めんどうだからと2人のように化粧をすることはなかったが、大きな黒い目とアヒル口の唇、白い肌でそれなりにかわいかった。髪型はベリーショートで、さばさばした性格もあり、ボーイッシュな印象があった。一見、美男子に間違われることもある。ぺったんこな胸と、どことなく幼稚体型なところも、それに拍車をかけていた。
そんな3人は、人に問われれば、確かに、親友なんだと思われた。
「ねえ、帰りにどうしても行きたいところがあるんだ。」
学校の下校途中、柚が他の2人に向かってそう言う。
いつもは部活があって、あまり一緒に帰ることのない千尋が今日は一緒で、うれしかったのもあった。
「まさか柚、またつけまつげ見に行きたいとか言わないでよ?」
「やぁ~。 なんでわかったの? 昨日見た雑誌に載ってたの。」
「はあ~。」
千尋は豪快に溜息を吐いた。
「やれやれだよ。 別にいいけどね。ただ、それを私に付けたいとかは、言わないでくれる?」
「え~。 なんでわかったの?」
それを聞いて、千尋はますます呆れ顔になった。
「ごめん。 私パス、今日は予定があるから。」
2人を傍観していた美耶子が、とりあえず2人の会話がひと段落したのを確認すると、そう言った。
「ああ、彼か。 それは仕方ないね。」
千尋がそう言ったので、柚もうんうんと頷いた。
そんな柚の心の奥では、小さな棘がその身に突き刺さっていた。
最近、美耶子には恋人ができた。
高校の違う 尚 だ。
その尚は、もともと柚と同じ中学で家もご近所。
そしてずっと、柚の想い人だった人。
ある日、柚と美耶子が一緒に遊んでいたところ。
偶然尚と鉢合わせた。
気が付いたら2人は付き合い始めていた。
仕方のないことだと、自分には尚を惹きつける魅力が無かったのだと、柚はあきらめることにした。
それでも、2人が一緒にいるところには、できれば遭遇したくはない。
もし、今遭遇してしまったら、その身に突き刺さる小さな棘が、肥大化し、柚の身を、引き裂くだろう。
そんなことを思いながら、柚は千尋をチロリと見る。
「わかったわかった。 しょうがないなあ、つけまつげは付き合うよ。」
千尋はそう言うと、にっこり笑った。
その時3人は、まだ気づいていなかった。
先ほどまで晴れ渡っていた夕焼け空が、今は嘘のようにどす黒い雲で覆われていることを。
その空は、すぐにゴロゴロと嫌な音を発し始めた。
「あれ? なんで曇ってるの? ってゆーか、あそこらへん、電気が走ってるみたいに雷が見えるっ!」
そう千尋が叫んだ直後、稲妻を纏った黒い雲から、大きな雷が3人の上に、ビカビカと降り落とされたのだった。