最中には、内と外がある
どうしよう。
「はあっ……はあっ……」
撮影遅れちゃう。
その目的の場所に走りながら向かう。
完全に遅刻だけど……とにかく早く……。
鞄を肩に掛け、地面をひたすら蹴った。
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「はあっ……はあっ……すっすみません。遅れまし……」
「さーくーらー!?」
「えっ。ま、真琴さ」
「えっ、じゃない! 何分遅れてると思ってるの!? 時間忘れたの? 何してたの? どうしたら一時間も遅れるの!?」
真琴さん怒ってるとは思ってたけど。
かなり、そして本気で怒ってる……。
「咲羅!」
「は、はいい」
「とにかく早く着替えて準備! メイクの橋川さん待ってるから」
「はい……」
怒ってる。これまでにない位に怒ってる。
控え室に足を運び、ハンガーに掛かっている服を手に取った。
フレアスカート型の白いワンピースだ。
凛。その名前で活動している女優。
本名、西川咲羅。
学校では花園綾美という名前でいる私こそ、女優の凛。
別に隠すこともなく普通の学校に通えばいいけど、なるべく目立たないで行動したいという私の意義の元で、半年前に共学になったあの学校に花園綾美という偽名まで使って通うことになった。
そこまでして目立ちたくない願望を通したかったわけでもなかったんでけどな。
本名は西川咲羅。学校では花園綾美。芸名は凜。
芸名位本名でもいい気もするけど……。
「咲羅ー。準備まだ? 早くしなさーい」
早くしないと。
鏡の前で一回転して恰好を確認。
大丈夫。
「はーい。今行きます!」
スタジオ。
「では台本#3のbから行きます」
三話……。相手役の沢石海さんとのシーン。
沢石さんとは共演も顔を合わせるのも初めてだな。
実際きちんと顔を認識するのも。
あまりきちんとテレビもみないからどんな人かもよくわからない。
最近一緒に共演するのは一回会ったことがある人達だったから……。
どうしよう、何話そう。
休憩のとき沈黙したらどうしよう。
共演した後に初めましてもおかしいよね。
でもいきなり馴れ馴れしく話すのも軽いって思われそう。
あれ、というよりも初対面の時どうしてたっけ。
なんかいつも相手から話しかけてくれてて……。
と……いう事は、私から話しかけたことない。
「咲羅! 撮影はじめるわよ」
ど、どうしよう。
でも今はこんなこと考えてる暇ない。
とにかく撮影に集中。
その時になったら何か話題がでるはず。
「はっはい。今行きます」
セットの方へ駆け足で向かう。
と同時にドンっと何かにぶつかった。
「おっと」
上から聞こえる声。
どうしよう。今、誰かにぶつかっ……。
「あっごめんなさい」
ふと上を向いてその顔を見る。
「あ、いえ。そちらこそ大丈夫?」
「…………」
か、か、顔。顔近い。
どうしよう。スタッフの人かな。
あれ、でもこの人……。
「……あれ。もしかして西川咲羅さん?」
やっぱり。
「沢石さん……ですか?」
戸惑いながらも自然とその質問を口にする。
「やっぱり。はい。僕、沢石海です」
彼はにこりと目を細めて笑う。
「…………」
ど、どうしよう。
なんとなく、顔の体温が上がっているのがわかる。
私今、顔絶対赤い。