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第九話 クウヤの個人授業②

 クウヤとソティスの授業はまだ続いていた。


「もうすぐ、教学所に通われることになりますがクウヤ様にはいろいろ気を付けていただきたいことがあります」


「どういうことに?」


 ソティスは子爵の立場と植民都市周辺の状況について解説し始める。


――この植民都市「リクドー」は大魔戦争終了後、帝国が表向きの理由として難民の避難地を支援するために作った都市が発祥であり、戦災復興と各国協調の象徴として長い間存在してきた。しかし、時の流れはそんな当初の役割を忘れさせるのには十分なものであった。また、帝国の思惑も徐々に諸外国に表面化し、くわえて戦災復興や国際協調を名目に様々な利害関係者が入り乱れるため、策謀の坩堝となっていた。様々な利害が錯綜するため、富裕者や権力者本人やその眷属には常に拉致や恐喝の危険性がつきまとった。また野盗の類も出没するため、治安はお世辞にもいいとは言えなかった。そのような街を統括するドウゲンの立場は非常に微妙なところがあり、政治的な綱渡りをしているような状態であった。――


「ということで、クウヤ様も軽挙妄動(けいきょもうどう)は慎んでいただきたいのです。万が一のことがありますと父上様だけでなく、お国にも何らかの影響を及ぼす恐れがありますので特に注意してください」


 クウヤは難しい政治的なモノについてはほとんど理解できていなかったが、ソティスの真剣な口調に何やら得体のしれない危険な雰囲気を感じ取り、ソティスの話に同意する。


「特に魔法の発動は緊急時以外、厳に慎んでください。それが原因で狙われる可能性もあります。桁違いに強い魔力は拉致の対象です。捕まったうえ意識を封印されて、兵器として使われます」


「こわ…」


 ソティスはクウヤを脅し、珍しくクウヤが怯えた様子をみせる。クウヤにとって、ソティスの話は絵空事とは思えなかった。


「今までお話してきたことはどうしてもクウヤ様には守っていただきたいのです。お父上様だけでなくクウヤ様のためにも」


 ソティスはいつになく熱弁し、くどいほどクウヤに釘を刺す。それ程、クウヤの置かれた立場は微妙で危ういものであった。ただ、当の本人はそういったことにまだ無頓着なところが見え隠れし、ソティスの頭を悩ませていた。クウヤに対する少々の疑念を隠しつつ、ソティスはクウヤに語り続けた。


「ということで、明日の朝から街の地理を覚えるためと身体の鍛錬のためにリクドー市内を回ります」


 唐突なソティスの提案にクウヤは面食らい、唖然としている。特別な保護などを期待していたクウヤは斜め上を行くソティスの提案に大きく戸惑った。その理由が皆目見当がつかないクウヤはソティスにその理由をソティスに尋ねる。


「あまり大勢の護衛を付けると目立ってしまいかえって護衛できません。できるだけ動きやすく目立たないようにするためです。それとクウヤ様お一人で対処できるようになっていただくためです」


 さきほどのソティスの熱弁に矛盾するような発言にクウヤは首を傾げ、ソティスの言葉を待った。


「先程の話と矛盾するようですが、クウヤ様お一人で事態に対処できるようになるのは父上様のたってのご希望でもあります」


 子爵の意向と知らされ、渋々ながらクウヤは朝訓練に出ざるを得ないと思った。ただ、どうして一人で事態に対処しなければならないのかよくわかっていなかった。


「父上はなんで、僕一人で対応できるように望んでいるの?」


「父上様の真意は私では図りかねます。でも、この街の状況から考えると十分な形で護衛できない分、クウヤ様ご自身で身を守れるようになって欲しいとお望みなのではないのでしょうか?」


 今ひとつ、父親の真意を図りかねるクウヤはソティスの言葉を聞いても腑に落ちないものがあったが、現状では父親の意向に従う以外何も思いつかなかった。仕方なく、ソティスにどうすればよいのか尋ねる。


「とりあえず、街中を走ってもらいます。途中で野外魔法訓練を行います。いわば実践訓練です。また訓練場所に移動するまでは魔力を練りながら移動してもらいます」


 いつものように、ソティスは素っ気なく語る。とたんにクウヤの表情が曇り、いかにも嫌そうな態度になる。そんなクウヤの変化をソティスはいつものように受け流す。


「さて、もうすぐお昼です。食堂へ行きましょうか」


 クウヤはそティスの言葉に頷き、クウヤは図書室をでる。食堂までの廊下は暖かい日の光に照れされ、光と影の織り成すコントラストが奇妙に廊下を装飾していた。その光と影のコントラストの中、クウヤとソティスは食堂へ向けて歩いていく。


(やれやれ、どうなることやら…)


 クウヤは先のことを思い暗澹たる気持ちになった。

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