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第八十九話 蠢く世界 ①

クウヤは魔戦士になるべくその一歩を踏み出そうとしていた同時期、世界も蠢動を加速する。

 クウヤが仲間の説得をしているころ、公爵の執務室では公爵と執事長が話し合っている。執務室の専用イスに深く腰掛けながら公爵は額にしわをよせ執事長の話を聞ている。


「奴らの様子はどうじゃ? 何か分かったか?」


 公爵は執事長にクウヤたちの様子を尋ねる。公爵はそれとなくクウヤたちの様子を執事長に探るよう指示していた。執事長は配下のメイド、下男などからクウヤたちがどんな話をしているのか探っていた。


「はい、ヤツらもこちらを警戒しているのか、集まって話している内容については子細はつかめてません。が、どうやらあの小僧と陛下の間に齟齬が生じたようです」


「そうか……それは重畳。引き続き内容の調査とあの小僧と皇帝との間を割くよう手配しろ」


「承知いたしました。そのように致します」


 公爵の顔は黒い笑みで歪む。執事長は恭しく一礼する。


(何とか皇帝と小僧との間に楔を打てればいいのだが……。あの小僧にワシの下でかぎまわられるといろいろ面倒なんでな。皇帝とのつながりが切れればあの小僧なぞ恐れるに足らん。適当にあしらえばいい)


 一人思考しようとしていると執事長が目の前にいることに公爵は気づく。


「何かまだあるのか?」


 執事長は言いにくそうに控えめに切り出す。


「は……ご主人様、メイドどもが小耳に挟んだだけの話ですが……」


 公爵の顔は疑念で少々歪み、執事長をにらむ。そのせいか執事長が続きを切り出せずにいたので話の続きを促した。


「何か? 構わん、話せ」


「は。あの小僧どもの会話の中に『大魔皇帝の復活』、『魔戦士になる』などの言葉があったとのことです。何のことかは分かりかねますが、一応お知らせいたします」


「……『大魔皇帝の復活』……『魔戦士になる』……? 何かの暗号か? そんな旧時代の遺物を持ちだしてどうするつもりなんだ小僧どもは?」


「分かりません。ただかなり頻繁に出てきたとのこと、あやつらが何か良からぬことを画策し、その隠語かもしれません。それについても……」


「ああ。調べろ。とにかく小僧どもがやろうとしていることがわかるかもしれん。上手くすればソレをネタに皇帝へ揺さぶりをかけられるかもしれん」


「承知いたしました」


 執事長は公爵の下を辞する。


 公爵は執事長が部屋を辞した後、一人物思いにふける。


(小僧ども、旧時代の遺物で何を……? まさかとは思うが我が“計画”に気が付いて何か仕掛けてくるということか? そんなことはさせんぞ。我が生涯、我が心血をささげて復活させた旧時代の知識、誰にも邪魔はさせん!)


 公爵は極秘で進めている自らの計画への影響を懸念した。この計画で公爵は旧時代の知識の復活を目指していたが、クウヤたちの動き次第でその価値を損ないかねないと考えた。

 いつになく危機を感じた公爵は今まで以上に策を巡らすことになるがそれはまた別の話。とにかくこの件により、公爵はクウヤと皇帝の間に楔を打ち、クウヤの動向に今一層注視するために暗躍することになる。


――――☆――――☆――――


「お父様、お耳に入れておきたいことが……」


 ルーが一人個室で母国カウティカの代表である父親に極秘通信を行っている。


 ルーは非常時に母国からの連絡や、逆にルーから緊急連絡に使えるよう、超長距離通信魔法道具を極秘に持参していた。このことはクウヤとエヴァンは全くこのことを知らない。この通信魔法道具は一対になっており、その一対以外では通信内容を傍受することができないため、情報の秘匿が必要な通信には最適だった。ただ、通信するために必要な魔力を魔力をためた魔導石からとるが、その消費量が極めて大きいために高価な魔導石を大量に買い付ける事のできる貴族などの一部の富裕階級の間でしか普及していなかった。


「……ルーシディティーか。何用か? この通信は非常時以外は使うなと言ってあるはずだが。それともこれを使う代価に見合うほどの情報をつかんだとでも?」


 代表は煩わしそうに答える。ルーは代表の反応に一抹の焦りを感じ、なんとしても自分の努力を認めてもらわねばと気を取り直して話を続ける。自分が入手した極秘情報をいち早く代表である父親に伝えることで自分の有用性を証明しようとしていたからである。


「はい。是非お耳に入れていきたいことが」


 ルーの言葉に代表は一瞬間が空く。ルーはその間に、一瞬腹の底が冷える思いをした。


「……話せ。ただし、手短にな。通信に使う魔導石代がばかにならん」


 ルーは内心ホッとしながら大魔皇帝復活の話を代表に話す。ルーは微かに期待した。この情報をもたらすことで父親にねぎらいの言葉一つぐらいかけてもらえるものと。しかし、現実はそうはならない。


「……その話は本当か? 裏は取れているのだろうな?」

「リクドー司政官子息からの情報です。確度は高いかと……」

「……わかった。引き続き、その情報を集めろ」


 それだけ言うとカウティカ代表は一方的に通信を切る。ルーを労う言葉は何一つなかった。


「あ……」


 ルーは通信機を握りしめ、少しの間たたずむ。


 ルーにとってこのような経験は日常茶飯事であった。カウティカの父はルーに対して素っ気ない対応しかとらず、ルーと真正面から向き合うことはなかった。それが彼女と彼女の父との関係だった。はたから見れば異常であったとしても、彼女にとってはそれが避けがたい日常であった。


 仕方なくルーは通信機を自分の荷物の中に念入りに隠した。それは無意識に抑え込んだ自分の思いを隠すように厳重に荷物の中へ隠す。


 そして、何事もなかったように仲間の下へ戻った。


 ルーが通信を終えた同じころ、ギルド連合国カウティカの首都メルカトールウルブスの代表公邸にその人はいた。


「まったくあの娘は使えるのだか使えないのだか……はぁ。あそこまで大きくしてやったのだから、その経費分はもっと動いてほしいのだがな……」


 そうつぶやき、通信機をもてあそぶカウティカ代表ペルヴェルサ・プラバス=ネゴティアであった。


「高価な魔導通信を使うのならもう少し使える情報をよこせばよいのに……。ま、あの使えない娘にしてはよくやったということにしておくか。誰か! 誰かおらんか!」


 その声にペルヴェルサの近習がそばに現れる。


「諜報担当にすぐ連絡だ。世界が動くぞ! 稼ぎ時がやってくる」


 近習は挨拶もそこそこ彼の下から飛び出していった。


(どこまで本当かわからない怪しい情報ではあるが、万が一本当であれば我が国にとっていい機会だ。戦争まで行かなくても戦乱になれば物資がこちらの言い値でさばける。早いところ食料などは買い占めておくか……いや魔導石が先か……? いずれにせよ、情報の裏を取らねば。忙しくなるぞ。くっくっくっく……)

 

 彼の目はいずれつかむであろう巨万の富を見つめていた。それ以外のものは何も眼中になかった。

 カウティカは以前にもまして諜報活動に力を入れ、この世界の裏で暗躍することになる。

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