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第八十八話 仲間たちの疑念

クウヤは魔戦士になる決意を述べるが仲間たちはそんなクウヤを理解できなかった。

「……魔戦士なるって言うけど、どうするんだよ? 何かあてでもあるのか? それに『大魔皇帝復活阻止』って何言っているのか、さっぱりわからんぞ」


 あっさり常識的な疑問をぶつけたエヴァンを全員が見つめる。エヴァン以外は彼からそういう常識的な質問が出るとは全く思っていなかったからだ。


「エヴァンからそういう常識的な質問が出るとは思いませんでしたが、同感です。クウヤ、本当にどうするのですか? 伝説上の話でしかない魔戦士なんてなれるものなんですか? それに大魔皇帝復活と言われてもにわかには信じられません。何か確かな証拠でも在るのですか?」


 ルーもクウヤが何を言ってるのか理解できず、彼に詰め寄る。クウヤは思い惑う。大魔皇帝復活を説明するためには遺跡内の話をしなくてはならないからだ。口止めされている話をしなくてはならないクウヤはこれ以上ないぐらい思い惑い苦悩する。


「……今から話すことは、絶対に口外厳禁だ。国家機密レベルの秘密だと考えておいてくれ。この話が広まると世界各国が大混乱する可能性がある。世界にある国々の命運を握ってしまうことにもなりかねない。その覚悟のうえで話を聞いてほしい」


 クウヤは思いつめた表情で彼の仲間にひそやかに語りだそうとする。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 一番の常識人であるヒルデがクウヤを止める。クウヤはフッと顔を上げ、ヒルデを見る。


「何か問題でも?」

「問題大ありでしょう! 私たちみたいな子供が国家機密どうこう言うって、どう考えてもおかしくない? クウヤくん、無理に話さなくてもいいのよ。私はそんな話聞きたいと思わない。どうして子供の私たちが国を背負わないといけないよの!」


 ヒルデは柄にもなく感情に任せて言葉を吐き出す。その言葉にクウヤは顔を伏せ目を閉じ自嘲気味に語る。


「……ああそうだな、その通りだ。こんなことにかかわったりしないで生きていけるのならそのほうがいい。俺と違ってみんなはそんな生き方を選べるんだ。だから、無理に付き合わなくてもいいよ。多分そのほうが幸せだと思う」

「……でもクウヤくん、そうなったらあなた一人で……?」


 クウヤの一言にヒルデは愕然とする。クウヤは乾いた笑いを返すだけだった。


「ま、そうなるけど仕方ないよ。こんなことに巻き込むわけにはいかない。みんなにはみんなの幸せがあるんだし、それにこれからやろうとすることにかかわれば、もう普通の生活へは戻ることはできないと思うんだ。できる限りそれは……」

「クウヤ、見くびるも大概にしてください! ずいぶんと低く見られたものですね」


 クウヤたちは一喝した声の主のほうを見る。そこにはルーが腕組みをして、クウヤを見据えていた。


「私たちがそんなに頼りないですか。もう少し私たちの力をわかっていてもらえると思っていたのに……情けないです。私たちが国家間のいさかいと無関係に普通の生活を送れると本当に思っているのですか? そうなら、クウヤも相当認識が甘いですね」


 クウヤはルーを見る。彼女は真っすぐクウヤを見据えている。


「少なくとも私はもう既に国を背負って生きてきたんですよ。それを真っ向から否定するのですか? それは私の存在を否定するのと同じことです!」


 一気に感情を吐き出し落ち着いたのか、ルーは一息入れる。少しトーンダウンして更に続ける。


「……とにかくクウヤと行動をともにしている以上、この場で国家機密を聞こうと聞くまいと、他の国は機密を共有している可能性の高い人物として扱うでしょう。クウヤ、分かりますか? もう既に巻き込まれている(・・・・・・・・)んです」


 ルーの宣告はクウヤにとってかなり酷な宣告だった。しかしそれを否定することもできない。たとえ否定しても、その現実が変わることはない。そのことが痛いほど理解しているクウヤであるが、改めて直に突きつけられるとこれほど辛いものはなかった。


「……そうか。もう遅いのか……」


 そう一言つぶやくと、クウヤは黙り込んでしまった。


「クウヤ、もう私たちは一蓮托生なんですよ。そのことは覚えていてくださいね……遠慮は無用です」


 そうクウヤには話すルーだがヒルデが一瞬視界に入る。その瞬間、ルーは目を伏せる。ヒルデは悲しい目をしていたが何も言わない。


「……ルーの言いたいことはわかった。それでも、巻き込む人間は少なければ少ないほどいい。ヒルデとエヴァンはどう思っている?」


 名指しされた二人は一瞬身を硬くする。エヴァンは憮然とし、ヒルデは上目遣いにクウヤとルーを見る。


「私は……できれば……できれば平穏無事に暮らしたい。国がどうとか言われても私にはよく分からないし、直接どう関係しているかわからないことで自分の生活や生き方が左右されるのはいや」


 いつも自分の意思はあまりはっきり明言しないヒルデがこの時ばかりは違っていた。自らの意思に反し面倒事に巻き込まれたくない一心での発言だった。


「……だからクウヤくん、魔戦士になるなんて言わないでほしい。私はずっと友達でいたいし、 平穏無事に暮らしたい。世界のことなんて知らない。るーちゃんにもそんなヤヤコシイことに関わらないでほしい。私は……」


 ヒルデはまくし立てるように一気に自分の思いを話すとうつむき、黙り込んでしまった。


「……そっか。気持ちは分かるよ、ヒルデ……」

「それなら……」


 ヒルデはクウヤの言葉にハッと顔を上げ、彼を見る。クウヤが魔戦士になることを諦めることを仄かに期待する。しかしクウヤの言葉は無残に淡い期待を粉砕する。


「それでも、魔戦士になる気持ちは変わらない。と言うより変更できない」

「どうして? ごく普通の人間じゃない、クウヤくんは……魔戦士にならないといけない理由なんて……」

「……あるんだ、理由が。正確に言えばならなければならない存在ではなくて、なるための存在と言ったほうが正解だ」

「どういうこと? よく分からないよ、クウヤくん」

「私にも説明して下さい、クウヤ」

「何言ってんだ、お前? どういうことだ?」


 三者三様、口々に疑問を述べる。


「……魔戦士に『なるための』存在。もっと適切に言えばそうなるべく『造られた』存在ってこと。人間じゃなく、魔戦士の素体となる『生きた人形』……それが俺ってわけ。だから魔戦士にならなければ自分の存在を否定することになる」


 自分が造られた存在であることを告白するクウヤ。そこまで告白しながらも転生者であることは言わない。転生者はこの世界では悪の象徴、口にすることも憚られる存在である。それゆえ、仲間の前でもそれだけは口にすることはできなかった。

 クウヤの告白を聞いたものの三人は呆気にとられ、次の言葉が見つからないでいた。


「クウヤは……生きた人形……?」

「造られた……? クウヤくんが……?」

「クウヤが造られた……? そんなことできんのか?」


 三人はクウヤをただ見つめ、己の耳を疑うしかできなかった。クウヤはただ三人を見つめ、己の話を受け入れてもらうのを待つしかなかった。


「……クウヤから聞いても、にわかには信じられない話よね。その話は学園長や陛下には話したの?」


 ルーが胡乱な目しながら、クウヤに聞く。彼女はクウヤがこの話を話した相手の反応で真偽を測ろうとしていた。


「……学園長には話してある。父上にもな。ただ、陛下には大魔皇帝復活の話をしただけで、魔戦士になる話はしていない」


 なんとなくルーの考えを察したクウヤは包み隠さず、現状を話した。ルーは腕を組み、クウヤを見据えながら話を聞いている。


「……陛下にはナゼ? 一番の協力者になり得たはずなのに」


 今一つ確信の得られないルーは更に質問する。クウヤも腕を組みルーを見据えながら答える。


「誤解を招くことかもしれないが、俺は陛下を信じられないんだ。明確な証拠がある訳ではないが、何か引っかかるものを感じたんでね」


 クウヤには気づかれなかったがルーは微かに眉をひそめる。ルーはほんの少しの時間目を閉じる。


「……直ぐには理解しがたいのですが、それは陛下に対する叛意と言うことですか?」

「いや、違う。少なくとも現時点で反旗を翻すつもりはない。むしろ陛下のやることに協力することでこちらの目論見に助力してもらおうと考えている」


 ルーがいつになく冷たい目でクウヤを射抜く。しかしクウヤも負けずにルーを見据え、反論する。しかしルーはそんなクウヤを冷笑する。


「ふっ……クウヤ、甘いですね。陛下のような方をそんな簡単に“使える”なんて思わないほうがいいですよ。権謀術数が渦巻く皇室で生き抜いてきた陛下とクウヤでは経験が違いすぎます。あえて言えば、よちよち歩きの赤子が熟練の冒険者と魔の森を探索すようなものです。無謀の極みだわ」


 その一言にクウヤは静かに怒りの表情を示す。


「……そうかもしれない。だがやらなければ、この世界が再び大魔戦争の惨禍に飲まれてしまう! それだけは避けなければ。それができるのは魔戦士となる俺だけだ!」


 最後のほうは半ばやけくそで叫ぶしかなかったクウヤ。ほかの三人はただそんなクウヤを憐れむだけだった。


「クウヤ、そこまで言うのなら何とか力を貸せないこともありません」


 ルーが組んでいた腕をほどき右手の人差し指を立てクウヤにある提案を始める。クウヤも興味を惹かれる。


「ほう……どんな方法で?」

「やることはそんなに難しくないわ。私がだれか覚えている?」


 ルーが少女とは思えないような蠱惑的な笑みを浮かべクウヤに尋ねる。クウヤは何を質問されているのかその瞬間はわからなかった。


「ルーがだれか……? ルーは……ルーは……ルーはカウティカの姫様! カウティカの力を借りろと?」


 クウヤの回答に満足げなルーは補足する。


「ご名答。で、物は相談なんだけど魔戦士になって大魔皇帝復活阻止したらどんな対価をもらえるかしら? それ次第で我が国は貴方の希望を全面的にサポートできるわ」


 ルーの言葉に別のところから声が上がる。ヒルデである。


「るーちゃん! どういうこと? クウヤくん相手になんてこと言うの? クウヤくん危ないことしようとしているんだよ! どうして? 友達なら止めないと!」

「……ごめんね、ヒルデ。私はカウティカ第三公女。世界が動くときには我が国の権益を拡大しなければならない立場なの。これはいくらヒルデに頼まれても変えようがないの……」


 そういうルーの目は光るものが見えた。ヒルデもそんなルーに何も言えなくなってしまった。


「……難しいことはよくわからんが、クウヤもルーも同じ穴のムジナだな」


 突如、沈黙を守っていたエヴァンが口を開く。


「クウヤよぉ、おまえさん自分が作られた人形だって言っていたが、オレはそうは思わん。だって今まで一緒にバカやって笑って、時にはケンカしてきたじゃないか。そんなことのできる人形なんて聞いたことないぞ。だからお前が自分のことをどう思おうと、オレはお前が人間だと断言する! だから、あんまり意固地になるなよ」


 エヴァンの言葉にクウヤは驚く。それだけでなく、その言葉にどこかホッとしたもの感じた。自分の出自がどうであれ人間とはっきり肯定する言葉だったからだ。


「それから、ルーよぉ、確かにお前さんはお姫さんだけど、お前さん一人で国を背負うつもりなのかい? お前さん一人の力なんてたかが知れているんじゃないの? だからもっと肩の力抜いてもいいんじゃない? 俺たち仲間だろう? 国とか立場とかそんなもの全然関係ないじゃん」


 ルーもまたクウヤと同じくエヴァンの言葉に驚き、安らぎを感じた。ここにはルーをいい意味でお姫様扱いする人間はいなかったからだ。


「んだから、難しい話は無しにしようや、なぁ二人とも」


 エヴァンは二人の肩をたたき、抱き寄せる。


「それで、クウヤよぉ、お前さん本当に魔戦士になって大魔皇帝復活阻止するのかい?」

「……ああ。それが俺のやるべきことだと思っている」

「分かった。それならもう何も言うまい。やれ! 力を貸してやる」


 エヴァンはそのまま黙り込んでしまった。クウヤはその言葉にかすかに肩を震わせるだけだった。


いやぁエヴァンがおいしいところを持っていきました(笑)

まだまだ話はこじれそうです。

それではまた次話お会いしましょう。

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