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第八十六話 皇帝の謀議

私事に忙殺されて、更新が遅れに遅れましたm(__)m

お読みください。

「昨日は見ものでしたね。あの公爵の顔。私の言葉に目を白黒させて。ふふ……」

「……そうだな。それはそれでいいんだが、なんで俺の隣に寝ているんだ? 詳しい説明を求めたいんだが。しかもそんな恰好で何をしているんだ?」


 クウヤは目覚めるとなぜか隣に寝ていたルーに話しかける。ルーはごく薄いレースのような寝間着をまとっていたが、あまりに薄い生地のため下着が丸見えだった。そんな格好でクウヤの横に寝ていた。昨日、公爵と軽い外交戦を繰り広げたルーは確か別室で寝たはずだった。一人一部屋ずつ与えられ、それぞれの部屋へ戻り、休んだはずだった。にもかかわらず――


 クウヤには全く身に覚えがない。確かに眠りにつく頃には一人だったはずであった。


「あらクウヤ、殿方が乙女にして良い質問とそうじゃない質問とがあるのをご存じなくて?」

「仮にそうだとして、今この状況について説明を求めることが、聞いてはいけない質問だとは思えないが……」

「……乙女は複雑なの」

「……俺はルーが複雑怪奇だと思うがな」


 クウヤは顔を引きつらせ、苦笑いするしかなかった。当のルーはすまし顔でこともなげだ。仕方がないのでクウヤはルーがいないものとして行動を始めた。


「とにかく早いところ着替えて、朝飯にしよう。今日は陛下との謁見があるんだ。きちんと準備しないとな」


 クウヤはルーを寝台に置き去りにして、身支度を始める。するとルーはなぜかうなだれ、涙をぬぐうしぐさを始める。


「……クウヤのバカ」

「なんでそうなる……」


 ルーさらにクウヤへ精神攻撃を仕掛ける。どこからともなく取り出したハンカチの端を軽く噛み、恨みがましい上目遣いでクウヤを見る。


「……つれないのね、昨晩はあんなに激しく――」

「だー! 俺が一体何をしたぁぁぁー! 俺は無実だぁ!」


 クウヤは予想外のルーの攻撃に思わず取り乱す。そんなことをしているとタイミングよくクウヤの部屋の扉が開く。


「おい、クウヤこんな朝早くから何を騒いで――おや? 取り込み中だったか? じゃ、またあとで」

「よくおいでなさいました、エヴァン君。ま、ずっと奥へ、奥へ」


 クウヤは踵を返し部屋を出て行こうとしたエヴァンの両肩を鷲づかみし、無理やり部屋の中へ押しとどめた。


「エヴァン、今ここで見たことは誤解だ。俺は無実だ」

「そうなのか? 俺は別にお前がルーとナニしてようと咎めるつもりはないんだが……」

「いやだから、ナニはしていないし、俺は潔白だ」


 ルーの精神攻撃にさらされた上に、エヴァンに対し弁解しなければならなくなったクウヤ。しかし、ことはこれで終わらなかった。再度、クウヤの部屋の扉が開く。


「クウヤ君朝から何騒いでいるの……あれ? なんで、るーちゃんがクウヤ君の――」

「だぁー! 誤解だ、潔白だ。俺は何もしていない!」


 必死に弁解するクウヤであったが、ルーは爆弾を投下しクウヤを追い詰める。


「ヒルデ、私はクウヤとただならぬ関係になりました。以後よろしく」

「えっ……! そうなの、ほんとぉ!? え? え? クウヤ君どういうこと?」

「だぁぁぁぁぁぁ! 俺は潔白だぁ! 何もしていないっ!」

「クウヤのイケズ。あんなに求め合ったのに……」


 火に油を注ぎまくるルー。ルーの一言が引き金になったのか、ヒルデのおばちゃんモードが発動する。


「クウヤ君だめだよ、男の子はきちんとセキニン取らないと」

「ちがうぅ! 誤解だぁ!」

 

 騒動から始まったクウヤの一日は彼の想像を超える一日となることに、まだ気がついていない。


――――☆――――☆――――


 公爵家から帝宮へ向かう馬車の中、クウヤたちは揺られている。クウヤは特に浮かない顔しながら、馬車の揺れに翻弄されていた。


「あらクウヤ、どうかしましたか? そんなにやつれて。これから皇帝陛下との謁見があるというのに」


 ルーは全く他人事でクウヤを気遣うようなセリフを吐くが、その言葉には抑揚がなく感情がこもっていない。クウヤは額に手を当て、湧き上がる怒りを抑えこむ。


「……朝早くから、神経を削られるような出来事があれば誰でもこうなる。しかし、よく他人事のように話せるな」

「他人事ですから。それとも、『身内』として発言しろと? それはそれで嬉しく思うのですが。特にお義母かあ様が喜ばれることですし」

「……あぁ、ソウデスカ」


 クウヤは頭を抱えるしかなかった。クウヤの精神は完全に抵抗することをやめた。


 定番のやり取りとなりつつあるクウヤとルーの夫婦漫才のような会話は続く。そうしているあいだに馬車は帝都エドゥへと到達する。


 帝都の整然とした街並みにクウヤ以外の三人は目を奪われる。その街並みはマグナラクシアや魔族の街ヨモツにまさることはあっても、劣ることはない。一度訪れた経験のあるクウヤにはそれほどではなかったが、他の三人には衝撃的な光景に映る。三人は車窓から見える街並みに只々驚かされるだけだった。


 そしてとうとう馬車は帝宮の正門へ到着する。


「でかい……」

「さすが、帝宮ですね。何もかもが贅を尽くしてある」

「カウティカにはこんな建物はないよー!」


 クウヤ以外の三人は初めての帝宮に感嘆の声を上げる。

 相も変わらず帝宮の正門は訪れるもの全てを威圧し、そこにそびえている。特に襲い来る外敵をひとつ残らず打ち払わんばかりの櫓門の砲台や矢狭間は見るものすべてを威嚇している。

 クウヤには無駄に飾った帝宮が疎ましく感じられた。


 四人それぞれの思いとは関係なく、馬車は正門をくぐり、帝宮の前に到着する。


 クウヤは事も無げに馬車を降りるが、他の三人は周囲を見回しながら恐る恐る馬車を降りる。


 さすがのルーでも帝宮の威圧感に抗うためにはそれなりに心の準備が必要とした。ルーですら、そんな感じだったのでヒルデには更に威圧感を増して感じている。普段、権威などに無頓着なエヴァンですら、帝宮の威容に押されている。

 帝宮の前で戸惑っていると扉が開く。中から現れた執事長に案内され、クウヤたちは謁見の間へ向かう。


 謁見の間でしばらく待つよう言われたクウヤを除く三人は極度の緊張に襲われる。特に国家を代表するような人物に直接顔を合わせることの少ないヒルデとエヴァンはなおさらだった。


「……さすがに皇帝陛下の御前となるといささか緊張しますね」


 さすがのルーをしても、この緊張感を抑えきれない。


「……だいじょうぶかな、とっても緊張する」

「俺もだ。陛下に謁見できるなんて、考えもしなかったな。ま、大丈夫だろう……きっと」


 いつの間にかヒルデはエヴァンと手を握り合っている。お互いの緊張を少しでも分かち合って抑えるようにも見える。


(おーおー、仲のおよろしいことで。しかし、ルーまでこんなに緊張するとはな。意外だ。ルーなら陛下の前でも一発かましてもおかしくないのだが……)


「クウヤ、何か良からぬことを考えていませんか? 外交に慣れているとはいえ、私でも皇帝陛下ともなれば緊張の一つでもします。人を何だと思っているのですか?」

「いやいや、そのようなことは決して……」

「思っていないのなら少し手を握りなさい。落ち着きたいので……」


 クウヤは心の内を読まれたかと冷や汗をかきながら、軽くルーの手を握る。その手は少し湿っていて、冷たかった。


「ルー……緊張しているんだね」

「いけませんか? 私だって緊張することぐらいあります」

「いや……なんかかわいいなと思って」

「……しらないっ」


 クウヤはからかうようにルーに話しかける。ルーははにかんでぷいっとそっぽを向く。クウヤに手をしっかり握られたままだったが。


「皇帝陛下、ご臨席!」


 その掛け声に反応し、一同はひざまずき、皇帝の出座を待つ。


「皆の者、遠路はるばるご苦労だった。この場はわしの個人的な集まり、つまり非公式な集まりじゃ。堅苦しいのは抜きでよいぞ」


 皇帝はいきなり砕けた口調でクウヤたちに話しかける。クウヤたちは拍子抜けし、大きく息を吐き出す。


「なんだ、そんなんなら早く言ってくれればいいのに」

「エヴァン君! 物には限度ってものが……」


 あっという間に緊張をほどくエヴァンとそれをたしなめるヒルデ。皇帝はそんな二人を見つめ、目を細める。


「まぁ、よいよい。この場は非公式な場所じゃ。些細なことは気にせんでよい」


 緊張の謁見は表面上和やかに始まる。皇帝の言葉にクウヤたちの緊張は少しほぐれた。


 少しの間、クウヤたちと皇帝は歓談する。学園生活のことだけでなく、魔の森での話も含め、マグナラクシアへ行ってからの生活を口々に皇帝に語る。ただ、話に夢中になるあまり、魔の森での話の時に皇帝の目が一瞬鋭くなったことにクウヤたちの内で気づいたものはいなかった。


「……さて、話が興にのって長話になってしまったの。そろそろお開きとしたいところなのだが構わぬか?」


 その言葉にクウヤたちは皇帝に跪き、謁見の間を出て行こうとする。


「ああ、クウヤよ。二人で話がある。後で、私室へ。執事長、クウヤの友人たちを頼む」


 皇帝の命を受け、執事長は配下のメイドに他の三人を別室に案内するよう指示する。


「んじゃ、また後で」


 クウヤはにこやかに彼らを見送る。三人も軽くクウヤに手を振り、メイドの後を追い謁見の間を出ていった。

 三人が出て行くのを確認すると、執事長の案内に従い、皇帝の私室へ向かう。


「早速だが、魔の森での話をもう少し詳しく聞かせてもらおうか」


 皇帝はクウヤが部屋に入るなり、魔の森での話を要求する。クウヤは拒否する理由もないので、かなり詳しく話す。その話を皇帝は静かに聞いている。ただしクウヤは自分が魔戦士となる有資格者であることは伏せた。遺跡内の話も、大魔皇帝復活の話だけに絞り、他は伏せる。


「……話はわかった。それで大魔皇帝復活は既定ということなんだな?」

「はい。時期については不確定ですが、遅いか早いかだけです。必ず復活します」


 クウヤは大魔皇帝復活を断言する。皇帝は顎ヒゲをいじりながら、考える目をしている。


「……そこで陛下にお願いがあります」


 クウヤは有り体に大魔皇帝復活と討伐のため、各国への働きかけを依頼する。しかし、皇帝は渋い顔をして首を縦に振らない。


「何か問題でも?」

「第一に仮に復活が既定だとしても何時という情報がない。第二に世界連合軍を編成するにしても、我が国が主導権を握ることに不快感を感じ、表向き賛成しても、裏では手練手管で妨害してくる国がある。第三に当面、被害が出てない現状では軍を編成する大義名分がない。他にも考えられるが大きな理由はこの三つじゃな。現状でできることは内々に会談を行い根回しするぐらいで、表立って大々的に動くことは無理じゃ」

「それでは、国々をまとめて大魔皇帝討伐の軍を編成することは絶対に不可能なんですか?」

「可能性ならないわけではない」


 皇帝はいったん言葉を切り、クウヤの反応を見る。クウヤは皇帝の次の言葉をかたずをのんで待っている。


「それは魔戦士の復活じゃな。魔戦士が復活して軍を率いるとなれば話は別かもしれんがの」

「本当なんですか? 魔戦士が復活すれば……」


 クウヤがなおも食い下がろうとすると皇帝は一方的に話を打ち切る。


「そこまでじゃ、クウヤ。ま、お前の気持ちもわからなくはない。少なくとも今後の検討事項にはしておいてやるので今はそれで我慢せい。それよりも、魔の森で動きに呼応するように公爵が蠢きだしよった。我が国にとって、そちらのほうが問題じゃ。あのタヌキの監視、頼んだぞ」


 皇帝はさもこともなげに厄介ごとをクウヤに押しつけ、有無を言わせない。


「下がってよいぞ。大魔皇帝復活の件は任せろ。お前は公爵の動きをしっかり監視していればよい。わかったな? わかったら下がれ」


 皇帝はクウヤを下がらせる。皇帝にそこまで言われては引き下がるしかないクウヤはそのまま皇帝の私室を出ていく。


「……ふむ。おるか?」

「はは。こちらに控えております」

「公爵の監視を引き続き行え。それから小僧の話がどこまで本当か裏をとれ。あの小僧、意外にタヌキかもしれん」

「クウヤという子供が何か?」

「見てくれは子供だが考えていることはかなり大人じゃ。まだまだ未熟じゃが、鍛えれば将来帝国宰相ぐらいは任せてもええかもしれんぞ。それから後は――」


皇帝は執事長と謀議を始める。その謀議はいかなるものか、部外者にははかり知ることはできない。すべては私室を覆い隠す分厚いカーテンの向こうのことである。

大魔皇帝復活の知らせが帝国を刺激し、何やら怪しい動きを示し始めました。

これから帝国はどういう動きをするのか? 皇帝は? 公爵は? そしてクウヤたちの運命やいかに!?

次話お楽しみに。

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