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第七〇話 苦悩 ①

 マグナラクシアへ無事帰還した調査隊。

 学園長に遺跡での出来事を話し、大魔皇帝復活対策を話し合う。

 その中で、悲壮な決意をクウヤは表明するが……


 クウヤたち調査隊は行きの困難がウソのように順調に帰還できた。帰路は行きの激しい攻撃を考えると比較的穏やかなものであった。まるで一斉に魔物が消え去ったように……


 拍子抜けしながらも、調査隊はマグナラクシア行きの船に乗り、順調に航行していた。

 クウヤは船のデッキにでて、潮風に吹かれていた。


(……何とかしないとな。大魔皇帝の復活が確定的な以上、知らないふりなんてできない。さて、どこから手をつければいいのか……一人では……何か方法を。今の立場を使えないものだろうか……)


 遠い水平線を見つめながら、物思いに耽った。魔戦士の圧倒的な力を信じてはいたが、彼には今一つ確信が持てなかった。大魔皇帝の力が強大であることはわかっていたが、具体的にどの程度なのかわからない現状では魔戦士にどの程度対抗できるのか考えあぐねていた。それに大魔皇帝復活と同時に魔族の蜂起もあり得るため、別に手を打っておかなければならなかった。他の国の力を借りることができれば、そちらにも対策が可能なのだが、今の彼にはそれだけの力はなかった。世界の覇を争う主要国である、蓬莱の皇帝のお気に入りだとしても、その力は限られたものであり、彼一人でどうにかできるものではなかった。


 そんな思いに耽るクウヤには蒼く続く水平線がただただ、遠く遠く時空の果てまで続いているような気がした。


「クウヤ、何を見ているんですか?」

「ん? 海」


 そっけなくクウヤが答えながら振り返ると、むくれ顔のルーが腕を組んでみていた。そばでヒルデが何とも言えないような顔で二人のやり取りを見守っていた。


「……なんですか、そのそっけない返事は。人が親切に声をかけているのですから、もうちょっと配慮というものがあってしかるべきでしょう! お互いの思いやりが人間関係を円滑にすると思いますが」


 なぜかルーは唐突にむきになり、クウヤの反応を非難し始めた。クウヤはなんとなく、むきなるルーをからかいたくなり、ちょっとバカにしたような口調で反論した。


「思いやりねぇ……思いやりがるのなら、しばらくそっとしておいて様子を見る……という選択肢もあると思いますがねぇ……」

「なっ……船のデッキで一人黄昏(たそがれ)ているのを、わざわざ声をかけてあげたのに……なんてこと言うんですか!」


 ルーはクウヤの話し方に激高した。クウヤはなぜルーが激高したのか、わからないようなそぶりを見せた。そんなクウヤの様子にルーはますますいきりたった。


「……もういいです! 知らないっ」


 そういうとルーは踵を返し、船内へ大股に歩きながら戻っていった。クウヤはルーを目で追うだけだった。


「……何を考えているのかはわからないけど、もう少し言いようはなかったの?」


 一部始終を見ていたヒルデが、静かにクウヤの元へ近づき言った。クウヤは苦笑いして両手を横に広げた。


「……わかってはいるけれど、そうできないこともあるんでね。簡単な話じゃないよ」

「そう……でも、るーちゃんは悪気があってあんなこと言ったんじゃないよ。そりゃ、言い方は悪いけど……心配してるんだよ、本当にキミのことを……」


 クウヤはうつむき、ヒルデの言葉をかみしめるように聞いていた。


「あぁ、そうみたいだね。でも……だからこそ……ためらってしまうこともあるんだ。そこはわかってほしいな」

「そうなの……」


 ヒルデは返す言葉が見つからないのか、黙り込んでしまった。


「お! いたいた。おーい、クウヤ! 隊長が呼んでるぞ!」


 クウヤとヒルデの間に流れていた気まずい空気をエヴァンが断ち切った。


「ん! わかった! すぐ行く」


 エヴァンに返事をした。そしてすぐにクウヤはヒルデに耳打ちをした。


「……ここでの話はルーには当分内緒な。今の状態だったらなんか変な誤解をしそうだから」


 ヒルデは微笑み同意した。

 クウヤはその笑みを見ると、駆け足で船内へ戻っていった。


――――☆――――☆――――


「隊長、クウヤです。入ります」


 クウヤは隊長の部屋へ入った。


「おう、来たか。マグナラクシアへ着く前に少し話をしておこうともってな」

「何の話でしょう?」


 隊長はクウヤに呼び出した理由を話し始めた。その理由はクウヤが一時的に捕らわれたあの遺跡内でのことを聞くためだった。


「あらましは現地で聞いたが、もう一度確認の意味を含めて、あの遺跡であったことを全て話してもらいたい。ここでの話は内容次第では極秘にすることもできるので、後のことは気にせず包み隠さず話してほしい。特に大魔皇帝の件についてはもう一度確認しておきたい」


 隊長の要請にクウヤは「わかりました」とだけ答え、遺跡内での出来事を一つ一つ語った。


「……そうすると、その声の主は間違いなく大魔皇帝は復活すると明言したんだね?」

「ええ。『大魔皇帝復活マデ時間ガ余リ残サレテイナイ』とも。『今ノ人ガ次代ニ代ワルマデハ、カカラナイ』と言ってましたので、対策は今すぐに始めないといけないと思います」


 クウヤの断定的な言葉に隊長は思わずため息をつき、考え込んでしまった。クウヤもそんな隊長にかける言葉が見つからず、隊長の前でただ立ち尽くしていた。


「……とりあえず、対策云々に関しては、マグナラクシアに戻って学長に報告してからだな。今ここではどうしようもない。わかったありがとう。下がっていい」


 その言葉にクウヤは「失礼します」とだけ告げ、部屋を出ようとした。が、そのクウヤを突如、隊長は呼び止めた。


「……と、クウヤ。遺跡内の話に関して、特に大魔皇帝復活に関しては当分の間、箝口令を敷く。この意味わかるな?」


 クウヤは「了解です」と告げ、隊長の部屋をでた。


――――☆――――☆――――


 調査隊を乗せた船はマグナラクシアの港へ入った。航海中、特にこれといった妨害行為や魔物の襲撃といったこともなく、船員たちはほっとするとともに、少し拍子抜けしたようだった。


 港には学園からの出迎えが来ており、桟橋で調査隊が下船するのを待っていた。

 学園の鼓笛隊の演奏に迎えられ、調査隊の面々は下船した。


「いやぁ、ご苦労じゃったの。うんうん……」

「お出迎え、痛み入ります。何とか調査を終え、無事脱落者なしで帰還できました」


 出迎えた学園長が体調を労った。隊長も些か恐縮しながら調査の無事終了を学園長に報告した。


「ま、積もる話もあるじゃろうが、まずはゆっくり休養するがよい。報告書はあとで読ませてもらう。皆もご苦労じゃった。とりあえず、それぞれの後始末をして、ゆっくり休養をとるとよいぞ」


 学園長の言葉のあと、隊長が調査隊に簡単な指示をだし、その場で一応解散となった。

 それに合わせて、学園長も港を離れようとすると、隊長が学園長を呼び止めた。


「学園長! 実は内々でお話が……」

「何かね? 火急の要件かね?」


 隊長は学園長に耳打ちした。その途端、好々爺とした学園長の目が一瞬鋭く光った。


「……わかった。クウヤくんも呼びたまえ。先に学園長室で待っておるぞ」


 そう言い残し、学園長は港を後にした。


――――☆――――☆――――


「……というのが、クウヤくんが遺跡内で見聞きした内容です」


 学園長室内で、隊長はクウヤから聞き取りした内容を学園長に説明した。


「……クウヤよ、内容に相違ないか?」


 学園長が確認してきた。クウヤは内容について間違いないと学園長に伝えた。


「ふむ……とするとかなり厄介なことに巻き込まれたのぉ……しかもよりによって大魔皇帝復活じゃなんて。全くこんな時期に……」


 学園長のボヤキに何かひっかかるものを感じたクウヤはそのことを学園長に尋ねた。


「こんな時期とはどういうことでしょう、学園長? 何か他に問題が発生しているのでしょうか?」

「……これから話すことは口外無用ぞ。端的に言えば、他国に得体のしれん蠢動があるということじゃ」


 苦虫をかみつぶした顔で学園長は『火種と火消し』のつかんだ各国の蠢動をかいつまんで説明した。

 帝国は皇帝自身の動きは今のところないが、公爵の手のものが内々に魔族と接触し、何か準備しているとの情報をつかんでいた。リゾソレニアは最近、ヴェリタ教教皇ディノブリオンが代替わりしたとのこと。それだけなら問題はなかったが、教皇の座を譲った元教皇、現上皇の手のものと思われる一団が、なにやら裏で動いているらしかった。ただ、表向きは現教皇の下、穏健路線をとっているようだった。


「……要注意国は以上じゃ。どちらの国も大魔皇帝復活を知ってか知らずか、怪しい蠢動を始めてはいると考えたほうがええじゃろうのぉ」

「危険な動きを示しているのは、その二国だけなんですか?」

「今のところ動きをつかんでいるのはな。その二国以外の他国も注意せねばならん。例えばカウティカじゃ。彼の国は水面下で動いているようじゃ。表向きはギルド連合共和国を名乗り、商工業国家の体をしておるが、裏ではいろいろと後ろ暗い裏稼業を営んでいるようじゃ。いずれは監視対象となるじゃろう」

「そうですか……複雑怪奇ですね……簡単じゃないな」


 クウヤは腕を組み、大きくため息をついた。彼は天井を見上げ、考え込む。


「今の状況で、国々を統一して、大魔皇帝にあたることは不可能ですか?」

「極めて困難と言わざるを得ないじゃろうの。それぞれの国が自らの国益を求めて動き始めている以上、まずは利害調整から始めなければならん……恐ろしく、面倒なことになるじゃろうな」


 クウヤは渋面になり、黙りこんでしまった。例え、圧倒的な力を持つ魔戦士でも、たった一人で大魔皇帝と対峙することは不可能であった。そのことはおぼろげながらクウヤは気づいていた。そのため、世界の国々が一致協力して当たることが可能にならないか考えていたのだ。

 学園長もかける言葉がすぐには見つからなかった。


「ま、その辺のところはわしに任せろ。何とか手を尽くしてみよう。それで、クウヤよこれからどうするつもりじゃ? いずれ、あの遺跡へ戻るつもりなのか?」

「…………えぇ。大魔皇帝が復活するのが既定である以上、対抗する力は魔戦士以外にはないと思います」


 クウヤの何か悲壮な決意を感じ、学園長はクウヤを見た。


「……それでよいのか? それ以外に選択肢は考えたのか? 魔戦士になるということが本当に分かっているのか?」

「……ええ。『人ならざるもの』ができることはこのぐらいですから。いずれにせよ、もう……『人』として生きることは……難しいみたいですから……」


 学園長はクウヤが己の命さえ投げ打つ覚悟をしていることと感じた。もっと正確に言えば、『人ならざる者』である自分自身を引き換えに世界の安寧をもたらそうとしているように感じた。


「……クウヤよ。お主は『人』ぞ。いついかなる時もそれを忘れてはいかんぞ」

「……ありがとうございます」

 

 クウヤの肩はわずかに震えていた。

 いかがっだったでしょうか?

 クウヤが悲壮な決意を以て、大魔皇帝対策に乗り出します。

 各国の思惑が絡む有象無象の世界へ飛びこむことになります。

 次話お楽しみに。

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