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第六十七話 大魔皇帝の影

 遺跡の中に引き込まれたクウヤ。遺跡の中は全く異質な技術によって作られたような構造物が並んでいた。そのとき、怪しげな声がクウヤを誘う。そして彼は衝撃の事実を知ることとなる。

 クウヤは遺跡の中で倒れていた。得体の知れない彫像に囲まれた大広間の石の上に、壁に揺らめきながら灯る青白い光に照らされ、彼は横たわっていた。やがてわずかに身をよじり動かし始めた。気が付いたようだ。


(遺跡の中……なのか? 頭が……スッキリしない)


 状況が分からず、辺りを見回した。クウヤが横たわっていた場所からは、周りの怪しげな彫像が見えるばかりだった。更に辺りを見回していると、正面に奥へと続く回廊の入り口が見えた。そこ以外には移動できる場所は見当たらず、揺らめく青白い光が点々と奥へと続いているのが見える。


ちから秘メシ者ヨ。我ノ下ヘ来キタレ』


 突然、くぐもった低い声が耳に響く。思わず彼は声の源を探して、周囲を見渡すがそれらしき音源を探すが見つからない。再び同じ声が響き、その声が大広間ではなく、自分の頭の中であることに気付く。


(……呼んでいるのか? 誰が?)


 クウヤは惹き付けられるように、回廊へ向かってふらふらと歩いていく。


(他に行ける道は無し……行くか)


 青白い光に誘われるように、クウヤは回廊を奥へと歩いていく。回廊の壁面には、完全武装の戦士の像が立ち並び、あるものはクウヤを威嚇するように、またあるものは己の武勇を誇るように武器を掲げている像もあった。


 そんな彫像を数十体過ぎたところで、遠くに大きな扉のようなものが見えた。その扉ようなものは黒光りし、鏡のように艶やかに表面処理され、遺跡には似つかわしくないほど輝きを保っていた。


(ここから、雰囲気がまるで違うんだけど……古くからあるものなのか、そうでないのか、よく分からない場所だな)

 

 その前に立ち、クウヤはあたりを見まわした。特に開閉装置のようなものはなく、ただただ、扉のようなものが目の前に立っているだけだった。すると扉の真ん前の床の一部が鈍い光を放ちだした。


『来タレ』


 例の声がクウヤに響く。クウヤはおっかなびっくりその光る場所の上に乗った。


「あれ? 何も起きない……おっ!?」


 クウヤが乗ると光る床がさらに光を増し、クウヤを下から照らす。それと同時に、目の前の扉が低い駆動音を響かせながら開き始めた。それと同時に、下からの光が最大の光量を放ち、クウヤの視界を奪った。彼は思わず両手で目を覆い隠す。それでも強い光は彼の目を貫き視力を奪う。


「おわっ! 何も見えない…………」


 光が収まり、クウヤが視力を回復すると、目の前にかなり大きな空間に気が付く。まるで、巨大な教会の礼拝場のような空間がそこには広がっていた。


「…………ここはなんだ? 礼拝場? 何のためにこんな……」


 クウヤが疑問を抱くとすぐに例の声が響く。


『入レ』


「入れ……か。ま、行くしかないんだろうけどね」


 クウヤは多少強がりながら、その大広間に入る。大広間に入ると、ただの大広間でないことに気付いた。中央部に祭壇がありそこまでの廊下はあるものの、その横には何もなかった。


 クウヤが大広間と思ったところは、巨大な吹き抜けとなっており、祭壇とそれ続く廊下が突き出るような形になっていた。祭壇の目の前には、巨大な禍々しい彫像が鎮座しており、祭壇を見下ろしている。


 周りの壁面は闇が結晶化したような漆黒のつややかな物体で表面を覆ってあった。磨き上げられた鏡のような表面には、青白い炎のようなものが点々と灯り、内部を仄明るく照らしていた。


 天井や廊下以外の床は闇の中にあり、その規模はクウヤの目では確認できなかった。彼は辺りを見回しながら、恐る恐る前へ進む。


(ここは、一体どんな構造になってるだろう?)


 クウヤは祭壇にたどり着き、あたりを見回した。静寂がその空間を完全に支配し、聞こえる音はクウヤの衣擦きぬずれの音や呼吸音ぐらいで、ややもすると彼の鼓動さえ、耳で聞き取れそうなぐらいだった。


 仕方なくクウヤは目の前の禍々しい彫像を見つめた。


(……何の像なんだろう? えらくデカイけど……)


『ヨクゾ、参ッタ。力秘メシ、次代ノ魔戦士トナルベキ者ヨ。我ハ汝ノ力ヲ引キ出ス存在ナリ』


「誰っ!? 誰がしゃべっていんだ!」


 突如何処ともなく響いてきた妙な口調の語りかけに、クウヤは驚き、周りを見回すが、誰もいない。


『我ハ汝ノ目ノ前ニオル』


 クウヤはその声に目を見開き、あたりを見回す。そこにあるのは巨大な彫像だけだった。そこではたとある可能性に気付く。


(彫像がしゃべった? なんで? 何者なんだ?)


『ソノ疑問ハモットモデアル。我ハカツテ大魔皇帝ト呼バレタ存在ノ現身うつしみデアル』


(なんだって!? 大魔皇帝! え?)


 クウヤは驚愕した。かつて世界を滅亡へと誘った存在が目の前にいる。たとえそれが現身であっても、世界に破壊をもたらした存在に脅威を感じざるを得なかった。しかし、その存在はクウヤの考えを読んだのか、静かに言葉を続けた。


『恐レルコトハナイ。今ノ我ハ“影”トイウベキ存在。実体ハナイ。カツテノヨウナ破壊ヲモタラスちからハ我ニハナイ。コノ彫像ハ我ノ器ニ過ギヌ』


 その存在は静かに語り続けた。クウヤはその話を訝しがりながらも受け入れ、さらに話を聞くことにした。


「その“影”が僕を魔戦士にしてくれるのですか?」


『是。我ハソノタメニ存在スル。我ハ汝ノ秘メタルちからヲ引キ出スモノナリ』


「……そんな資格あるんですか、この僕に」


『汝ハちからヲ秘メテイル。ソノ秘タル力ガ、魔戦士トナル者ノ資格ナリ』


「……そんな力を持っているとは思えません。今の僕に力があれば、あんな犠牲を出さずに……」


 クウヤは思わず、息を詰まらせ言いよどむ。訓練所で死んでいった子たちを思い返し、感情が高ぶった。しかし、彫像はそんなクウヤの感情に何の反応も示さず、次の言葉を続けた。


『汝ハ魔戦士トナルカ?』


 クウヤは返事をする前に、彫像にいくつか質問してみることにした。不安材料ばかりで、判断材料が欲しかったからだ。


 こちらの感情の動きに全く反応を示さないことに苛立ちを感じていたクウヤはかなり語気を強め、多少乱暴な口調で質問した。


「興味深い提案だが、その提案を受け入れる前に、いくつか質問をしたい。よろしいか?」


『是。質問ヲ許可スル』


 彫像は文字通り機械的に答える。クウヤも特に気にするそぶりも見せず、淡々と続ける。


「……魔戦士は大魔戦争の張本人たる大魔皇帝を討ち果たしたと伝承されている。大魔皇帝の現身であるあなたが、なぜ僕を敵であるはずの魔戦士にすることができるのか?」


 クウヤは単刀直入に質問した。先ほどと同じく、彫像は何の感情も交えず、淡々と答える。


『……ソモソモ魔戦士トハ、大魔皇帝ヲ守護スルタメニ造ラレタ、人造魔法戦士デアル。マタ、大魔皇帝ソノモノモ、人ニヨッテ造ラレタ、人造魔法生物デアル……』


 クウヤはその一言に非常に驚く。余りにも衝撃的な話だったので、すぐには理解出来なかった。


「ちょっと待った! 魔戦士も大魔皇帝も造られたってどういうことだよ……」


『他意ハナイ。ソノママノ意味デアル。サカノボルコト二百年アマリ前、人ハ魔法奴隷トナル存在ヲ造リダシタ。ソレガ魔族ノ始祖デアル。ソノ魔族ヲたばネ、人ニ使役サセルタメニ、後ニ大魔皇帝トナル存在ハ造ラレタ。ソシテ、魔族ノ反乱ニ備エ、大魔皇帝ヲ守護スルタメ造ラレタノガ魔戦士デアル』


 彫像の話したことにクウヤは恐れおののく。自らの出自が想像を遥かに超えた事実であったからだ。


「そうなら、僕は……僕は……僕は……造られたモノと言うこと?」


『是。汝ハ人デハナイ。魔族ト同ジク、人ニ使役サレルタメニ造ラレタ、イワバ“生キタ人形”デアル』


 クウヤは二の句が告げなかった。余りにも衝撃的な事実を突き付けられたため、言葉もなく立ち尽くすだけだった。茫然自失となる彼にお構い無く、淡々と彫像は語る。


『ソモソモ魔族ガ生マレタ時カラ、話ハ始マル――』


 ――大魔戦争前、人は魔法を応用した技術を発達させ、その恩恵を謳歌していた。しかし、その技術が発達し、ありとあらゆるところで使われるようになると、魔力の欠乏が深刻化する。そこで、欠乏する魔力を補う方法の開発に力を注ぐようになった。


 その中で生物をにえとし、魔導石を生成し、魔力を抽出する方法が、脚光を浴びることになる。ありとあらゆる生物が魔導石化されたなかで、魔族を魔導石化する方法が、一番上質の魔導石が得られた。このため、魔族は魔法奴隷というより、魔導石の材料としての価値を高めていった。


 それと並行して、消費される魔族を大量に確保するために、魔族を“品種改良”し、次代を生み出す能力を与えられた。それまで魔族は魔法合成で補っていたが効率はあまり良くなかった。しかし、この“品種改良”により、魔族を大量生産可能になった。


 その一方、“品種改良”により思いもよらぬ変化が生じるようになる。魔族に自我が目覚め、自らの判断で行動するような個体が増え始めたのだ。そんな魔族を統制するために魔族の長(後の大魔皇帝)を造り出した。しかし長に対し、反旗を翻すことが、たびたび起きるようになる。そこで長は反乱を鎮めるため、圧倒的な戦闘力を持った魔戦士を生み出すことになった――


『――ト簡単ニイエバ、コウイコトニナル』


 余りにも衝撃的ないくつもの事実が、クウヤを当惑させた。ここにきてクウヤの思考が入力された情報に追いついた。


(……それじゃ、人が大魔皇帝を作り出したのなら、結果的に大魔戦争の原因を自ら作り出した……ってこと?)


 クウヤは自分が至った結論にがく然とする。彫像の話が事実とすると、結果的に大魔戦争は人が自分の首を自分でしめただけと気づいたからだ。人の愚かさに、落胆するクウヤ。


 彼の落胆をまるで無視して、彫像は話を続ける。彼はそんな彫像の行動に眉をひそめた。


『……魔戦士ハ魔族ノ肉体ヲ強化シ、異世界ヨリ召喚シタ魂ヲ、封入スルコトデ素体ガ完成スル。素体ヲ訓練シ、各種調整ヲ行ウコトデ、完全ナ魔戦士トナル』


「その調整を行うのが、あんたってこと?」


『是。我ハソノタメニ造ラレタ。再度問ウ。汝ハ魔戦士トナルカ?』


 クウヤは彫像の問いに何も答えず瞑目した。彼は悩む。魔戦士としての力は多くの困難をはねのける力となろうことは想像できた。しかし、その力を得ることで自分がどうなるのか想像できなかった。また、大魔皇帝を倒し、大魔戦争を終結に導いたとされる魔戦士が、大魔皇帝の護衛として製造されたという話がさらに彼を躊躇させた。


「……魔戦士にはなる。が、時間がほしい。今少しの時間をもらえないだろうか?」


『大魔皇帝復活マデ時間ガ余リ残サレテイナイ。ソレホド長イ時間ハヤレナイ』


 機械的に人の存亡に関わりかねない話を無遠慮に放言する彫像に驚愕するクウヤだった。思わず、聞き返した。


「……え? 大魔皇帝が復活するって!? ウソだろ?」


『否。決定事項デアル。変更ハナイ。タダ、今シバラクノ時間ガ必要デアル』


「いつ、復活するんだ?」


『ソレハ告ゲル訳ニハイカヌ。シカシ、今ノ人ガ次代ニ代ワルマデハ、カカラナイ』


(曖昧だな……。あの答ではよく分からない……何とか聞き出さなきゃ)


「ということは、一年、二年単位ではないんだね」


『是。現時点デハ』


(現時点では……か。それでも、ある程度時間はあるようだ)


 若干、胸をなでおろしたクウヤは、ダメでもともとである提案をした。


「一度、戻りたい。……戻って、鍛えなおしてからもう一度ここへ来たい。可能か?」


 彫像は答えなかった。しばしの沈黙が祭壇のまわりに漂う。次第に沈黙がクウヤにのしかかる。


 相当の時間が過ぎただろうか、おもむろに彫像が答えた。


『……是。認メル』


 クウヤは驚いた。同意する可能性は低いだろうと思っていたからなおさらだった。


 ほっとした瞬間、彼が震撼する宣言がなされる。


『タダシ、代償ヲ払ッテモラウ。コレカラ与エル試練ニ耐エ抜ケ』


「代償って……? うわっ……」


 そう言われると、クウヤは目もくらむような光に包まれた。強烈な光に抗い、抵抗するも徐々に意識が遠くなり……


 ……そして抵抗するのをやめた。


 大魔皇帝の影の試練とは? いったい、クウヤはどんな試練に直面するのか! 次回お楽しみに。

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