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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第四章 魔導学園国編
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第六十五話 魔族の街

 調査隊は魔物の襲撃を退け、なんとか魔族の街へたどり着く。クウヤたちは魔族の街の異質さに驚かされる。その街で魔族の長と面会するが魔族の長の発言にクウヤたちは……! 

お読みください。

 クウヤたちは魔の森を魔物の襲撃をしのぎつつ、かなり奥へと進んだ。


「……もうそろそろじゃないのか?」

「ええ。まもなく見えてくるはずです」


 隊長は案内人に尋ねると、そっけなく案内人は答える。ゆるい上り坂の森の道を進む調査隊。その調査隊の行く先に光が見えた。森がそこで終わって開けた場所に出る。


「あそこか……」


 隊長は森の端となっていた丘の上から眼前に広がる風景を見つめつぶやく。眼前にはモヤの切れ目から谷から山裾に広がる集落が見えた。山裾の集落には見慣れない箱状の建物が並び、それが山に向かって登っていた。灰色の素材で作られた建物が並びたつ光景は異質な風景を成していた。


(どこかで見たことがある景色だ……。なぜだろう?)


 クウヤはその風景に懐かしさを感じていた。ただ、いつ、どこで見たかは何者かに邪魔されて、思い出そうとしてもどうしても思い出せなかった。


(いつも、こうだな……。何が引っかかるのだろう?)


 クウヤは考えるが、その考えは空回りするだけだった。いつものことはいえ自分にはめられたかせのようなものにいら立ちを覚える。


「クウヤ、何をしているんです? 行きますよ」

「……ん? あ、わかった」


 ルーに呼ばれ、我を取り戻したように返事をするクウヤ。調査隊は丘を越え、眼前の集落へ向けて移動していった。


「……魔族って、みんな案内人みたいな外見なのかな?」


 エヴァンが唐突に言い出す。他の三人は各々魔族にイメージを浮かべるが案内人の外見とは離れたものだった。魔族については彼ら自身が外部との交流を可能な限り絶っていたため、憶測が憶測を呼び、外部の人間の勝手な想像だけがひとり歩きしていた。ある人は半獣半人のような姿だといい、ある人は魔物が人の姿をしているといい、どちらにせよそれほど好意的な姿で語られることはなかった。これは魔族が始祖と崇める大魔皇帝の影響が大きい。世界を一度崩壊に導き、大虐殺を実行した存在を始祖しそあがめる集団。イメージが悪くなることがあってもよくなることはありえない。


「……ま、行けばわかるさ。まさか半分魔物で半分人なんて姿じゃあるまい」

「魔族と会うのは初めてだけど、案内人さんたちを見る限りそんなに棘々(まがまが)しい姿じゃないかもね」

「クウヤの言うとおり、実際にこの眼で見てみるのが一番でしょう」


 クウヤは半信半疑で答える。クウヤとしても、可能な限り姿かたちが人に近いほうが付き合いやすいなと漫然と思っていた。ヒルデは意外と楽観的な考えを持っていた。慎重派の彼女はいつもならあまり楽観的なことは口にしないがこの時は違った。いつもなら多少皮肉めいた発言をするルーは珍しく真っ当なことを言う。


「小僧ども! 急げよ。ぼやぼやしていると魔物にまた襲われるぞ!」


 隊長の言葉にクウヤたちは足を速めた。


 集落に近づくと集落はかなり規模が大きく、都市と言っていいほどの大きさであることにクウヤたちは気づく。

 思っていたより大規模なことに驚かされるクウヤたちだった。


「大きい……。こんな奥地にこれだけの街を造るなんて、魔族って一体……」


 クウヤにそんな思いをいだかせるのに充分なほど魔族の都市は異質であった。街は灰色の見慣れない石のようなものでできており、クウヤを脅かせたのは、継ぎ目のようなものが見当たらなかったことである。最初、漆喰しっくいのようなものを石かレンガの表面に塗って継ぎ目を消しているのかと思ったが、この世界では通常この手の防御設備にそのような工事を行うことはなかった。そんなことをしても、攻撃を受けると簡単に剥がれ落ちてしまうので防御のタシにもならないためムダな行為とされていたからだ。それにクウヤは街の入口の門の隅に小さなひび割れを見つけ、塗ったにしてはこの世界の常識では考えられないほど厚みがあるのを確認した。


(見たこともない材料でできてる。石でもレンガでもない……。魔族独特の材料なんだろうな……でもどこかで見たような……? …………クソっ、思い出せない)


 やはりここでもクウヤの記憶は見えない枷にはばまれ、思い当たるものが頭のなかにあるのにそれをはっきりさせることを妨げるものにクウヤは苛立ちを覚える。


 クウヤの苛立ちを他所に調査隊は魔族の街へ入っていく。

 

 街に入ったクウヤたちは改めて、魔族の街に驚かされる。彼らが今まで見てきた街に比べて建物は高く、そびえているように見えた。そのうえ、形が画一的な建物が並び、歩いても歩いても全く動いていないような感覚に襲われる。また、行き交う人々も同じようなフードの付いた外套マントを着て歩いていたため、背格好が同じだと誰が誰だかはっきりとは分からなかった。その上、皆フードを深くかぶり、顔を見ることができなかったため、余計個人を識別することは困難だった。そのせいで同じような人々とすれ違うことになるため歩いても歩いても風景が変わったように見えなかった。


「変な街だな。どこまで続くのだろう? 結構歩いたと思うのに景色が変わらない……」

「俺たちちゃんと歩いているよな? なんで景色が変わってないんだ?」

「変な街ね……。建物がみんなおんなじ……人まで……」

「何かへんな魔法でもかけられているのかしら?」


 クウヤたちは今まで経験のしたことない不可思議な体験に戸惑う。彼らにしては珍しく同じような驚きを口にした。それだけ、この街の異質さが際立っていると言えよう。


「ははっ、小僧ども、驚いている暇があるなら早く歩け。こんなところでまごまごしている暇はないぞ」

「隊長、この街何かおかしくないですか? 歩いているはずなのに、風景が変わらないなんて……」

「ここは魔族の街だ。マグナラクシアみたいな人間の街とは違うだろう。細かいことは気にするな。まだやらなければならないことが山ほどあるんだ。優先してやるべきことに集中しろ」


 この街に訪れたことのある隊長には、クウヤたちが何に驚いたか察しがついていた。察しがついたがゆえに、強い調子でクウヤたちを急がせた。

 クウヤたちは不承不承ではあったが歩みを早めた。


 しばらく歩くと、風景が変わった。クウヤたちは進んでいたことに安心する。判で押したような建物群が途絶え、山肌に張り付くように建っている大きな建物が見えてくる。行きう人もその一画だけはまばらでその建物は何か重要な建物なのか、あるいは重要人物が住んでいるのか入り口には門番が見えた。その前に到達すると隊長がクウヤたちに話しかける。


「とりあえず、お前らの仕事を片付けてこい。この建物に入れ。案内人たちが中を案内してくれる。俺たちは先に宿へ向かう。用事が済んだら、宿へ来い。寄り道はしないでまっすぐ宿へ来い。揉め事になるといけないからな。ここはマグナラクシアとは違う。魔族の領域だということを忘れるなよ」


 そう言い残すと、クウヤたちを残し隊長は調査隊を引き連れ、宿へ向かった。残された彼らは案内人と共にその大きな建物へ入っていった。


「……大きいな。何の建物なんだろう?」


 その建物は山裾に建てられており、よくみると複数の建物が階段上に山頂へ向けて建てられていた。外壁には装飾のたぐいはほとんどなく、実用を重要視した建物だった。ただ、街の建物と比べると若干黒っぽく、半光沢に表面処理されており眺めれば眺めるほど、荘厳さを感じるような建物だった。


「特使殿、中へどうぞ」


 案内人がクウヤたちを建物へ招き入れた。この時にはトゥーモでのぶっきらぼうな態度ではなく、それなりに正式な使節を迎え入れるようなうやうやしい態度であった。その変化にクウヤたちはまた戸惑う。


「何だこの入口は……! こんなもの見たことがない」

「このガラスがあれば一儲けできるな……」 


 案内された建物の入り口は当然のごとく飾り気のない扉であったが、その扉には大きなガラスの一枚板がはめられていた。そのガラスは透きとおり、しかも歪みが殆ど無く、よく見ないとそこにガラスがあるのかどうかさえよくわからないほどだった。そのことに気づいたクウヤたちは非常に驚いた。この世界のどこにもこれほど透き通り、歪みのないガラスは存在しなかった。このガラス一枚持ち出し、どこの国でも売ればそれなりの対価が得られることは、ほとんど商売に素人なクウヤでも容易に想像できた。商人の息子であるエヴァンにはクウヤ以上に理解していた。


 建物に入る前からガラス一枚に驚かされているクウヤたちを案内人は中へ入るよう促す。多少おっかなびっくり建物内に入ったクウヤたちはまた驚かされることになる。


「中は結構明るいな。なんだろう天井の光る棒は? それに壁の所々にある光の玉は何なんだろう? 明るいけど、熱くない。魔法なんだろうか?」


 建物の玄関から続く廊下の天井には照明具の一種だろうか、光る棒が二本組で天井にてんてんと設置されいた。壁には装飾用だろうか光る玉が等間隔で奥まで設置されていた。あいも変わらず装飾は乏しく実用性を第一に考えられたような明灰色の廊下が奥へ続いていた。


 案内人たちはそんなクウヤを知ってか知らずかただひたすら奥へ奥へと案内するのみであった。


 いくつ廊下を曲がっただろうか、クウヤたちにわからなくなる頃案内人たちがある部屋の扉の前で止まった。扉はこの建物にしてはやや装飾も多く、クウヤたちに多少見慣れたものに近い印象を受けた。どこも偉い人の部屋は似たようなことをするんだなと感心しかけたとたん、そんな感慨にひたるまもなく、案内人が声をかける。扉の中から声がする。


「どうやら、マグナラクシアからの特使が到着したようだな。入りなさい」


 案内人を先頭にクウヤたちは入室した。

 部屋にはいると思った以上に明るいことに気がついた。天井には三重になった光の輪が部屋の中を照らす。実用性を最優先したようなシンプルな部屋の中に白髪の老人がいた。至って普通の老人がそこにはいた。

 クウヤたちはあまりの普通さに呆気あっけに取られ、どう反応していいか分からなかった。



「ようこそ、我らがヨモツの街へ。君たちがマグナラクシアの特使かね? 随分と年若い特使じゃな。私がこのヨモツの街を束ねるオモイカネだ。君らからすれば、『魔族』の長ということになるかの」 

「マグナラクシア魔導学園生徒首席クウヤ・クロシマです。マグナラクシア魔導学園国首長ツォティエ=ティエンレンよりの親書をお届けにあがりました」


 クウヤは親書を手渡すが、心なしかその動きは固くぎこちないものだった。その動きをみてオモイカネは目を細めた。


「ま、そんなに固くならんでもええ。目の前のジジイが魔族の頭目で緊張したかの? ほっほっほぉ……」

「正直、魔族の人って角や牙を生やした半獸半人みたいな……イテっ!」

「ちょっと失礼でしょっ! 失礼しました!」


 思ったままを口にしたエヴァンがヒルデに叩かれる。ヒルデはエヴァンの頭を押さえ、頭を下げさせた。オモイカネは目を細めたままで、特に不快感は感じていないようだった。


「よいよい。気にせんでええ。外の世界でどう思われているかは分かっとる。……しかし、仲の良いことじゃの。若い者はええのぉ。ほっほっほ……」


 『魔族』の長はクウヤたちの目にはただの好々爺にしか見えなかった。こんなに温厚な人物が悪名高い『魔族』の長を務めていることが不思議でならなかった。


「何はともあれ、大役ご苦労。明日からの調査に備えてゆっくり休むがええ」


 クウヤたちは役目を終えたと思い、その部屋から出ようとした。


「クウヤくんと言ったね。君は親書を届けに来ただけなのか? 他の目的はなかったのかね?」


 オモイカネは唐突に言い出した。クウヤは何を言われているのか分からず、ただ魔族の長を呆然と見つめるだけだった。


「……他の目的と言いますと? 何か有りましたか? 親書を届ける役目だけですが、何か?」

「例えば、この地は外の世界では古の戦乱(大魔大戦)の元凶が封印されたと言われている地。我らが始祖様(大魔皇帝)の情報を集めるとか……」

「いえ。そのようなことは……」


 クウヤは訝しく目の前の老人を見つめる。そんなクウヤにおかまいなくその老人は話を続けた。


「はたまた、この地には古の戦乱をしずめた伝説の戦士、魔戦士に関するモノがあるという。それを探しに来たとか? あるいは……」

「……あるいは?」

「……魔戦士の試練を受けに来たか?」


 クウヤだけでなく、他の三人も何を言っているのかわからず、妙に熱心に質問する老人をほうけた見つめる。


「い……いえ……申し訳ありません、何を仰りたいのか分かりません」

「……そうか。すまんかった。耄碌もうろくした老人のれ言じゃ、忘れてくれ。ただ、君ほどの素質なら魔戦士の試練に打ち勝てると想うがの……ま、よいよい。何れにせよ、わしの戯れ言と思うてくれ。つまらんことで足止めして悪かったな。ささ、早く宿へ向かうがいい」


 オモイカネは何かを満足したのかうすら笑いを浮かべ、クウヤたちを労いつつ、退室を促した。クウヤたちは何がなんだかわからないまま部屋を出ざるを得なかった。


「良いのですか? あんなに喋って……」

「何構わん。少なくとも、マグナラクシアは我らが始祖様の復活について警戒感を今のところ持っていないようだ。それがわかっただけでも収穫だ」


 クウヤたちが退室した後、残された案内人がオモイカネに話しかける。老人はクウヤたちに見せた好々爺然とした表情を崩し、策士の薄ぐろい笑みを浮かべる。


「あと気になるのは帝国蓬莱とレゾソレニアですか……」

「特に帝国は何やら皇帝と公爵がきな臭いらしい。公爵はかなりの曲者らしいからのう。公爵自らなにか騒動を起こしてくやもしれん。レゾソレニアは法王が交代するらしいが、今の法王がかなりの難物のようだから警戒を怠るなよ」

「はっ」


 好々爺の仮面を外した魔族の長はその隠された本性を見せ始めた。

 遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。

 魔族の街へたどり着いたクウヤたち。魔族の長の発言に混乱していましたが……

 これからどうなることやら。

 次回をお楽しみに。

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