第六十三話 進入! 魔の森
クウヤたちは魔の森へ進入する。
その前にトゥーモの町に立ち寄る。その町で……。
クウヤたちは“緑の魔物”たちと悪戦苦闘していた。
魔の森は怪しげな植物が生い茂り、クウヤたちからすると“緑の魔物”としか思えないほど行く手を遮り、彼らの進入を拒む。
「全く、何だってこんなに生えてるんだい! マグナラクシアの訓練の時よりひどいじゃないかっ!」
「しかたないだろう。こういう森なんだから……」
「でも、こんな森は初めて。まるで私たちを拒んでいるみたい……」
「そうね……。さすがは“魔の森”何が出てきてもおかしくないわね。これなら“血まみれの魔女”がでてきても驚かないわ」
エヴァンはあまりにも多い植物を泳ぐようにかき分けながら愚痴をこぼすが、クウヤはなぜかすでに達観したかのように諦めていた。ヒルデはいつもどおり素直な感想を口にするが、ルーは非常に不吉なことあっさり口にするので、 他の三人は不安に駆られる。
「……おい、それシャレにならん」
「そうだな。シャレですむレベルならまだましだけど……」
「るーちゃんが不吉なことを口にすると、たいてい本当になるからねぇ……」
ルーの言葉に他の三人が不安を口にする。それでも、彼らは何かはしゃいでいるようなところもあった。そのとき、調査隊隊長が口を挟む。
「お前らもう少し黙って歩け。でないと本当にとんでもないモノが出てくるぞ」
隊長はどこかしらピクニック気分がほのかに漂うクウヤたちをたしなめた。クウヤたちは全員肩をすぼめ両手を広げ、静かになり深緑の奔流を遡るように森をかき分け、奥へ奥へと侵入していった。
――――☆――――☆――――
時間は少しさかのぼり、魔の森へ分けいる前に戻る。クウヤたち調査隊一行はトゥーモと呼ばれる港町にいた。この港町は魔族とマグナラクシアの唯一と言っていい接点であった。
魔の森は暗黒大陸と呼ばれる、魔族以外その全容を把握していない大陸の中にある。その大陸には魔族に認められた唯一の拠点となる港街がある。それがこのトゥーモである。マグナラクシアとはほそぼそとこの港街を通じて魔族との交易があり、この港街を通過してのみ魔の森へ入ることが許されている。調査隊一行はこの港街で調査機材、必要物資などの確認と積み込みを行っていた。
「――というのが今回の調査の概要だ。とにかく今回の調査では安全第一でいくことを忘れないでほしい。以上だ」
隊長の訓示のあと、隊員たちは三々五々解散し、それぞれ出発準備に入っていった。勝手の分からないクウヤたちはその場に取り残され、その場で立ちすくんでいた。そんなクウヤたちに気がついた隊長が彼らに声をかける。
「どうした? 何か質問でもあるのか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
そういうと、隊長は何か気づいたのかその筋肉質の巨体を揺らして豪快に笑い彼らの肩を叩いた。
「ま、気楽にやれや。今回の調査で君らの役目は調査の補助役だ。肩の力抜け。あまり肩に力が入っているといざという時に体が動かんぞ。それに――」
隊長は何かを言いかけて途中でやめた。クウヤたちは思わず隊長を見つめ、次の言葉を待った。
「――それに君たちには特命もあることだしな。しっかりやれよ、小さな”親善大使”」
「はぁ……。マグナラクシアの目的は今ひとつよくわかりませんが期待に添えるよう力は尽くします」
クウヤは隊長のからかいとも励ましともつかない発言に苦笑するしかなかった。その他の三人も同様であった。というのも彼らの表向きの派遣理由は学術調査の補助及び実習だったが調査に向けた訓練中に明かされたもうひとつの目的があった。
それは、魔族との友好関係の深化であった。
この時、世界は魔族との関係を絶っており、あえて関係を結ぼうという国はマグナラクシアを除いて皆無と言って良かった。ただ、マグナラクシアも大手を振って魔族との関係強化を図れるわけではなかった。それは魔族の始祖、大魔皇帝がかつて世界を滅亡寸前にまで追い込こむ大魔大戦を引き起こしたということに端を発していた。つまりは魔族との関係を深めるものは世界を滅ぼす企みに加担するものという認識があったからである。そのため、マグナラクシアもあまり諸外国の懸念を増すような手段を選ぶことはできなかった。
そこで目をつけたのがクウヤたちである。諸外国もまさか子供に政治的意味合いの強い外交の一翼を担わせるとは思わない。また、クウヤたちは見た目は子供であるが中身は並みの大人に引けをとらない――このマグナラクシア当局の認識がこの密命を負わせた最大の理由でもある。見た目子供なら、諸外国の警戒心や反発を煽らず目的を達成できる可能性が高いとの判断もある。
そういった理由で大役を押し付けられた格好になっている彼らであったがマグナラクシアが何のために彼らを魔族領へ派遣するかついて彼らに明確には知らされなかった。ただ、“外交関係の深化”とだけ説明し、それ以上の説明はなかった。彼らはマグナラクシアの某かの思惑の尖兵として、魔族との友好関係の深化という大任を押し付けられたのである。
(……全く結局何のかんの理由をつけれられて、面倒なことを押し付けられるんだな……)
クウヤは自らの境遇を嘆く以外にできることが思いつかなかった。一人自らの境遇を嘆くクウヤの傍らには不思議そうに見つめる三人がいた。
「ところで、案内役の魔族がいると聞いたのですが、どこで落ち合うのですか?」
ヒルデが隊長に質問した。クウヤたちは魔族について極悪非道な魔物のような存在というイメージがあったので、内心どんな魔族が案内をしてくれくるのか心配していた。
「連中はこの街を出たあたりで落ち合うことになっている。魔族の連中は外の世界との接触を一部を除いて断っているから、できるだけ外の世界と接触を避けたいんだろうな。どんな連中が来るのか心配か?」
隊長はそう言うと、豪快に笑いヒルデの肩を軽く数回たたき言った。
「心配するな。案内をする連中は何度も調査隊の案内をしている魔族で外の世界のことも知っている連中だ。こちらが不用意なことをしない限り何の心配もない。安心しろ」
その言葉に四人ともが胸をなでおろした。
「ま、君らの本当の出番は魔の森を縦走した後に訪れる予定の魔族の街だ。そこでは目一杯頑張ってもらうからな。子供だからって容赦はしないぞ」
そういうと、隊長は再び豪快に笑い、その場を離れていった。
「さて、俺たちもここで突っ立っていても仕方がない。準備しようか」
クウヤの一言で、彼らは各々個人装備などの準備のためにこの場を離れた。
しばらくして、準備のできた調査隊は出発する時間になった。
「よし、全員準備はいいな? 出発する」
隊長の号令を合図に調査隊は移動を始める。
トゥーモの端までくるとこの港町を囲む土累が眼前に迫ってくる。クウヤはその土累を見て、違和感を覚え、歩みが遅くなる。
(何か違っているような……?)
「どうしました、クウヤ?」
「いや、あの町を囲む土累何か変じゃないか?」
クウヤとルーは町を囲む土累を歩みを遅くしてしげしげと眺める。
「……内と外が逆……?」
土累の上にある壁の矢狭間が外側に本来在るべきなのに内側、つまり町の側にあった。その作りは明らかに町を守る目的ではなかった。
「あの防壁はこの町を守るための防壁じゃない。この町から外の勢力が奥地へ侵入できないように備えた防壁だ。良く覚えておけ。ここはこういう場所だ」
歩みの遅いクウヤたちの様子を見に来た隊長がクウヤたちのつぶやきを耳して言った。クウヤたちはこの町の外が全くの異世界であることを意識せずにいられなかった。隊長はそれだけ言うとまた先頭へ戻る。
「お、いたいた。連中だ」
隊長が土塁の切れ目にある門に立つ人影を見つけた。向こうはこちらに気がついたのか、調査隊の様子を観察しているようだった。二つの人影がこちらを伺っているのが見える。
隊長はゆっくりその人影に近づき挨拶を交わす。その人影はやや線が細いようだったがごく普通の人間のように見えた。額には鉢金、少し古びたスケイルメイルを装備した姿には特に角が生えてるなどの特徴は一瞥した限りでは見受けられなかった。
(あれが魔族……? 特に違った点はなさそうだけど……)
クウヤはその姿を見て不思議に思う。彼は魔族の姿をオドロオドロしい半獣半人のような姿を想像してた。他の三人も同様だったらしく、クウヤと視線を合わせ頷いている。
「待たせたな。ここにいるのが今回の調査隊だ。案内をよろしく頼む」
「……わかっている。今回は子供もいるのか?」
「ああ。学園の生徒だ。実習を兼ねて調査補助をしてもらう」
「……ふむ。ま、良かろう。くれぐれも調査の足を引っ張らぬよう世話をたのむぞ。我らはいつもどおり案内するだけだ」
「結構だ。よろしく頼む」
魔族の案内人は終始表情を変えず、隊長と会話してた。隊長と握手した後、彼らはクウヤたちを一瞥する。わずかに眉の端が上がる。
「……しかし、そこの子供たちは色々混ざっているようだな。特にそこの黒毛は本当に人なのか? 見かけとは不釣り合いなチカラを感じるが。 余計なものを持ち込んだりしないだろうな?」
案内人の一人はクウヤを見て、何者ともつかない気配を感じたのか不信感を露わにする。もう片方も訝しげにクウヤを見つめている。クウヤもそんな彼らの剣呑な雰囲気に反応し、わずかながらに拳に力を込め、身構える。
「心配はいらん。なんせ学園の優等生だ。そんじゅそこらのガキどもとは違う。それに一応、マグナラクシアの首長のご推薦なんでな。余計なものを持ち込んだりはせんよ」
「……だといいがな。とりあえずは魔の森の踏破だ。魔の森は子供の遊び場じゃない。ついてこれないようなら、そのまま置いていく」
魔族の案内人たちは隊長の言葉に一応理解できたのか踵を返し、門のほうに向かって歩き出す。
「……やれやれ。よし、出発だ」
隊長の号令一下、調査隊は案内人の後を追い移動を始める。
防壁の門が開く。
その向こうには、果てしなく続く緑の奔流が目の前に現れた。
その”緑の魔物”たちはクウヤたちの前に立ちふさがっていた。
――彼らを拒むように
クウヤをお待ちの読者の皆様、おまたせして申し訳ないです(*・ω・)*_ _))ペコリン
さて、ついに魔の森へ侵入したクウヤたち。
無愛想な魔族の案内人も加わって、この魔の森で何が起こるのか?
次回をお楽しみに!




