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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第四章 魔導学園国編
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第六十一話 突然の呼び出し

 クウヤはこの国の首長でもある学園長に魔力供給所の一件について会見を持ちたいと面会をしようとしたが叶わなかった。しかたなくエヴァンたちと食事を取った後、学園長の呼び出しを食らう。

 クウヤは中心棟を訪れていた。

 

「学園長に面会をお願いしたいのですが」


 受付の女性にそう申し出ると、職業的微笑(営業スマイル)で書類を渡された。どうやら書類を書いて予約せよということのようだった。クウヤはちょっと戸惑いダメで元々で言ってみた。


「クウヤ・クロシマが面会に来た……といってもダメですか?」


 受付の女性は小首を傾げ、職業的微笑(営業スマイル)で「はい」といって、書類に記入するよう勧めるだけだった。 

 受付女性の柔らかで頑なな反応に仕方なく、クウヤは書類に必要事項を記入し受付の女性に渡した。必要事項は名前と用向きであった。当然のことながら、クウヤは魔力供給所の件に関していろいろ礼を述べるという名目で書類を提出した。彼の本音では別の理由を書きたかったが、状況的にそれはためらわれた。彼の考えていたことは学園長に対する抗議でもあり、この国の長に対する疑念や抗議の念でもあった。それを直接ぶつけるためにそのまま書類にしたところで不必要な騒乱を巻き起こしかねないように思ったからだった。それに魔力供給所を見せろといったのはほかならぬクウヤとなっているのに大上段に構えて抗議するのも筋が通らないのではと懸念したからだった。


「面会の前日に掲示板で連絡いたしますのでしばらくお待ちください」

「仕方ないですね……。わかりました」


 クウヤとしては今すぐにも学園長に面会したかったが、あまり強引にことを進めるわけにもいかず引き下がるほかなかった。確かに学園長とは一般学生と比べればかなり密接な関係であるとは言えるがその関係はあまり公にできるものではなかった。この時ほど、クウヤはこの国の諜報活動に自らが関係していることにもどかしさを感じたことはなかった。手続きを終えると軽い徒労感を感じながら、受付を離れ、建物を出ようとする。


「いよっ! 学園長には会えそうかい?」


 中心棟の出入口を出るとすぐ、エヴァンが声をかけてきた。何時ものように明るくクウヤに声をかける。彼は中心棟の出入口のところでクウヤを待っていたらしかった。


「……まだわからんな。とりあえず、予約だけはしてみたがどうだか……」

「そっか。ま、上手くいくことを祈っているよ」


 クウヤは彼に礼を言うと、二人連れだって、中心棟を離れた。


「おーい、クウヤくんこんなところで何しているのぉー?」


 学内を特にあてもなく歩いているとヒルデがクウヤに声をかけた。彼女のそばにはルーもいた


「ヒルデー、こんなところで会うなんて奇遇だね。何してた?」

「あら? エヴァンくんもいたの。二人してこんなところでほっつき歩いて何してたの?」

「ひどい言いようだな……。そんなに暇を持て余してるわけではないんだけど」


 エヴァンはヒルデを見て、飼い主を見つけた子犬のようにはしゃいだ。彼が本当に犬だったならばし尻尾を振り千切れんばかりに振っていたことだろう。しかしヒルデはそんな彼に冷水を浴びせるように憎まれ口をたたいた。エヴァンは期待を裏切られ、少しシュンとなった。急いで飼い主のところに駆け寄ったのに「おすわり!」と言われ、訳もわからずとりあえずおすわりをしている子犬のように……。彼女はそんなエヴァンを見て小首を傾げチョロっと舌を出し微笑む。どうやら調教の時間は終わったようだ。


「話は戻るけど、こんなところで何をしてたの? 何かあったの……?」


 やることをやって本題に戻ろうとヒルデがクウヤたちに尋ねる。


「いや、学園長に面会をお願いしようと行ってみたんだが……すぐには会えんらしい」

「そう……。やっぱり例の件で面会を……?」

「ま、そうだな。今のところ、それ以外にあの古狸と面会を希望する理由はないよ」


 クウヤがやや自嘲気味にヒルデの質問に答える。


「……一人で突っ走らないで。私たちがいることを忘れないで」


 黙ってヒルデとクウヤの会話を聞いていたルーが突然思い立ったようにクウヤに懇願する。彼女はスッと静かにクウヤのそばに近寄り、服の袖を引っ張った。クウヤは彼女が何故にここまで懇願するのかよく分からず、ほんの少し疑った。しかしそれを表立って表すことためらい、ただ一言「わかっている」とだけ無表情に答えた。

 

「それに、今すぐ会えるわけでもないしね。さすがにこの国の長だし……」


 クウヤのつぶやきに三人とそれぞれの言葉でうなづく。彼らもクウヤと秘密を共有するものとしてある程度はクウヤの抱えていることを察していた。


 そんな彼らの気遣いに感謝しつつ、さらにお詫びの念を込めてクウヤは気を取り直し努めて明るく三人に話しかけた。


「とにかく、段取りだけはしたんだ。“後は野となれ山となれ”だ。腹減ったし、みんなでお昼でもどう?」

「行こうぜ! 腹減って一緒に飯食いに行こうと思っていたんだ」

「行きましょう! 久しぶりにゆっくり全員で食事が取れるよ」

「行きましょう。最近誰かさんのせいで、きちんと全員で食事が取れなかったですから」


 クウヤはルーの嫌味に苦笑しながら、心地よいものを感じていた。彼にとって間違いなくかけがえなのない仲間であった。

 とにかく彼らはどうにもできない大きな問題よりも、すぐにでもどうにかできる当面の空腹を解決する方を選択し、大食堂へ向かうこととなった。


――――☆――――☆――――


 学園の大食堂はどの時間でも、それなりに人が集まり、人気がなくなるの閉店後ぐらいしかなかった。

 そこでは様々な噂話も飛び交い、さながら巨大な学生サロンの趣もあった。


 クウヤは何とはなしに飛び交う噂話を小耳にはさみ、それとなく情報収集するのが大食堂での恒例行事となっていた。


「……クウヤ、また盗み聞きですか?」


 聞き耳をたて周りの話をそれとなくうかがっていたクウヤにルーは皮肉めいてからかう。


「盗み聞きとは人聞きの悪い! あくまで“聞き耳をたてている”だけだよ。なにもやましいことなんかしてないけど……」

「どこでそんな言い換えを覚えたのですか? モノは言いようとはいえ、あまりいい趣味とは言えませんね」

「何を言ってるんだい。“聞き耳をたてる”とは情報収集の一手段で、高尚な知的訓練の一環だよ。『待ち合い酒場(ウェイティングバー)』常連の教授が言ってたし……」

「はいはい」


 珍しく熱弁するクウヤに対し、ルーは彼の言葉を半分聞き流していた。

 ヒルデはそんな“夫婦漫才”をにやけながらお節介おばさん感満載の雰囲気を醸し出しながら眺めていた。


「……せーしゅんだわぁ~」


 エヴァンは今一つ目の前で繰り広げられている光景が理解できず、首を傾げていた。


 クウヤたちの一連のやり取りを他所に様々な噂話が大食堂を飛び交っていた。

 クウヤはルーと馬鹿話をしながら、噂話に耳を傾け、聞き耳をたてるものとそうでないものとを選別している。


“おい、聞いたか?”

“ああ。出たらしいな、古の『血まみれの魔女』が”

“どこに? 魔族領? ” 

“くわしくは知らんが魔族領近くの魔の森らしい。魔族が大魔皇帝を復活させようと動き始めているという話もあるらしい。その動きに乗ったものかもしれん”

“今さら、大魔皇帝復活なんて……。大魔戦争をもう一度やらかそうってか。魔族のやることはよく分からん……”


(古の血まみれの魔女? 血まみれの魔女……なんでそんなものが……? ……大魔皇帝復活? なんでまたそんな噂が……)


 クウヤは耳慣れない固有名詞に眉をひそめ、彼にとって空想の話でしかない噂に軽い目眩すら感じた。


「『血まみれの魔女』ってなんだ? 新しい劇の題名か何かか?」


 あまり周りの空気を読まないエヴァンが的はずれな質問をする。

 そんなときはヒルデが苦笑いし、ルーが放置、クウヤが解説し始めるのが通例だった。


「『血まみれの魔女』ってのは先の大戦のとき、大魔皇帝の尖兵として殺戮の限りを尽くしたって言われている魔道士だ。大魔戦争の封印とともに消滅したって話だが……。なんでそんなものを今更復活させるんだ?」


 クウヤはエヴァンに解説しながら、急に何か考えだす。エヴァンをはじめ、ルーやヒルデも置いてきぼりとなった。エヴァンたちは苦笑いし、またかという表情をする。クウヤが解説の途中で考えだし、他の三人が置いてきぼりをくらうことがよくあった。そうなると、クウヤはしばらく元の世界へ戻ってこないため、ほったらかすしかなかった。


 エヴァンたち三人はクウヤに置いてきぼりされたため、彼を放置して食事を進めることにした。


 四人は食事を終え、大食堂を出ると学園職員が近づいてくるのが見えた。その職員は誰かを探しているように見えた。

 しばらく様子を見ていると四人に気づいた。すると小走りに近づいてきてこう言った。


「学園長がお呼びです。すぐに学園長のところへ行ってください」 


 四人は顔を互いに見合わせながらも、戸惑いながら職員の言う通り学園長の元へと急いだ。


(なんだろうな、職員を使ってまで呼び出すなんて……? なにか無理難題を押し付けれなければいいんだけど)


 クウヤは急な学園長の呼び出しに首を捻るが学園長から呼び出される待ち時間がなくて済んだと一旦は安堵した。しかしよくよく考えると職員を使ってまで呼びされたことを思うと、どんな無理難題を押し付けられるのかと一抹の不安も感じ始めていた。


「失礼します。クウヤ・クロシマ他三名参りました」

「おう、ようきた。入り給え」


 学園長はいつものように鷹揚おうように応えクウヤたちを迎え入れる。クウヤたちも学園長の前まで一気に進み出る。

 学園長は天井まで届く本棚の前で自慢の長い髭をいじりながら、クウヤたちを見つめている。

 そんな学園長に対し四人を代表し、クウヤが口火を切る。


「実は君らに緊急で頼みたいことできてな」


 クウヤたちに新たな試練が振りかかる瞬間だった。

突然の呼び出し、どうなるのでしょうか? 次回お楽しみください。

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