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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第四章 魔導学園国編
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第六〇話 クウヤの決意

魔力供給所から帰ってきたクウヤの様子がおかしい。エヴァンたちはクウヤのことを心配するが当の本人は何をするでもなく無為な時間を過ごしていた。

エヴァンは強引にクウヤを誘い、模擬戦を行う。その後何か吹っ切れたクウヤはある決意を決め――。


お読みください。

 魔力供給所から帰ったクウヤは判然としない思いを抱えて、何もしたがらなかった。エヴァンたちは彼を心配してあれこれ世話を焼くが、反応はいまいちだった。


「クウヤよぉ、どうしたんだ? 供給所から帰ってきてなんか変だぞ?」

「ん…。ああ……」


 エヴァンの問いかけにクウヤは気のない返事しかしない。


 クウヤはずっと考え込んでいた。

 魔力供給所のでの光景は受け入れがたいものであった。過去の経験――レゾソレニアの“訓練所”の苦い記憶――を思い起こさせるものであり、クウヤにしてみればどんな形であれ二度と経験したくないことだった。そのことと魔力供給所での“実験”が妙に符合してしまい、クウヤを苛立たせ、恐れさせもした。なぜそんなことをこの国も繰り返すのか、国防上のあるいは国益上の何らかの理由がある事自体は彼もわかってはいた。しかし、それであっても心の奥底でそういった非情な国益追求について否定する感情を抑えるすべを彼は持っていなかった。むしろ彼としてはそういう感情を開放し、国家の安全あるいは国益のために人を犠牲にすることもやむなしといった風潮を消し去りたかった。


 しかし、彼にはその力がなかった。どうすればいいのかさえ濃い霧の中で動きようがなかった。また、下手に行動を起こせば彼だけでなく彼の身内、失いたくないかけがいのない存在に害を及ぼしかねない立場にいた。公爵には皇帝の監視を言いつけられ、逆に皇帝からは公爵の動きを伝えろと命令され、挙句の果てに学園長には蓬莱の監視を担わされているような政治的に極めて危ない存在が不用意な行動を取れるはずもないことに彼は直感的に感じていた。


 そういった諸々の“手枷足枷”が彼の心に重大な影響を及ぼし始めていた。


「……まったく。ほら立て。行くぞ」


 いつまでたっても、はっきりとした反応を示さないクウヤに業を煮やしたエヴァンはあるところへ彼を連れだした。


 エヴァンは学園内のある建物へクウヤを連れて行った。


「あれ? エヴァンくん……。どこへ行くのだろう?」

「何をするつもりなんだろうクウヤを連れだして?」


たまたま、その様子を遠くから見つけたヒルデとルーはこれらの後を追いかけていった。


「え……? 何をするんだい?」

「いいから、早くこれに着替えろ。こういう時にはこれが一番なんでな」


 ある建物へ連れ込まれたクウヤはエヴァンに模擬戦用の訓練着に投げつけられる。エヴァン自身も訓練着に着替え始まる。

 クウヤはエヴァンが何を意図しているのかよくわからないまま着替えだす。


「着替え終わったな。始めるぞ!」


 そういうとエヴァンは訓練用の木剣をクウヤに投げつける。彼は手に持った木剣を振りかざし、クウヤに突進する。クウヤは体勢を崩しながらも、木剣を掴み、エヴァンの攻撃をかろうじて受け流す。


「おっ!? ちょっと……!」

「問答無用! ちゃんと反撃しないと怪我するぞ!」


 エヴァンは激しくクウヤを打ち据える。しかしクウヤは反射的に木剣で彼の攻撃を受けながす。それでもエヴァンは右に左に激しくクウヤを打ち続けた。何度も何度も。


「おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!」

「くっ」


 次第にエヴァンに追い込まれていくクウヤ。クウヤはエヴァンの攻撃を受け流してはいたが少しづつ、少しづつ後ろへ後ろへ下がっていく。


「どうしたぁ! 大分体が鈍っているんじゃない?」


 エヴァンが余裕の顔でクウヤを挑発する。クウヤはその挑発に舌打ちし、激しく反撃する。


「ぬぉぉぉ!」

「……やっとやる気になったか! こいやっ!」


 二人の打ち合いは激しさを増していた。二人の打ち合いは一進一退を繰り返し、エヴァンが撃ちこめばクウヤが受け流し、クウヤが撃ちこめばエヴァンが受け止める、これを際限なく繰り返していた。


「何してるの? やめさせないと」

「いいの、いいの。しばらくそっとしておきましょう」


 クウヤとエヴァンの様子を盗み見していたルーは彼らを止めようとするが、一緒に彼らの様子を見ていたヒルデはルーを止める。ルーにはヒルデがなぜそういうのか分からなかった。


「いいの、いいのよ。男の子はあれぐらいで……」

「でも……」


 ヒルデは本当に彼女が子供なのかを疑うような言葉を発し、ルーをたしなめる。ルーにはまだ良くわからないらしく、彼らの打ち合いを物陰から見つめながら、手を握りしめ何もできない悔しさを味わっているようだった。


 その後、彼らの打ち合いは小一時間にも及びんだ。最後にはお互い木剣を杖代わりにしないと立っていられないほどなり、ついには二人とも崩れるように仰向けで大の字になり、動かなくなった。


 乱れた呼吸がようやく整った頃、エヴァンが話し始める。


「……クウヤよぉ、お前さん何考えているんだ? ずっと塞ぎこんだままじゃわからんだろ……」


エヴァンの言葉にクウヤはほだされる。思わず、何もかもぶちまけたくなる。


(……いや、何もかをぶちまける訳にはいかない。しかしこんなに心配してもらって悪いなぁ……)


「…………いや実はな――」


 クウヤは慎重に言葉を選びながら、どうしても秘密にせざるを得ない公爵、皇帝、学園長との密約や自分の過去の闇の活動などを一つ一つ避け、それ以外の当り障りのないところをエヴァンにさも深刻な悩みのようにつなぎ合わせ話した。


「ん……。いろいろ、深刻に悩んでいるんだな。難しいことはわからんが、心配するな。なんとかなる。なんとかなるんだ……きっと」


 そういってエヴァンはクウヤの肩を叩く。そしてウインクしながら親指を立てた。

 クウヤはこの時心底、話した相手がエヴァンでよかったと思った。……色んな意味で。


「あ、いたいた。エヴァンくぅん」

「あれ? ヒルデ、どうしたのこんなところで?」

「るーちゃんとお散歩していたら、ここで何か訓練しているような音がしていたからちょっとよってみたの。クウヤくんと訓練?」

「そうなんだ。ちょっと憂さ晴らしも兼ねてな」


 ヒルデに対し、やたらにこやかに答えるエヴァン。その横でクウヤは苦笑いしている。


「あれ? クウヤくんなんかスッキリした? 憑き物が落ちたような顔になってる」

「ん? そうか? 自覚はないんだけど」


 ヒルデの言葉に少し戸惑いつつ、クウヤは取り繕う。


「何にせよ、元気になったみたいだから良かった。私もるーちゃんも心配してたんだよ」

「……心配かけたな。ありがとう」


 小首を傾げ、微笑むヒルデに少し済まなそうに答えるクウヤ。ヒルデの横でルーも少しむくれて腰に手をあて、クウヤに対する抗議の意思を示す。クウヤはルーを見て苦笑する。


「……ルーも済まなかったなぁ。心配かけてゴメンな」


 ルーはクウヤをじっと見つめるだけで何も言わない。ただひたすら、クウヤを見つめていた。


「…………どうかしたの……かな?」

「…………」

「おーい、なんとか言ってよ……」

「…………」


 ルーはただ見つめているだけだった。クウヤはどうしたらいいのか分からず、慌てるが何も出来ない。クウヤはただただ慌てふためくだけだった。


「……。 くっ……。あははは」

「へっ? えっ? 何、何?」


 突然笑い出したルーに驚くクウヤ。彼には状況が全くわからない。


「あはは。いい気味。……あはは、あは……」

「……あ、あのルーさん?」


 最初、クウヤを嘲笑するように笑っていたルーであったが、次第にうつむき、その目は潤みだしていた。クウヤはどうするともなく、ルーを見つめていた。


「……私たちがどんな気持ちでいたか考えてよね。ほんとに、ほんとに……」 


 潤んだ目でクウヤを見つめていたルーだったが次第にしゃくりあげはじめ、静かにクウヤの胸へ滑りこんでいった。クウヤはただ彼女の黒髪を優しく撫でるだけだった。クウヤの腕の中で静かに彼女は嗚咽している。


「……ほんと、みんな心配していたんだからね。それだけは覚えておいてね、クウヤくん」

「……あぁ、分かった」


 ため息をつき、ヒルデはクウヤを諭すように話す。そのヒルデの言葉に、ある意味クウヤは打ちのめされていた。

 彼は一人ではなかった。そのことが彼に重苦しい喜びを与えていた。


(やれやれ、何もかも一人で全部処理しようとしてたんだがな……。これじゃ、一人で行動できないよ……全く)


 クウヤは内心ぼやく。ぼやいてはいたが、内心の声とは裏腹に表情は明るかった。


(とはいえ、このままでいるのも嫌だな。何かできることは……)


 クウヤは友人たちに囲まれながら、己のなすべきことを考え始めた。この仲間を守るために、自分自身が生きるために。そして、国家の存続のために何もをも犠牲にしても良いという風潮を乗り越えるために。そのために次の行動に出なければならなかった。


(この国が本当に目指しているものを確かめないと……。それからだな全ては)


 クウヤは決断する。この国が目指すものを確かめ、この国を蝕み始めている病巣を明らかにするために、最高権力者と対峙することを……。

いかがだったでしょうか? クウヤは動き始めました。これからどうなっていくのか?ご期待ください。

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