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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第四章 魔導学園国編
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第四十五話 魔導学園国マグナラクシアの夜

 魔法学園国に到着したクウヤはふらっと街を彷徨う。何者かの気配に追われ、辿りついた公園にいた老人から謎の話を聞く。お読みください。

 リクドーを出発する当日、リクドーの港には大勢の見送りが集まっていた。


 クウヤとエヴァンも港にいた。


「すごい人が集まっているな」

「……そうだな。しかし、みんな仕事もあるだろうに。暇人が多すぎる」


 集まった群衆を前に、呆れ顔で二人は顔を見合わせる。中には、受験生の見送りと知らず、お祭りか何かと勘違いして場違いな宴会を始めるものまでいた。


 とにかく、港はいつもの船の入港以上に興奮が高まり、お祭り騒ぎはいつも以上に盛り上がっていた。


 船着き場を見るとクウヤと同世代の子供が何人かいた。どうやらクウヤたち以外にも受験生は数人いるようで、皆リクドーを本拠地とする大商人の子女のようであった。それぞれの家から使用人たちが見送りに駆り出されていた。


 クウヤの見送りはソティス、子爵夫人ぐらいで子爵本人は港には現れていない。エヴァンの見送りも大商人のわりに少なく、両親とわずかばかりの使用人だけだった。


 そんな港の喧騒とは関係なく、学園からの迎えの船が静かに入港してきた。


 黒光りする船体は異様な威圧感を放ちながら、船着き場に近づく。帆もなく、外輪もない船体は静かに海面をすべる。魔導の力で走る魔導船である。このような魔導船はリクドーでは入港することはなかった。その異形な船に船着き場の全員が息を飲む。そんな群衆を無視し、まるで深海から現れた魔物のような船体を静かに船着き場へ停泊する。


「さすが、魔導学園。やることが違うな」

「確かに。帆もないのに、こんな馬鹿でかい船を動かしているなんて……」


 完全に停泊すると船からタラップが降りてきた。船内から魔導学園の関係者と思われる、見慣れないローブを着た人間が下りてくる。


「魔導学園受験生は集まってください。本人確認をします」


 その声に反応し、受験生たちがタラップにあつまる。


「よし、いくか」

「おう」


 クウヤたちは見送りに来た人たちを背にして歩き出す。彼らの見送りの人々は各々、手を振り見送る。簡単に本人確認をすませた彼らは他の受験生たちと一緒に次々乗船していった。


 受験生たちが乗船完了すると、タラップが船内へ収納される。タラップが収納された数秒後、汽笛一声ゆっくりと船着き場から離れ始める。


 汽笛がなると見送りに来ていた人々が一斉に船に向かって手を振り始める。口々に声援を船に向かって送る。


 その歓声に見送られ、黒い異形の船は沖を目指し出港していった。


――――☆――――☆――――


「乗船の受験生に告げる。まもなく本船は魔導学園国マグナラクシアに到着する。各人は荷物をまとめ、下船準備をせよ。繰り返す、まもなく本船は――」


 船は数日かけて、魔導学園国「マグナラクシア」についた。通常の帆船では二週間ほどかかる航路を魔導船は数日で駆け抜けた。


――魔導学園国マグナラクシア。それは大魔大戦後、世界の平和と魔導技術の適正な開発研究のために作られた人工国家である。このマグナラクシアでエリート層の教育と人材交流を図り、魔導技術の恩恵を普く広める教育研究を行っており、さながらこの世界の知の殿堂であった――


「やっと、陸に上がれるな」

「まったくだ。船に閉じ込められていると体が鈍る」


 たった数日の船旅に飽きていたクウヤとエヴァンはもうすぐ上陸できることに安堵する。


「ただ、魔導船でよかったな」

「ん? どういうことだ? 結構この船でも窮屈だったが……」


 クウヤが急に言い出したことにエヴァンが首をかしげる。


「普通の船なら、マグナラクシアまで二週間ほどかかかるらしい。そうなるともっと苦痛だぞ」

「なる。……ちげぇーねぇな。こんな窮屈な棺桶みたいな所に二週間ほども押し込められるなんて、真っ平御免だ」


 彼らが他愛もないことを話している間にマグナラクシアの港に入港した。


 港からマグナラクシアの街並みがみえる。その街並みはまるで水晶の巨大な摩天楼がいくつも立っているような不思議な街並みであった。その光景に息をのむ受験生たち。クウヤたちも同じように水晶街に圧倒される。


(……しかし、この光景に見覚えが。転生前の記憶?)


 受験生は全員、港近くの宿に移動し、翌日の試験の説明を受ける。その後、解散した。


――――☆――――☆――――


 荷物を部屋に置いたクウヤは、ふと街並みを見たい衝動に駆られ、ふらりマグナラクシアの街へ向かった。


 街には他の街にありがちな歓楽街らしきものは見当たらなかった。辺りはすっかり暗くなり、光り輝く摩天楼群だけが夜空に向けてそびえている。


 その景色にクウヤは既視感を覚えた。初めての街なのに、何度も訪れたかのようななんとももどかしい感覚にクウヤは戸惑っていた。


 もどかしい思いの源を探すように、光の塔となった摩天楼群の間を彼は歩く。歩きながらクウヤは背後に怪しい気配を感じ、歩みを早める。


(何でこんなところにまで?)


 しばらく感じていなかった“敵”のような気配に彼は自分の気のゆるみを恥じた。彼は“気配”から距離をとるため駆け出す。しかし、その気配との距離は取れない。付かず離れずの気配に対し、次第に苛立つ。


(ちぃっ……。しつこい!)


 どの位、正体不明の気配との追いかけっこを続けただろうか、いつの間にか夜の海の見える公園にたどり着いた。不思議とそこにたどり着くと怪しげな気配は消えていた。


(……何だったんだろう? さっきの気配は)


 彼は何気なく公園に入り、海を見つめていた。


「おやおや、珍しい。こんな時間に子供が公園におるとは」


 突然の声に辺りを見回すといつの間にか老人が傍らに歩み寄り、彼のすぐそばに近寄ってきた。

彼は身構え様子をうかがいつつ、その老人に話しかける。


「おじいさんはこの辺に住んでいるの?」

「まぁそんなところじゃ。ところでお前さんはどこから来たのかの? 見かけない顔だが……」


 クウヤは自分が魔導学園の受験者であることを明かし、リクドーから来たことをその老人に話した。


「……そうか、そうか。魔導学園の受験者か。がんばれよ。将来は宮廷魔導師か何かかな?」

「……まだわかりません。ただ、魔法でおかしくなった友達を助けたくて。魔導学園に入ればそんなこともできるようになるんじゃないかと思って」

「ほうほう。なかなか殊勝な心がけじゃの。ところで、坊主はこの国がどんな国か知っておるかのぉ?」

「へ?」


 クウヤは老人の突拍子のない質問に面くらい、何を答えていいのかわからなくなる。とりあえず、知っていることを話してみた。


「どう答えていいかわかりませんが、この国は大魔大戦の後、再び大魔皇帝のような魔法を悪用し、世界を混乱に陥れることのないよう建国されたと聞いています。また魔法の力によって、どんな国よりも豊かで快適な生活をおくれる国……ではないでしょうか?」


 老人はクウヤの答を聞き、軽くため息をつき、苦笑いする。老人の反応にクウヤは訝しむ。


「……ま、表向きは坊主の言うとおりじゃ。ただ、お前さんの言うことにはちょっと足らんことがあるのぉ」


 クウヤは憮然として老人の言葉を聞いた。そんな彼に気づいたのか、更に言葉を続ける。


「この国はただ単に世界の魔法をあつめただけの国ではない。その力を使い、世界を再び戦乱の渦中に落とさない使命を持って建国されたんじゃ。その対価として世界で最も豊かな生活をおくることができるようになったんじゃ。良く覚えておけよ」


 今一つ、質問の意図が分からないクウヤは愛想笑いでうなずくしかなかった。


 老人は更に質問を続ける。


「では、別の質問をしようかの。この国は多くのことを魔法に頼っておる。この事についてどう思うかの?」

「この国は総てを魔法に頼って他の国々とは比較にならないほど発展していると思います。他の国も魔法の力を使えればこんなふうになるのかな……。魔法によってもっと多くの人が幸せになれるんじゃないかと思います」

「ホッホッホッ、なかなか素直な答えじゃの。それは本音かの?」


 クウヤは答えない。魔法によって不幸になることも痛いほど知っていたからである。その反応に老人は目を細める。


「魔法自体はいいも悪いもない。それをどう使うかじゃ。欲望もまた同じ。魔法は人々の欲望によって出来上がっておる。覚えておくと良い。この国はその魔法の技術の粋を集めた国じゃ。総てを魔法に頼っておる。つまりはこの国は人々の欲望で成り立っている国ということを覚えておくと良い。そしてお前さんはもしかしたらそんな欲望という炎に寄ってきた虫かもしれんの。ホッホッホッ……」

「はぁ……」


 クウヤは老人の突拍子のない発言に気のない返事をするしかなかった。その老人は言いたいことを言うとクウヤに帰り道を教え、どこへと無く立ち去っていった。なんとも言えない疲労感を覚え、老人に教えられた道を帰っていった。


――――☆――――☆――――


 一夜明け、試験当日の朝改めて宿の窓から街並みをクウヤは眺める。不夜城のような建物群が徐々に夜明けの光に照らされ、光のオブジェがクリスタルのオブジェへと変わる瞬間を眺め、クウヤはふと郷愁に駆られる自分とそれを冷静に観察する自分がいて微妙な気分になる。昨夜の老人の話も重なって余計心の底に重たいものを感じた。


(前の世界はこんな感じだったんだろうな。何となく覚えている景色と似ている……。この景色が欲望の塊なら、元いた世界は欲望の……?)


 おぼろげながら、記憶の底からわき上がってくる転生前の世界の風景と魔導学園国マグナラクシアの風景がどことなく重なり、何故か元の世界へ戻ったような心地になっていた。それと同時に昨晩の老人の言葉が妙に記憶に残り、それが自分の過去の扉を押し開く鍵のようにも思えてきた。


 宿の窓からそんな光景を一通り眺めたあと、試験へ行く準備を始める。


(よし、いくか! 今は魔導学園に合格することが一番大事だ。難しいことはあとで考えよう)


 そうして、クウヤはエヴァンと試験会場へ向かった。

 次やっと受験できるクウヤくんw 前置きが長かったですが、少しずつ物語は前にすすんで行きます。ご期待ください。

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