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第三十八話 訓練所壊滅 ①

 大音響とともに、現れた”救いの女神”ソティス。彼女は”女王様”と対峙する。

 そのころ、訓練所付近の森に黒い一団が訓練所を襲撃する。助けだされたクウヤはソティスの思わぬ行動をとり――


 お楽しみください。

 訓練所に大音響の爆発音が響き渡る。その大音響とともにクウヤの救いの”女神”が現れた。ソティスが訓練所に殴りこんできたのだ。


――クウヤを救うために。


 彼女は単独でこの訓練所の奥まで侵入したらしく、彼女の他に侵入者の人影は見受けられなかった。彼女は必死にクウヤの名を呼び、探した。


「クウヤ様ぁー! どこですかぁー!」

「ここだー! ここだぁー!」


 ソティスの呼びかけにクウヤは必死に答える。慌てて、ソーンがクウヤの口を塞ごうとする。クウヤはソーンの行為に対して必死に抵抗し叫び続けている時、激しく扉が蹴破られた。ソティスが扉を蹴破って部屋の中へ飛び込んできた。


「クウヤ様っ! ここでしたか!」

「ソティスっ!」

「何ものなのっ、あなたは。こんなことをしてっ。ぐっ! ……」


 ソティスは部屋に突入するや否や、ソーンを突き飛ばしクウヤを確保した。すぐさまソティスはクウヤの拘束を解く。その光景を見たソーンは憎悪に満ち満ちた視線でソティスを睨む。


「……あなた、こんなことをして無事に済むと持っているの! せっかくのあたしの訓練所あそびばを……」

「どうでもいいわ、そんなこと! あたしには関係ない。あんたが何をしようがどうでもいいわっ!」


 ソーンは立ち上がりながらソティスと激しく罵り合う。ソーンは珍しく取り乱し、憎悪に満ちた目でソティスを睨む。ソティスはそんな彼女の行動を意に介せず、素早く詠唱した。


『閃光よ、きらめけ!』

「何っ! ……くぁっ、見えん、どこだぁ!」


 ソティスは閃光を放ち、ソーンをけん制する。ソーンは虚を突かれ閃光をまともに直視したため、短期間ではあるが失明状態になった。その隙をついて、ソティスはクウヤを抱え、ソーンの部屋を飛び出していった。


「……ソティス、待って。まだ助けないといけないみんながいる! もどって!」

「……戻れません! 子爵様からはクウヤ様だけを救えとのご指示です。行きますっ!」

「待って、ソティス! ソティスっ! みんなが奥にぃ……。奥にみんながいるんだぁー!」


 クウヤは年相応に手足をばたつかせ、駄々をこねるようにソティスに訴えた。しかし、二人を取り囲む状況はそんな彼のわがままを満足できる状況ではなかった。じっくりと諭す時間もなく、業を煮やした彼女は、やむを得ず強硬手段に訴えざるを得なかった。


「クウヤ様……。失礼っ!」

「ぐふっ! ……」


 ソティスはクウヤのみぞおちに一撃を加え、黙らせた。ソティスには時間がなかった。急ぎ、脱出をしなければならなかったからである。


 こうしてソティスはクウヤを抱え、竜巻のように訓練所をかき回し、脱出していった。


――――☆――――☆――――


 訓練所近くの森の闇の中、うごめく男たちがいた。全員、黒光りする軽鎧を装備し、訓練所の様子をうかがっている。


「全員準備はいいか?」

「はっ」 

「……ソティスはどうか?」

「まだ……のようです」

「そうか、遅いな」

「……あれじゃないですか? 来ました! 目標も確保しているようです」


 その男たちの群れに、ソティスが合流する。


「遅くなりました。目標を確保」

「よし。手はず通り始めるぞ!」


 その号令とともに、男たちは黒い奔流となって一斉に訓練所を襲撃した。訓練所への侵入は、すでにソティスが入り口の警備を倒していたため簡単にできた。奥から研究員がでてくるが、何の問題もなく打ち倒し、訓練所の奥へなだれ込んでいった。


 その様子は少し距離をおいて待機していたソティスにも確認できた。待機しながら、クウヤの側で周囲を警戒している。クウヤはまだ意識を取り戻しておらず、ソティスの傍らで横たわっている。


「……無事でよかった。ほんとに気が気でなかったんですよ、わかってますか?」


 未だ意識の戻らないクウヤに、ソティスは独り言のように優しく語りかける。彼女の眼差しは一瞬、慈愛に満ちた聖母のようでもあった。ソティスの胸に様々な思いが巡る。


「ほんとにこの子は周りをひっかき回さずにはいられないのねぇ……。でも、無事でよかった」


 ソティスは優しくクウヤの頭を撫でる。すると、彼女の行為に反応するようにクウヤはかすかに身悶えた。


「……ん? ここは? みんなは大丈夫?」

「お目覚めですか、クウヤ様」

「ソティス、みんなは大丈夫なの?」

「……」


 意識を取り戻したクウヤはソティスに他の子供たちの消息を尋ねた。しかし、ソティスは目を伏せ、黙して語らなかった。その様子に何かを察した彼は、急ぎ訓練所へ向かおうとする。


「お待ちください! 今から向かって何をされるおつもりですか!」

「助けにかなきゃっ! みんなあの中にいるんだ!」

「ダメです! もう、間に合いませんっ!」

「なんでだよっ。今ならなんとかなるでしょ!」


 ソティスが必死にクウヤを引き留める。クウヤは彼女の声を無視して、なおも訓練所に向かおうとする。その時、訓練所の方から爆発音とともに訓練所の入り口から仄かに火の手が見えた。彼女はその音を聞くや否や、周囲に対する警戒を尚一層強めた。幾度か地響きを感じたソティスは訓練所のほうを注視した。出入口は暗く、はっきりとしないが何者が飛び出てくる気配がした。どうやら、訓練所の研究員ではなさそうだった。


 訓練所から黒ずくめの男たちが駆け出してきた。そのあとに大小幾つかの影が現れた。小さい影はどうやら、青の部屋の他の子供たちのようだった。大きい影は……女性のようだった。黒づくめの男たちは研究所から出てきた一団を警戒し、距離をとる。その様子をクウヤは見つめていた。


「みんなぁっ! よかった生きてる」


 クウヤの安堵の声を上げると同時に、一人の子供が弾け飛んだ。男たちは防御して、かろうじて致命的な負傷は避けられたようだった。


「えっ……?」


 クウヤは何が起きたのか目の前の出来事を理解できなかった。否、彼の心が目の前の出来事を受け入れることを拒否したため、頭が全く働かない状態に陥っていた。どうしようもない現実に彼は立ち尽くすばかりだった。彼にやっと追いついたソティス彼をこの場所から引き離そうとする。


「クウヤ様この場は彼らに任せて、離れましょう。さぁ早く!」

「……」

「クウヤ様っ! 行きますよ」

「……やだ。みんなを助けるんだ」

「クウヤ様……」


 クウヤの思いは強く、ソティスの説得もさほど効果はないようだったが、状況はクウヤが考えるほど、楽観的なものではなかった。


 クウヤの思わぬ行動で困惑するソティス。黒い男たちは訓練所を襲撃するが――


 次回、お楽しみください。

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