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第三十六話 暗転

 過酷な訓練所での生活の中、クウヤたちは少しずつ距離を縮め始める。クウヤたちの関係が深まる中ある事件が起きる。クウヤは怒りに打ち震え……


 お読みください。

 あの日以来、クウヤたち少しづつ距離を詰めていった。お互いの境遇などもほんの少しずつではあるが話し合うまでになっていた。皆、悲惨な境遇からなんでもいいから抜け出すためこの訓練所に来たものの、その扱いのひどさに口々に文句を言い合えるほど、出会った当初から考えると想像以上にお互いの仲はよくなっていった。


「……女王様ソーンは絶対、変態だ」

「違いない。俺たちをいじめて、なんだか気持ちよさそうな顔しているし……」

「だよなぁ……」

 

 そんな他愛のない会話ができるまでの仲に進展し、仲間意識といえるものまで出来始めていた。そんな日々を過ごしていたある日、クウヤと他の子供たちとの関係が大きく変わることになったある事件が起きた。


 それはいつもの様にクウヤと他の子供たちと別々に訓練したあと、帰ってきた青の部屋でのことだった。いつもと変わりなく、へとへとになって帰ってきた彼は部屋の雰囲気に違和感を感じた。


「……どうしたの、みんな? そんな黙りこくって……」


 部屋の中にいた他の子供たちは何も喋らず、皆一様にベッドに座り膝を抱えていた。昨日まではクウヤが帰ってくると顔を上げ、出迎えてくれていたのが今日は訓練所についたすぐのように誰一人として彼に関心を示さなかった。彼が途方にくれているとこへ、研究員たちが食事を運んできた。


「お前ら、飯だぞ。とっとと食え」


 無言で他の子供たちは無気力な感じでベッドから億劫そうに這い出し、食事にありつく。彼らが立ち上がった時クウヤには彼らの胸の真ん中辺りがほのかに赤く光っているよう見えた。ただ、食事にありつくため、動き出したその姿はまるで命令者の言うがままに動く機械人形か生ける屍のようであった。そんな姿にクウヤはさらに驚愕していた。昨日まではあんなに元気だったのにという思いで目の前の”生ける屍”たちを見つめていた。


「おい! こいつらに何をしたんだ! 完全に生ける屍になっているじゃないか!」


 クウヤは食事を持ってきた研究員たちに食って掛かる。が、研究員たちは彼の心からの抗議を事も無げに却下する。


「お前何様のつもりでいるんだ。前にも言っただろう、ここではお前らは人じゃない、実験動物だとな。今さら何を憤っているんだ。お前もその一匹でしかなんだぞ。わかったら他の連中のようにさっさと飯を食え!」


 クウヤの心の奥底からふつふつと怒りが湧いてきた。


――生ける屍のようになった仲間たちを実験動物のように扱う研究員たちにそして、現状で彼らのために何一つできない自分自身に対して――


 その怒りが頂点に達した時、クウヤは行動に移さざるを得ないほどの衝動を感じた。


「うおをぉぉぉぉぉー!」

「こいつ何を! やめろ、やめろぉー!!」


 気づくとクウヤは研究員の一人を殴り倒していた。彼の拳の力でふっとばされた研究員は部屋の壁にぶち当たり、ぴくりともしなくなった。


「こいつぅっ! 何をしやがるっ! 実験動物の分際で!」


 残った研究員はクウヤを掴み、もみ合う。クウヤは数発殴られたが、倍以上にして掴みかかった研究員を殴る。研究員はクウヤの服の一部をもぎ取り、なおもクウヤを取り押さえようと掴みかかった。

クウヤは拳にあらん限りの力を込め、研究員のみぞおちに一撃を放つ。


 研究員は声にならない、吐息のような音を吐き出し、静かに膝をつき床に崩れた。他の子供たちは何の感情も示さず、しらけたよう様子でただ突っ立ってその光景をぼんやり見ていた。


 クウヤは倒れた研究員をしらけた気分で見つめた。彼は研究員が完全に気を失っているのを確認すると、部屋の奥の方に引きずっていった。仕方なく部屋の中にあったベッドのシーツを引き裂いて作ったロープで手足を縛り、猿さるぐつわをした。もう一人を同じように縛り上げたところで大きくため息をついて、自分のベッドに座り自分の行為を振り返る。


(……どうしようかな。なんだかやってしまった気がするんだけど)


 冷静になるにつれ、自分の行為が短絡的だったことに気づき、後悔の念がこみ上げてくる。とは言うものの、あの状況では自分を抑えきれなかった。どうしようもない破壊衝動が自分の奥から湧き出してきたことを彼ははっきり覚えていた。どう考えても今の彼には制御不能の事態に思えた。


(考えても答えが出ないなぁ……。やめたっ! 今考えてもどうしようもないや)


そこで彼はそのことを考えることをやめ、無理やり意識的に別のことを考えることにした。


「みんな大丈夫? さっきからなんにも言わないけど、どうしたの? 昨日までとまるで違うじゃない」

「……」

「何とか言ってよ! 喋れないわけじゃないんでしょ!?」

「……」


 クウヤの問いかけに他の子供たちは何の反応も示さず、ただ突っ立っていた。クウヤは仕方なく、やり方を変えることにした。研究員の一人の胸ぐらをつかんで上半身を起こし、両頬を平手打ちにした。


「おい、起きろ! いつまでも、伸びているんじゃない!」


 何度か平手で両頬を往復すると研究員は正気を取り戻した。クウヤはそこでつかさず問い詰める。


「お前ら、こいつらに何をした! 何をしたんだっ!!」

「痛ってぇ! 何するんだ! こんなことをしてただで済むと思うなよ」

「うるさいっ! 何をしたかいえって言ってるんだ!」

「あぅ……! 分かった、分かったからやめろぉー」


 クウヤの剣幕と平手打ちの激しさにとうとう研究員は観念した。


「……こいつらには、人工魔導石を植えつけた。不足している魔力を補うだけでなく大量の魔力を溜め込めるようになったんだ」

「何のためにそんなことを……。いったいこの訓練所では何をしているんだ? いったいここなんのための施設なんだ?」


 研究員はクウヤに訓練所ついてやここでの実験について説明し始めた。


――この訓練所は当初魔力の少ない人間の魔力を引き上げ、魔法行使を自在に行える方法を広めるために先代教皇の代に作られた。そうすることで、生活困窮者に生活の糧を得る手段を与えることも目的だった。しかし、今の教皇ディノブリオンに代替わりするとにわかに訓練所の位置づけが変わった。訓練所の責任者としてソーンが着任すると同時に孤児に対する実験が始まった。研究員たちも当初はそのような実験には反対していたが、ソーンにより強硬に反対する研究員を実験材料として使い、殺害されたところからソーンのやり方に異を唱えるものは皆無となった。ソーンは実験の目的を”人の可能性を拡大する”として説明していたが、半分は個人的な趣向によるもではないかと思われる実験という名の虐待が続けられた。そのような実験も時を重ねればそれなりに結果は残るもので、その実験結果の集大成が“人間爆弾”だった。なんとか実用化出来る段階になって、さらにソーンの実験に求めるものが過激なって今に至る――


「……大体のことは分かった。しかし、孤児たちを一緒になって虐待していたのは事実だろう。それは何故だ?」


 クウヤの口調が冷たい詰問調で、研究員をさらに問い詰める。


「やめられなかった。最初はそんなことするつもりはなかった。けど、だんだん実験の辛さから逃れるために孤児たちに八つ当たりし始めたら、思いの外、快感で…げふっ!」


 クウヤは研究員の言っていることに抑えられない怒りを再び感じ、腹に一発拳を入れた。研究員は呼吸困難になりもがいている。


(こいつを締め上げてももう何もでないだろうな。ここには長居するべきじゃないな)


 しかし、脱出方法が見当もつかず、考えあぐねる。


(ほんとにこれからどうすれば……。みんなも変になってしまったし、脱出する方法も見つからない……)


 クウヤは途方に暮れる以外になかった。彼の状況は仄かに明るさが見えたが一気に暗転してしまった。



 怒りに任せ研究員たちを殴り倒したクウヤ。今後どうなるのでしょうか?


 次回お楽しみに。

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