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第三十ニ話 蛇の腸(はらわた)②

 人の剥製を保管している部屋から出たクウヤは廊下の様子を伺いながら奥へ進んだ。先ほどの部屋で見たものが脳裏に張り付いていて、ちょっと気を抜くとその光景がフラッシュバックしてくるのを必死で耐えながら、探索を続ける。


(本当にここは何なんだ?あんなものまで置いてあるなんて…。一体どこが”訓練所”なんだろ?)


 次々とこみ上げてくる吐き気と嫌悪感に悩まされながらも、奥へと進んでゆく。相変わらず人気のない通路は奥が見えない。


(……おかしい。人気がなさすぎる。)


 人気の無さに疑問を抱きつつも、更に奥へ進み、訓練所の中を探索する。ただ、胸の気持ち悪さも時間感が経つたび増してきた。やがてそれは耐え難いほどのものとなり、その場所にうずくまるしか無くなった。


「なんなんだ、この気持ち悪さは…。まるで腹の中で蛇がのたうち回っているみたい…」


 動けなくなったクウヤはその場でうずくまり、朦朧としてきた意識で辺りを見ている。すると遠くから何かしらけたたましい音となん人かが駆け寄るような足音が聞こえてきたが、彼にはどうしようもなかった。


「…くそっ。体が…。うごっ…」


 クウヤは無理やり体を動かそうとしたが全く動けなかった。そうして最後の最後まで抵抗し掴んでいた意識を手放し、夢うつつの世界へ飛んでいった。


――――☆――――☆――――


 警報を聞いた訓練所の何人かの研究員たちがあちこち探しながらクウヤのうずくまっているところまで駆け寄ってくる。彼を見つけた三人ほどの研究員たちはため息をつきながら、彼を軽く蹴り倒し、顔を確認する。


「やれやれ、警報がなったんできてみれば、やっぱりか」

「どうするよ。これ?」

「まぁ、こいつならベッドに放り込んでおけば特にお咎めを受けるようなことはあるまい。連れてけ。なんせ女王ソーン様のお気に入りらしいからな」

「んじゃ、行きますか。…体の割には結構重いな、こいつ」


 そう言うと、二人がかりでクウヤを抱え歩き出す。手ぶらの研究員は彼の持っていたお守りに気づき、自分の手にとって弄ぶ。


「しかし、便利なもんだなこのお守りは」

「こいつを身に着けている限り、この訓練所から抜け出ることはできないからな。まぁそのことに気づかせないようにうまくやるさ。いぬっころをつなぐ首縄みたいなもんだからな」


 そう言いながら、研究員たちはクウヤを抱え青の部屋へ彼を連れて行った。


――――☆――――☆――――


クウヤが気付くとベッドに横たわっていた。そんな彼の枕元にはあのお守りが置いてあった。


「…お守りの効果…? そんなわけないか」


 ある意味クウヤの推測は当たっていた。ただ、その効果が彼の想像したものと真逆のものであるが。そんなことを知ってか知らずか、お守りを懐に入れ彼はゆっくりと身を起こす。


「…とりあえず、これからどうするか…だな」


 これからのことについてクウヤが考え始めた時、部屋の扉が乱暴に開けられた。彼は驚いて扉の方を見る。他の子供達も、その音に起こされ眠い目を擦りながら起き始める。扉のところには薄汚れた研究着を着た神経質そうな研究員が部屋の中を伺っているのが見える。ひと通り部屋を見渡すと、その研究員は口を開いた。


「青の一から五まで、部屋をでろ。六はこの部屋で待っていろ。さぁ早く起きるんだ。急げ」


 そう言われた子供たちは無言でベッドから這い出し、緩慢な動作でよろよろと扉の前に集まった。それは死人使いに使役される生ける死体のようであった。実際呼び出された子供たちの表情は生気がなく顔色も悪かったので生ける死体と言えなくもなかった。突然のことに、クウヤも動揺したがどうすることも出来なかった。彼ができたことは何も言わず他の子供達が部屋の外へ連れ出されるのを見送るぐらいだった。


「揃ったな。グズグズするな、いくぞ」


 その研究員は子供たちを追い立てるように部屋から連れ出し、部屋の扉を乱暴に閉めた。クウヤは部屋にただ一人残された。あまりの急展開にしばらく彼は呆然としてベッドに座っているだけだったが、気を取り直して考え始めた。


(取り残された…のかな? どうすれば…)


 クウヤは何も妙案が浮かばないまましばらくベッドで寝転がっていると、遠くから何やら微かに叫び声のようなものが聞こえた気がした。どんどん不安になってきた彼は部屋の中をうろつき始める。そうすると、再び部屋の扉が開き別の研究員が彼を呼び出した。しかたなく、彼はその研究員に黙ってついていった。


 通路に出ると、部屋の中で聞いた声が一層強く大きくなったことにクウヤは気づく。そんな声を研究員は全く気にしていなかった。その研究員の様子に彼は不信を抱く。叫び声ははっきり聞こえており、研究員に聞こえていないはずはなかった。


「…あの。…さっきから変な声が聞こえると思うんですがあれは何でしょう?」

「お前の知る所ではない。余計なことは気にするな。ここではそう振る舞ったほうが楽だぞ」

「…はい」


 クウヤはできるだけ下手にでて質問してみたが、研究員にけんもほろろに拒絶され、二の句が告げなかった。ただその様子から、他の子供たちが優しく丁寧な扱いを受けていないことだけは想像できた。おそらくは、ついてすぐに受けた”検診”程度の虐待を今頃受けているのかもしれないと彼は想像した。そこまで考えて、ふと恐ろしくなった。今聞こえている叫び声の主が誰なのかを。


クウヤは抜けられない地獄の底にいることに改めて恐怖を感じた。

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