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第二十六話 核心へあと一歩

すいません。今回はいつもの倍の量になってしまいました。いつもより大分長いですがお読みください。

 ほのかに明るくなった室内に朝日が差し込む。朝日に照らされ、クウヤが目を覚ます。辺りを見渡すと、まだ周りの子供たちは毛布にくるまり眠っている。昨晩話をしたとなりの少年もまだ寝息を立てている。すると何やら遠くから芳しい匂いが漂ってくる。彼はどこか辺りを見回し、その匂いの出処がどこか探す。彼はゆっくりと体を起こし立ち上がり、匂いの元へ歩いていく。毛布にくるまった子供を踏まないように慎重に跨ぎ、匂いの方へ近づいていく。


 入口とは反対方向からその匂いは漂ってきているようだった。クウヤはその匂いにつられるように匂いの元へさらに近づく。すると匂いの元からは何やらけたたましい声と音が聞こえる。そこはこじんまりとしてはいたが、大勢の食事を作ることできる厨房で、何人かの人が忙しく働いているのが見えた。彼はそっと近づき、様子を見守る。


「なんだ、朝ごはんか……」

「あなた見慣れない子ね」


 厨房の様子を眺めていたクウヤを見つけ、中なら声がかかる。彼は少し驚き、声の主を探す。見ると厨房の中には恰幅のいい中年女性がこちらを向いていた。その女性はこちらの様子を伺いながらも、作業の手は休めなかった。


「昨日の夜、ここに来たんだけど……」

「そう。もうすぐ朝食の準備ができるから、そっちの食堂でまっててね」

「はい……」


 そう言われたクウヤは言われた通り、食堂へ歩いていく。歩いてったのはいいものの食堂がどこか彼にはわからなかった。歩く途中に部屋のようなものが見えたが、最初そこを彼はなんの気なしに通り過ぎた。食堂は彼の屋敷に比べれば貧素で、狭っ苦しい感じの食堂であった。そのため彼はそれが食堂とは最初認識できなかった。ただ、廊下は短くそれらしき大部屋がほかに見当たらなかったため、引き返しその部屋に入った。


 食堂の中にはほとんど人はおらず、壁の明り取りから日の光が薄暗い部屋を照らすのみであった。クウヤは部屋の中を伺いつつ、おっかなびっくり中へ入る。


「なんだか雰囲気が悪いなぁ……。大丈夫かな?」


 そう呟きつつ、一番奥の隅の席にクウヤは陣取った。席についてしばらくして、子供たちや導師たちも三々五々集まり、明々好きな席に着く。全員が席に着いたところで、個々に配膳されていゆく。配膳されたものをクウヤはまじまじと見る。食器にはわずかばかりの野菜が浮かぶスープと軽石のようなパンが二切れだけであった。彼はその貧弱な朝食に驚きを隠せなかった。しかし、周りは彼の驚きとは関係なく食前の祈りがはじまる。彼にとって祈りの言葉は全く意味不明の雑音にしか聞こえなかったが、目立つわけにも行かないため周りに合わせて、祈っているふりをする。


(何を言っているのだろう?祈りの言葉がわからない……)


 とりあえず、一通りの祈りが終わり皆が声もなく朝食をとり始める。慌ててクウヤも同じように朝食を取る。クウヤは白湯さゆのように薄いスープで軽石かるいしのようなパンを流し込む。他の子供達や導師たちも一種の作業のように淡々と食事を取る。彼は隣に座った子供に恐る恐る尋ねる。


「毎朝こんな物が出るの?」

「何言っているんだい!物が食えるだけありがたいと思わないと。スラムじゃゴミを漁って食いもんを見つけないといけないんだ。それを考えるとはるかに良い飯だよ。俺の弟はゴミを漁っているところを見つかってスラムの大人に追い掛け回された挙句、食ったものにあたって死んだんだ。そんなことがないここは天国に感じるよ。孤児に食料を恵んでくれるやつなんてほとんどいないし、ここのおばちゃんとか導師様たちが頭を下げて余った野菜なんかもらったり、身銭切ってくれるから、なんとかこんなものでも毎日食えるんだ。文句を言ったらバチが当たる」

「そっか……。そうだよね……」

「どうでもいいこと考えないでさっさと食べな。食わねえと力でないぞ」


 そう言われクウヤは白湯さゆスープで軽石パンを喉の奥へ流し込む。彼はここの朝食を取りながら、自らの境遇がそれなりに恵まれていたことに気付かされる。少なくとも彼が毎朝食べていた朝食に出てくるスープにはしっかりとした味がついていたし、しっかりと食感がわかる具の入ったスープであった。パンも軽石と区別がつかないほど乾燥しきり、スープか飲み物と一緒でないと飲み下せないようなものではなかった。ここで出されるスープとパンは彼からすれば、家畜に与える餌同然であった。そんなものでさえ、ありがたがる階層の人間と食事を共にすることが全くなかった彼とって大きなカルチャーショックであった。


(ここの人たちはなんでこんな物しか食べることができないのだろう?父上はいろいろ対策はしていると言っていたのに……。それになんでこんなもので満足しようとするのだろう?)


 ここでの出来事はクウヤの胸に深く刻まれ、長く彼の記憶に残るものになる。


 そうして皆の朝食が終わった。食事が終わると全員が食事終わりの祈りを捧げ、三々五々食堂を去っていく。彼は食堂に一人残され、どうするともなくとりあえず食器を返す。彼は食器を返したあと、食堂を出て廊下をうろいた。すると廊下の奥の方で子供たちが何人か集まっているのを彼は見た。その前で導師が何ごとか説明している。興味を惹かれた彼は近づいて話を聞くことにした。


「……ということだ。希望者は後で名乗り出るように」


 クウヤが着いた時にはほとんど説明が終わっていた。導師はひと通り説明を終えると、どこかへ歩いて行った。説明を聞きそこねた彼は集まっていた子供の一人を捕まえて何事か尋ねる。


「何の話?」

「どっか別の場所で、魔法とかみっちり教えてくれるらしいよ、タダで。教えて欲しければさっきの導師にいえばいいんだと」

「魔法をねぇ……」

「まぁ、ウソかホントかわからんけど、タダで魔法を覚えられるなら、結構オイシイわな」

「わかった。ありがと」


 クウヤは礼を言うと仄かにほくそ笑む。また一歩事件の核心に近づける手がかりが彼の前に勝手に転がり込んできたからである。彼はそのまま件の導師を探して、集会所内をうろつき始める。少し歩くと導師達の控え室の前に差し掛かった。彼がためらいがちに中の様子を伺っていると導師の一人が彼に声をかけた。


「何か用かな?」

「はっはい。あの……魔法をただで教えて貰えるって本当ですか?」

「ああ本当だとも。適正があれば、誰でもな」


 人のよさそうな導師がクウヤの質問に答える。クウヤはそれを聞き、ほくそ笑み次の言葉を続ける。


「教えて欲しいんですが……魔法を」

「教えて欲しいかね? よし、適正をみてやろう」


 そう言うと導師は何やら見慣れない器具を取り出した。クウヤはしげしげとその見慣れない器具を眺める。それは短い杖のような形で、だいたい導師の手先から肘ぐらいの長さがあり、中心部が膨らみ、一番先には黒い石がついていた。


「珍しいかね? まぁ、あまり普段見ることないだろうからなぁ」

「それはなんですか?」

「魔導計、簡単に言えばヒトの魔力を測る器具じゃな。適正があればこの先の石が光るはずじゃ」


 人のよさそうな導師はにこやかに答える。クウヤも魔導計をしげしげと眺める。彼の様子に目を細めながら、その導師は魔導計に対し、何やら呪文を唱え始める。静かに彼もその様子を観察する。


「さぁ、手のひらを出して」


 導師に促され、クウヤは手のひらを差し出す。導師は魔導計の先を彼の手のひらに当てる。すると、魔導計が微かに光を帯び初め、魔導計に取り付けられた石が反応し、仄かに赤い光を帯び始めた。その反応を見て、導師が切り出す。


「ほほう。これは……。なかなか……」

「何でしょう?」


 クウヤは何が起きたのかよくわからず、導師に尋ねる。導師は微笑みながら彼に答える。


「……君は結構、適正があるね。いやぁ、長いこと適性を見てきたが、これほどの反応は初めてじゃよ。君なら訓練次第では軍だろうが王宮だろうが、引く手あまたの魔導師になれる素質がある。ぜひ、訓練を受けなさい。担当には一筆書いておくから」

「はぁ……。それはどうも」


 導師に適正の高さをほめられても、クウヤにとってはあたりまえのことだったので大して感慨はなく、むしろ正体がバレないかそちらのほうが気になってほめられても喜ぶ気になれなかった。成り行きとはいえ、かなり内部にまで潜入して調べることができるようなったことは、彼にとって好ましいことではあったが、高い魔力のせいで正体がバレる可能性が高まったような気がして、彼は不安になる。


(だいぶ、深いところまで潜入できたけど大丈夫かな……? 俺)


 クウヤが不安な気持ちになり、引き下がれないところまで来ていることに戸惑っていることには全く気づかず、その導師は人のよさそうな笑顔のまま彼に再び話しかける。


「あとで呼びに行くから名前を聞いておこうか? 名前なんて言うんだい?」

「え……名前ですか?名前、なまえぇ……」

「名前だよ。名無しってことはないだろう?」

「あっ、はい。名前は……。名前は『ナガレ』です」

「ナガレか、変わった名前だな。よしわかった、あとで呼びにいくから食堂か休憩室かで待っていなさい」

「……はい、分かりました」


 そう言うとクウヤは導師の控え室を出て、食堂ヘ向かった。食堂へ向かう道すがら、彼は物思いに耽る。


(何で『ナガレ』なんて名のったんだろう?ふっと頭に浮かんだから、言ってみたんだけど。ずっと昔にそんな名前で呼ばれていたような……)


 そのようなことを考えながら、クウヤは食堂へ入り手近な椅子に座る。不安な気持ちを抱えつつ、座って迎えを待つ。食堂には何人かの子供が導師たちから文字を教えてもらったり、経典を読み聞かせてもらったりして、時間を過ごしていた。特に当てもなくそんな風景をぼんやり見ていたら、朝食の時に隣だった少年が声をかける。


「よう。何してんだ?」

「ん?あぁ、さっきの……。名前聞いたっけ?」

「いや、俺はシンっていうんだ。お前は?

「俺か? 俺はくっ……ナガレっていうんだ。よろしくな」


 そういうとクウヤとその少年シンは握手した。シンはクウヤの隣に座り、話し始める。


「そういや、お前、魔法習うのか?」

「そうだけど、何かあるの?」

「いや、なんもないけど。ただ、習いに行った連中はだんだん顔を見なくなるからなんかあるのかなと思ってね」

「帰ってこなくなるの? ほんとに?」

「嘘を言ってどうする。本当のことだ。魔法を習いに行ったっきり、顔を見なくなった奴もいるし。間違いないよ。それに習いに行って帰ってきた連中も様子がおかしかったな。何かにとりつかれたような変な感じがした」

「人が変わるんだ、習いに行くと……」


 クウヤはシンの話を聞き、何が彼らを変えたのか考える。何かしらの操作をされたのしれないということまでは想像がついた。実際のところは現場を押さえないとはっきりしないことは明らかだった。クウヤは核心に手が届いたことを確信する。クウヤの推測が正しければ、魔法を教えると言って子供たちを騙し、破壊工作の手駒として調教して行ったのだろう。そしてあるものは人間爆弾として調整された――そんなことをクウヤは想像していた。


「……それでも行かなきゃね」


 クウヤは自分に言い聞かせるようにつぶやく。シンはそんなクウヤをしげしげと見る。


「おまえ、そんなに困っているのか?そんな風には見えないけど……」

「ま……いろいろあってね。行かないといけないみたいだよ」

「そっか。気をつけろよ」

「あぁ、ありがと」


 クウヤはシンの顔を見て、かすかに微笑む。シンはそんなクウヤを見て苦笑する。そんな時、クウヤを探す声が聞こえる。


「……ナガレ君、いるかね? ナガレ君はどこにいるかな?」

「おっとお呼びだ。行ってくる」

「気をつけてな」

「あぁ。じゃな」


 そういって、クウヤとシンは別れ、クウヤは呼びに来た導師のところへ歩いて行った。


(……さぁて、これからが本番だ)


 クウヤはいよいよ核心に迫っていった。

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