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第二十五話 核心と策謀

今回はやや短めです。潜入したクウヤは情報を集め始める。一方、屋敷ではクウヤの不在に気づきソティスが気をもむ。

 クウヤは集会所の奥にある待合室のような大部屋へ案内される。その部屋は薄暗く、詳細はわからなかったが様々な種族の孤児と思われる子供たちが所狭しと毛布にくるまり、雑魚寝していた。彼を案内してきた導師は小間使いを呼び、彼のための毛布を用意させる。


「今日はもう遅い。これを使うと良い」


 導師はそう言うとクウヤに毛布を渡し、何処かに立ち去っていった。毛布を受け取った彼は大部屋の隅に隙間を見つけそこで毛布にくるまった。見れば、周りには様々な年代の子供が雑魚寝していた。彼より年上に見える子もいれば、年下に見える子も、そして年齢不詳の子も含めて、十数人の子供がいるようであった。


「……なんだ、新入りか? 見慣れん顔だな」

「ん?流れてきたんだ。よろしくな」


 クウヤの隣にいた孤児が彼に話しかけてきた。彼も適当に話を合わせる。孤児たちはほとんどがすでに眠りについているため彼には注目が集まることはなかったが、彼のとなりとなった子供だけは少し違い、彼に関心を示した。彼は初めての経験に少し戸惑うものの、なんとか情報を得ようと思い、話を続けることにした。


「ここはいつもこんな感じなの?」

「まぁな。スラムから孤児がいなくなることはないからな。それに街の連中は孤児ってだけで、盗賊の一味か何かのような目で見やがる。あんな街で落ち着ける場所なんてない」


 クウヤはスラムの実態や孤児に対する風当たりなど聞いたことがなかった。ただ、彼の記憶の奥底に何か引っかかるものを感じる。何か前世で目の当たりにしたような何とも言えないようなもどかしい感覚に彼は襲われた。その原因について、それが何か彼にははっきりに認識できない。彼が思い出すのを阻害するものが頭のなかにあるように彼は感じる。そんな思いに彼がとらわれていると、隣の孤児がさらに話しかけてくる。


「……お前、何も知らないようだな。この街では孤児は盗賊の下っ端か使い捨ての道具ぐらいの存在でしかないんだ。孤児が道で死んでも、野良犬か野良猫が死んだくらいでしかない。死体回収人が回収して燃やされて、ポイとゴミ捨て場に捨てられるだけだ」

「……ひどい扱いだな。そんな扱いでよく我慢できるな」

「我慢しているんじゃない。ただ、孤児が束になったところでどうしようもない。学を身につけられるわけでもなければ、腕に技を付けることもできない俺たちができることはへいこらして街の連中の小間使いをやるか、盗賊になるかどっちかしかない」


 クウヤは自分の考えていたことがいかに小さいものか思い知らされた。単に帝国を混乱させるために破壊工作を行なっている犯罪集団を追いかけていたつもりが、いきなりこの世界の矛盾が煮詰まった場所に飛び込んだ感じがして、彼はめまいとともに大きな戸惑いを感じた。そのなかで自分が出来ることがほとんどないのではと不安になった。不安にかられながらも、とにかく本来の目的を達成することに意識を集中することにした。


「ついでなんで聞くんだけど、ここは寝るだけなの?」

「まぁ基本的にはな。ただ、何人かはどっかへ行って、なんだか知らないけどいろいろ教えてもらってるらしいぞ。俺は興味ないがな...」

「その子達はどこにいるの?」

「そういえば、いったっきり帰ってこないな。ここしばらく姿を見ていない」


 クウヤはこの事件の核心に近づいたと確信した。


(やはりここに何かあるのは間違いないな)


 そう思いクウヤはさらに質問しようと隣をみると、微かに寝息をたてて寝ている。彼は小さくため息をつき、することもないので目を閉じ横になる。すると間をおかずに彼も寝息を立て始めた。こうして集会所の夜は更けて行った。


――――☆――――☆――――


「親方様、クウヤ様が首尾良く集会所に潜入しました」

「そうか、あいつ我慢し切れなかったか……」


 執務室で子爵は“影”からの報告を聞き、感慨に耽る。と同時に、策謀家としての顔になる。子爵の考えていた内部潜入がクウヤによって実現できたため、次の策を巡らす。


「手はず通りに頼むぞ。まずはクウヤの面倒を見てやってくれ」

「はっ!!」


 “影”の気配が消えると同時に、ソティスが血相を変えて執務室へ飛び込んできた。


「子爵様、クウヤ様がっ!!」

「どうした、血相を変えて。落ち着いて話せ」

「今朝、クウヤ様の部屋におじゃましたら、もぬけの殻で……」

「そうか。まぁ、心配するな。あれは無事だ」

「……え? 何かご存知なんですか?」

「まぁな。あいつ勝手に飛び出してスラムへ行きおったらしい。帰ってきたらきつくお仕置きをせんとなぁ」

「ス、スラムっ!? なんでそんなに落ち着いているんですか! すぐに救出に向かわないと」

「大丈夫だ。すでに手は打ってある。少し落ち着け」

「しかし……」


 なおも食い下がろうとするソティスを子爵は制する。それでも彼女は納得できない様子で不満顔であった。そんな彼女の様子を見て子爵は言葉を続ける。


「出ていったものは仕方がない。ついでだから、あいつに一仕事してもらう」

「一仕事って、子爵様まさか内部調査をやらせるつもりでは……?」

「まぁ、そんなところだ。あいつも自分の判断で潜入したんだからそのぐらいのことはしてもらわんとな。あいつとて今迄ムダ飯を食ってきたわけじゃあるまい。それにお前もあいつにいろいろ教え込んできただろう?ムダにはなるまい」

「それはそうですが……」


 あからさまに不安げな表情をしたソティスに対し、子爵は何食わぬ顔をしていた。そのことに彼女はいぶかしみ、余計不安を募らせていた。子爵も彼女の様子をおもんばかってかさらに言葉を続ける。


「……いずれお前も最前線に出てもらう。その準備をしておけよ。当面は下手に騒ぎ回るな。いいな?」

「……はい」


 ここまで子爵に言われてはソティスも引き下がらざるを得なかった。ソティスはうやうやしく一礼し、執務室を出ていった。


「賽は投げられた……か。あいつが役に立てば良いがな。待つしかあるまい…………」


 子爵は先行きを案じつつ、窓から外を眺める。窓の外の空は暗雲が立ち込めていたが、雲の隙間から、一筋、二筋と幾筋かの光芒が差していた。

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