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第二十一話 陰謀の気配

 ソティスがクウヤの自室前までやってきた。彼女は大きくため息をつき扉を開ける。中では本の山に埋もれて眠っているクウヤがいた。


(まったく人の気も知らないで……)


 ソティスは内心ぼやきつつも、仕方がないといった体でまた大きなため息をつく。とはいうものの、本来の役割を思い出し、寝ているクウヤを起こしにかかる。


「クウヤ様、お休みになるのなら、きちんとベッドでお休みください」

「……ん?」


 寝ぼけ眼のクウヤは何を言われたか、理解していなかった。そんな彼を見てソティスはガックリと肩を落とす。それでも当の本人はまだ寝ぼけていた。


「……いいかげん目をさまして!」


 我慢の限界がきたソティスはついつい大声で怒鳴る。その声に驚き、クウヤはやっと目を覚ます。


「ぉわっと!ソティスいつの間に…」

「いつの間にじゃないです! 寝るならきちんとベッドにお入りください!」

「……すみません」


 いつになく恐縮してしまったクウヤを見てやっとソティスは冷静さを取り戻す。とたんにバツの悪い雰囲気に彼女は恥じらう。


「……失礼しました」

「どうしたの?なんかカリカリして……?」

「いえなんでもありません……」


 そんなやり取りの中で、クウヤにヴェリタの捜索の同行ができなくなったことを伝えそびれたソティスは一人頭を抱える。そんな彼女の気持ちを知る由もない彼は、彼女に新しい魔法の習得に付き合ってくれるよう無邪気にお願いする。如何にして時間をかせぐか考えあぐねていた彼女は渡りに船とばかりに二つ返事で了承する。


「早く先頭でガンガン敵をやっつけるようになりたいなぁ」

「…その前に、身を守る術を身に着けてもらいます。戦闘はまず生き残ることが最優先ですから」


 そうはっきり告げられたクウヤは多少不満気であったが、戦闘経験が彼より圧倒的に多いソティスの言葉には反論の余地はなかった。彼女は彼女で時間稼ぎのいい口実ができたと内心、ホッとしていた。


「さぁ、今日のところはお休みください。明日から鍛錬を始めますよ」

「わかった。おやすみ」


 そう言うとクウヤは本をベッドの傍らに積み上げ、ベッドに潜り込む。そのような彼の姿を見たソティスは静かに魔法灯の明かりを消したあと彼の自室を出ていった。窓の外は稲光が虚空を走り、強い風が木々を揺らし、ますます嵐が激しさを増していた。彼はまんじりともせず、ベッドの中で眠れずにいた。外の嵐の所為もあったが早く戦闘訓練をしたくて心が踊っていたからである。


「…戦闘詠唱法の本は……と」


 とうとう我慢できなくなった彼は魔法灯に魔力を注入し、明かりを灯した。彼は目的の本を探しだし、読み耽りだした。そうして彼の夜は更けていった。


 翌朝、窓から差す朝日と小鳥のさえずりに起こされ、いつもより早く起きたクウヤはベッドの中で昨晩読みふけっていた本をもう一度読み返す。読みふけっているとソティスがおこしにくる。


「クウヤ様、そろそろ起きてください。朝食の後、始めますよ」

「ほーい」


 ごそごそとクウヤは着替え、部屋を出ていった。珍しく、寝ぼけたところがなくクウヤはスムーズに朝食に向かう。事件時はけが人でごった返し、野戦病院であった食堂は食卓を飾る豪華な花、燭台や綺麗なテーブルクロスこそなかったが、野戦病院であったのが嘘ように片付いていた。クウヤはいつもの様に食卓につき、配膳を待つ。ソティスも同じように食卓についた。食卓には使用人の何人かがすでに席についており、黙々と朝食を平らげている。


「今日はどうするの?」

「実戦を考えた戦闘詠唱法の訓練と剣術のコンビネーションです」


 クウヤの問いかけにソティスが淡々と答える。そうして二人は配膳された朝食を大した会話もなく、いつもの様に淡々とたいらげる。朝食をたいらげた二入は徐に立ち上がり、食堂を離れる。


(さて、がんばりますか)


 クウヤはいつになく気合を入れて、魔導室へソティスとともに歩いて行った。


――――☆――――☆――――


 執務室で子爵は椅子に深く座り腕を組み、瞑目し何事か考えている。何者かの気配に気づき、静かに目を開け、何事か思いついた彼は徐に口を開く。


「ギャリソンはいるか」

「はっ、ここに」


 執務室の暗がりから、いつの間にか入室していたギャリソンが子爵の前に進み出る。


「リクドー内外のヴェリタの集会所を調べろ。それからリゾソレニア関連もあわせてな。総ていつもどおり内々に頼むぞ」

「了解しました。して、何故にヴェリタとリゾソレニアに干渉を?」

「奴らが今回の事件の糸を引いている可能性がある。場合によっては闇から闇へ葬り去る」

「はっ、了解したしました。後は“影”はだしましょうか?」


 子爵は瞑目し首肯する。それを確認したギャリソンは執務室の暗がりへ消えていった。残された子爵は立ち上がり、窓の外を眺める。昨日までの嵐が嘘のように晴れ渡り、青い空が続いていた。


「(ヴェリタと表向き事を構えずに奴らの動きを抑える……できるか?)」


 子爵の心は窓の外の青空とは裏腹に、陰鬱な暗雲が立ち込めていった。


――――☆――――☆――――


「以上で戦闘詠唱の説明を終わりますが、わかりましたか?」

「………ん~。もひとつ。実際にやってみないとわからないよ。同時に2つの音を出すようにって言われても…..」

「この発声法ができないと、次の段階へ進めませんよ。戦闘中の詠唱は素早く正確に出来なれば、魔法の発動は危険すぎます。この発声法は詠唱の短縮と正確性を確かにする基本中の基本です。鍛錬あるのみ!さぁ!」

「vivooooo……」


 クウヤはソティスの手ほどきの元、戦闘詠唱法の訓練を行なっていた。彼は特殊な発声法の段階でかなり手こずり、行き詰まっている。彼女は基本となる発声法を彼に厳しく仕込んでいる。実際戦闘ではごく短時間で正確な詠唱が要求されるため、どうしても手を抜くわけには行かなかった。ただ、じっくり時間をかけているのはしっかりと基本を身につけさせるためでもあったが子爵の指示を実行するためでもあった。そのことに彼女の良心が多少痛む。


「……さて、少し実際にやってみましょうか」

「やった!」


 クウヤは気合を入れて、新しい詠唱法を試す。


「《《《炎よきたれ》》》」


 独特の詠唱の声が響き、うなりを上げ始める。すると明らかに今までとは比べ物にならない速さで魔力が集中する。構えた手の上に炎が上がる。その炎を確認したクウヤはニヤリと口角を上げる。


「おっし!」


 どうだと言わんばかりにソティスを見る。ソティスはそんな彼を見ても、微動だにしない。彼女は何も言わず、詠唱を始める。彼はその行動にあっけにとられる。彼女は彼の詠唱より早く魔法を発動させ、更に大きな炎を手のひらに上げてみせる。その炎を見せられ、彼は驚き彼女の顔を見る。彼女は淡々と彼の詠唱の問題を指摘する。彼女の指摘にクウヤは少しむくれつつ、その指摘された部分を一つ一つ直していく。


 ―そうして、二人の訓練はひなが一日続いた。―


――――☆――――☆――――


 調査を命じて数日後、執務室で子爵はいつものごとく執務をこなしてた。物陰になにがしかの気配を感じた子爵はその方を見る。 


「……聞こうか」


 その“影”は子爵の言葉に促され口を開く。


「……はっ。ヴェリタの集会所を調査しましたがほとんどが当たり障りのない小さな分教会でした。おそらく放置しても、当面は大きな脅威にはならないと思われます」

「そうか…」

「ただ、リクドー外れの森の中にある洞窟に我々の知らなかったリゾソレニアの集会所らしきものがありました。ここは詳細に調査する必要があります」

「何かあるのか?」

「はっ、街からヴェリタ教徒が通うだけでなく、夜になると胡散臭い連中が、スラムなどから孤児を連れ込んで行くことがあります。孤児が入ったのは確認したのですが出て行く孤児を確認していません。にもかかわらず新たな孤児を補充しているようです」

「孤児を補充……か。臭うな。引き続き調べてくれ」

「はっ」


 そう言うと“影”は闇に消えていった。


「どうやら、あたりのようだな。これからどうするか……。ギャリソン、いるか?」


少し間をあけて執事長が控えの部屋から執務室へ入室する。


「御用でしょうか?」

「手のものに指示してくれ。リクドーでさらわれた、あるいは行方不明になった孤児などがいないか探してくれ」

「承知いたしました。すぐに手配いたします。

それで子爵様、配下のものに例の爆死した子どもの捜査もさせましょか?」

「いや、それはしなくていい。できる限りこちらの動きを連中にさとられたくない。あくまで通常の捜索としてやらせろ」

「承知いたしました。ではその様に」


執事長はそういうと、うやうやしく一礼し執務室を離れる。子爵は椅子に座り、また考えごとをはじめる。


(さて、何が釣れるかな……)


 子爵は立ち上がり、窓の外を見つめる。窓の外の空は青く晴れ渡っていた。

すません、なかなか話が進みません。急展開をお望みの方申し訳ありません。もうちょっとお付き合いいただければ幸いです。


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