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第十八話 黒い笑み

爆破テロをきっかけに何かが変わり始めたクウヤ。どう変わっていくのでしょうか?お読み下さい。

 クウヤを寝かしつけたソティスは執務室へ向かったがその足取りは重かった。事件の調査にクウヤを同行させるかどうか子爵に相談しなければならないためである。また彼女自身も調査に加わるべく子爵に願いでるつもりでもいたがこれも難しそうであった。事件の最前線に出ることはいろいろと危険なことに身を晒すことになり、彼女本来の役割を放棄せざるを得ない結果にもなりかねなかったからである。

 いろいろと複雑な思いを胸に彼女は執務室への長い廊下を歩いていく。執務室へ向かう廊下はようやく爆発事件の喧騒がひと段落し、夕刻の茜色の日差しが窓から建物の奥まで差しこみ薄暗い廊下に光と闇のコントラストをなしていた。 

 ソティスは執務室の扉をためらいながらノックする。程なくして、中から声がかかり彼女は入室する。部屋では子爵がいつものように椅子に腰掛け、入室した彼女を見ている。

 

「何用だ?」

「はい実はお願いごとがありまして……」

 

 彼女は子爵に事件の調査への同行を願い出ようとする。…が、次の言葉がなかなか出なかった。彼女は焦りながらも、なんとか次の言葉を絞り出そうとするが声にならなかった。

 

「……どうした? 頼みごとはなんだ?」

 

 子爵は少し焦れて、彼女に問う。なおも彼女は言いよどんでいる。彼女としてはクウヤに危険な場所へ近づいてほしくなかったし、彼女自身もクウヤのそばを離れることに抵抗感を感じていたからである。

 

「………調査への同行の願い出か?」

「!……はい」

 

 子爵に図星を指され、思わず彼女は息を呑み、ためらいつつ答える。子爵は苦笑いを浮かべながら彼女を諭す。子爵には事件が事件だけに彼女が興味を持つことは予想できたが、子爵としてもクウヤのことを考えると彼のそばを離れることをよしとすることはできなかった。

 

「お前にはお前の役割があるだろう、それはどうするんだ?しばらくはおとなしくしていろ」

「…確かにおっしゃるとおりです。ただ、クウヤ様も同行を希望されていまして…」

「あいつが…調査に同行を希望しているだと…?」

 

 クウヤの名前が出た途端に子爵の表情が硬くなり、口調も厳しくなる。彼は背もたれにもたれかかりしばし黙考する。子爵はいずれクウヤも修羅場に出ることは十分考えていたが、それはすぐのことではなかった。クウヤが調査に同行することはクウヤ自ら修羅場へ赴くことにほかならないことは十分理解してたがゆえに、ためらいがあった。しかし、いつかはその決断をしなければならないことも子爵は十分理解していた。そして、その決断がなされた。

 

「……あいつが調査に同行するときはお前も同行しろ」

「子爵様、よいので?」

「……先の話だがな。それまで、あいつを鍛えておけ。少なくとも従軍できるぐらいにはしておけ」

 

 子爵と彼女は今後のクウヤの訓練事項について打ち合わせる。調査に同行する以上、最低限不測の事態には自分のことは自分で守ることができなければならないため、そういった訓練を中心にすることを話し合う。小一時間ほど打ち合わせ、彼女は執務室を出る。

 残された子爵は執務室の窓から外を眺め、思いを馳せる。窓の外には重く鈍重な雲が広がり、今にも降り出しそうであった。風も吹き出し、木の葉が舞い散りだした。

 

「あいつに背負いきれるか…? いや背負えるようにしてやらんとな。できる限りのことをせねば…」

 

 独白のあと、子爵は椅子に座り直し、何やら思案し始めた。窓の外は嵐の様相を呈していた。

 

――――☆――――☆――――

 

 執務室をでたソティスはクウヤの自室へ歩いていた。すでに外は日が落ち、なおかつ嵐が吹き荒れているため、廊下の窓から見える空はかなり暗い。クウヤの自室へ続く廊下もわずかばかりの篝火が揺れ動くばかりで、薄暗かった。

 

 彼の部屋に入る前に一つため息をつく。気を取り直して、扉を開けた。クウヤはベッドにおらず、もぬけの殻だった。

 

「あれ? どこへ……」

 

 彼女はくまなく部屋の中を見渡す。するとベッド横の小テーブルに書き置きが置いてあるのを見つける。書き置きを読んだ彼女はすぐさま、部屋を出る。まだ完全に片付いておらず、少々散らかった廊下を小走りである場所へ向かう。しばし小走りでいた彼女がある場所で立ち止まった。


 図書室の扉の前である。彼女は扉を少し開け、中の様子を伺う。図書室の中はまだ片付いておらず、本が散乱し、本棚が乱雑に散らばったままである。その中を何やら弄るような音が聞こえた。

 

「……? クウヤ様、ですか?」

 

 奥の方の本の山が揺れ動く。彼女は思わず身構え、注意深く本の山を監視する。本の山の中から手が伸びる。

 

「ん?あっソティスか」

 

 クウヤが本の山から顔を出した。かなり古い本などを漁っていたせいか、ススまみれである。

 

「クウヤ様ここで何を?片付けなら使用人たちに任せてください」

「いや、ちょっと思いついたことがあってね」

 

 そう言うと、彼は再び本を漁り始める。そんな彼の行動に不信を持ちながら、本の山に近づく。何をしているのか想像もつかなかった彼女はクウヤに尋ねる。

 

「何をお探しなんですか?」

「歴史の本とか、魔法の本とか……そんな関係の本」

「…どうするんですか、そんな本を」

 

 彼の行動を理解しがたかったソティスは重ねて質問する。彼は質問を聞きながらも、手を休めることはなかった。ただ黙々と本を漁っている。ソティスはため息をついて、彼を手伝った。

 

 しばらくして、何冊かお目当ての本を見つけた二人はそこで一旦手を止めた。彼はソティスに本を部屋へ運ぶ手伝いを頼んだ。ため息をつきながら、彼女は何も言わず本を運ぶ手伝いをした。ひと通り、本を運び終えると彼はソティスそっちのけで本を読みふけり始めた。忘れ去られた彼女はそんな態度に怒りを覚え、本を読み耽る彼に詰め寄った。

 

「クウヤ様! 何をされているんです!? いい加減教えてもらえませんか!」

 

 そのような素振りをちらっと見て、彼は本を読む手を止める。

 

「…まだいたんだ」

「まだいたって……。一体何をされているんですか。説明してください」

「なにってごく基本的な勉強だけど…」

「だから、なんの勉強か教えてもらえませんか」

 

 いい加減、クウヤの態度に我慢ならなくなったソティスは声を荒げ、彼に重ねて質問する。彼は飄々(ひょうひょう)とした感じで答えた。

 

「事件の謎を解明するための基礎的なお勉強なんだけど」

「歴史の本とか魔法の本が何かヒントになるんですか?」

 

 クウヤは自分の考えをソティスに伝えた。

 

――今回の事件で注目すべきは手口が特殊な方法を取られていることである。普通、破壊工作を爆発物で行うなら、荷物などに仕込んで行うことが多い。今回は生きた子供に爆発物を仕掛け、屋敷のさほど重要でない場所を爆破している。そのことに何か犯人のメッセージがあるのではないかと思う。そのメッセージを読み解くたためにはいろいろ知識が必要になる――

 

「…ということで、お勉強というわけさ」

「クウヤ様、何か別人になったみたいですね…。何か一気に老獪(ろうかい)になったような気がします」

「そっかぁ。僕はいつもどおりだけどなぁ」

 

 そう言いつつ、クウヤの顔には微かに怪しい老獪な笑みが浮かんでいた。

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