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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第七章 討伐大魔皇帝
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第一五〇話 三人の決意

※長らく更新できず、申し訳ございません。今後とも魔戦士クウヤお楽しみいただければ幸いです。

 クウヤたちは学園長の前で立ち尽くしている。


 マグナラクシアの力を得ることができれば、大魔皇帝を倒せるかもしれない。

 しかし、学園長の話しぶりからその力の扱いは難しく、得るための代償を必要としているように感じられた。


 クウヤにとって一番の懸念は力を得るために支払うべき代償を払うことができるかどうかだった。

 もしかしたら、支払うことのできない代償を求められるかもしれない。


 それでも……。


 彼がやらなければならなかった。


 それが魔戦士たる彼の存在意義だった。


「……お前さんに頼りっぱなしというのは為政者として情けない限りじゃ。しかし、現状で頼れるものはお前さんしかない」


 学園長はクウヤの懸念を察したかのように言葉を続けた。


「わかりました、学園長。その力もらえませんか?」


 クウヤは意を決して学園長に願い出る。


「一種の賭けになるが構わんな?」


 学園長は確認する。


「はい……」


 クウヤはうなずく。


「良かろう。ついてくるがよい」


「待ってください」


 不意に呼びかけられた学園長は声の主を見る。


 声の主はルーだった。


「ルーシディティよ、何用かな?」


 学園長はルーを見る。その目には不安の影がさしている。


「……私たちにもその力、もらえませんか?」 


 当惑する学園長。クウヤもルーの申し出に驚きを隠さない。ルーはまっすぐ学園長を見ている。


「なんてこと言うんだ。危険極まりない賭けなんだぞ」


 クウヤは思わず声を荒げた。しかし、ルーは反射的に激しく反論する。


「だからよ! ……だからよ、だからなの。もうはたから見ているだけなんて、嫌なの……」


 ルーは次第に涙声になる。


 そんなルーを見ていたたまれなくなったクウヤはルーを説得する。


 成功するとは限らない賭けであり、万が一の時に後を引き受けてくれる人がいなくなったら困るなど、クウヤは思いつく理由を並べ立て、ルーの考えを変えるよう言葉を重ねる。


 が、ルーは何を言っても、クウヤの言うことを聞かない。


 ルーの意志は固かった。その様子に学園長は大きくため息をつく。


「……いずれにせよ戦力は多いほうがよいが……ルーよ、引き返すことはできぬぞ」


 学園長は意を決してルーに確認する。ルーは真剣なまなざしでうなずく。


「よかろう。ついてくるがよい」


 学園長はルーの意志の固さを確認し、ルーの意志を尊重することにした。


「学園長!」


 クウヤは抗議の声を上げる。クウヤは学園長になんとかルーに思いとどまらせるよう懇願する。


 しかし学園長は静かに首を横に振る。


「クウヤよ、もうお前さん一人の問題ではない。確実に大魔皇帝を封じるためには戦力は少しでも多い方が有利になる」


「しかし……」


 納得のいかないクウヤは学園長になおも食い下がる。


「お前さんの懸念もわかる、クウヤよ。しかし……しかしだ」


 学園長はクウヤを見つめる。


「この世界はお前さんだけのものではあるまい? 違うかの?」


 そう学園長から問われ、クウヤは考え込む。


「クウヤよお前さんの力はおそらく大魔皇帝を除けばこの世界で最強だろう。しかし、お前さん一人でこの世界の全てを抱えられるのか? どこまでお前さんの力が強大でもこの世界の全てを動かせるわけではあるまい」


 学園長は腕を組み瞑目する。


「……大魔皇帝はこの世界全ての脅威じゃ。ならば、この世界の力を借りたとしても罰は当たるまい。ましてや、お前さんの仲間の力添えがあったからと言って何の問題があろう」


 ルーは学園長の言葉の後押しする。


「クウヤ、心配しないで。私は私の責任を果たすだけだから」


 ルーはそう言ってクウヤの肩にそっと触れる。


「世界を動かせる立場にありながら、その責を果たさない父に代わって私がその責を果たすというだけのこと。難しい理屈なんてないわ。だから、私のことはそんなに心配しないで」


 ルーは優しくクウヤに自分の決意を話す。その目は決して絶望して悲壮な決意をしたような光は宿していない。むしろ積極的な意欲を示すような光が見える。


 ルーの姿を見て、クウヤは大きくため息をつく。


「……無理はするなよ」


 クウヤは遂に根負けし、ルーの考えを受け入れた。


「ルーシディティよ、これは賭けの部分もある。途中で引き返すこともできない。それでもやるのか?」


 学園長が念押しの確認をする。


「はい。二言はありません」


 ルーは力強く答えた。


「よかろう。認めよう」


 学園長が許可を出した瞬間、それをとどめる声がする。


「……待ってください」


 今まで沈黙を保っていた。ヒルデが口を開く。学園長はヒルデの真意を問う。


「なんじゃな、ヒルデよ。まさかお前さんも試練を受けるとでも言うのか?」


 学園長はヒルデに問いかける。ヒルデはうなずく。


「どうして……。貴女は危険に身をさらさなくてもいいのよ。選ぼうと思えば、私とクウヤと違って、平穏な生活を選べるのよ。下手をすれば命さえ危険にさらされるような選択は貴女には似つかわしくないわ」


 ルーも驚きながらも、ヒルデに思いとどまるよう説得する。


 それでもヒルデは引き下がらなかった。


「嫌! 大切な人たちが命を削ってでも闘おうとしているのに見ているだけなんて嫌」


 ヒルデの目は潤み、涙声で訴える。


「でも……私は貴女が平穏に暮らしてほしいの」


 ルーは肩を震わせ出したヒルデを抱きしめ、そっとささやく。


「るーちゃんの気持ちは嬉しい。でも、私……後悔したくない。このままクウヤくんとるーちゃんを行かせてしまったら私は……私は……私はきっと後悔する」


 ルーの説得もヒルデには効果がなかった。ヒルデの決意はそれほど固かった。


「……ったく。みんなどうかしているぜ」


 エヴァンは湿っぽい悲壮な雰囲気のこの場を壊すようにわざとらしくおどけた口調でクウヤたちの会話に割って入る。どうやら、エヴァンは仲間外れを嫌ったようだ。


「お前は付き合わなくてもいいんぜ」


 クウヤはエヴァンの気持ちを見透かしてか、ぶっきらぼうに言う。その態度にエヴァンは憤りを見せる。


「見損なうな! ……ダチが身体張って、命削ってまで闘おうって言っているのに『はい、サヨウナラ』ってわけにはいかないだろう」


 親指を上げ、ニヤっと笑うエヴァン。口から見える歯の白さが光る。ちらっとヒルデを見る。


「それに気になる人にいいところ見せないとね」 


 エヴァンの一瞬の視線の動きを見たルーがからかう。


「えっ……そ……そういうわけでも……あ、いや、その」


 図星を指され、あからさまに動揺するエヴァン。傍らでヒルデが俯いている。


 そんな光景を見て、クウヤは苦笑いし、ため息をつく。


「あら、そんなに私たちが同行するのが不満?」 


 ルーが若干むくれて、クウヤに聞く。


「……バカだなぁお前ら。マグナラクシアにいればそれなりに安全が保証されるってのに」


 クウヤはわざと悪びれる。そんなクウヤにルーは不敵な笑みを向ける。


「守られてばかりって、退屈でしょう? 私はそんな女じゃないわよ」


 ルーは胸を張る。


「何はさておき、みな、意志は固いようじゃの」


 学園長はクウヤたちの意志を確認する。


 クウヤたちにためらいはなかった。学園長はそんなクウヤたちをまぶしそうに見つめる。


「それではこれからマグナラクシアの最深部へ行く。そこでマグナラクシアの力を受けるがいい」


 学園長がそう言うと、全員うなずく。


 学園長は机の裏にある装置を操作する。軽い機械音が学園長の後ろから聞こえる。それと同時に学園長の椅子の後ろにある書棚が動き出した。


 書棚の動きが止まると隠し通路が出現した。


 ハウスフォーファーが先導し、クウヤたちは隠し通路へ向かう。


 隠し通路は壁に得体の知れない彫像が並び、揺らめきながら灯る青白い光に照らされ、緩やかな螺旋を描きながら、地下へ地下へと降りていた。クウヤは隠し通路の作りに軽い既視感をおぼえていた。始めてきたはずの場所なのに昔に訪れたような感覚にクウヤは戸惑いを感じずにはいられなかった。


「……この光景は昔どこかで……?」


 クウヤは辺りを見渡しながら、ハウスフォーファーの後をついていった。


(おかしい。ここの作りは見たことがある。どこかで……あ!)


 クウヤは思い出した。この隠し通路のつくりは魔戦士となるべく試練を受けたあの遺跡内部とっそっくりの作りだったのだ。思わずハウスフォーファーに声をかける。


「……後で説明してやる」


 ハウスフォーファーはやや興奮気味のクウヤに素っ気なく冷淡に答えた。クウヤは冷淡なハウスフォーファーの言葉に二の句が継げなかった。


 クウヤたち一行は黙々とただひたすら地の底へ向かう螺旋通路を下は下へと向かう。


 クウヤは地下へ向かう道すがら、魔戦士の試練のことを思い出していた。


 クウヤの心を土足で踏みにじり、デリケートな部分を切れ味の鈍い刃物でえぐるようなあの試練のことを。クウヤのトラウマというべき過去の心の傷をダイレクトに攻めるあの試練を思い出し、思わず身震いする。


 無慈悲に己の無力さを突きつけられ、人の弱いものに対する残酷さを追体験させられた記憶は今でもちょっとした拍子にフラッシュバックしかねない体験だった。


 クウヤにすれば魔戦士になるためやむを得なかったとはいえ、もう二度と受けたいとは思っていない。しかし、マグナラクシアの力を得るための道のりはあの遺跡の雰囲気そのままであり、学園長が言っていたことを考えるとまたあの悪夢と格闘しなければならないのかと気落ちしていた。


「着いたぞ」


 ハウスフォーファーが抑揚なくクウヤたちに告げる。


 クウヤの目の前には以前遺跡でみたあの光景が広がっていた。クウヤの鼓動は否応なく高まる。


 青白い光が回廊の壁面に灯され、完全武装の戦士の像が立ち並ぶ。あるものはクウヤを威嚇するように、またあるものは己の武勇を誇るように武器を掲げている像もあった。


 その像の向こうに大きな扉のようなものが見えた。その扉ようなものは黒光りし、鏡のように艶やかに表面処理され、遺跡のものと同じようにその場には似つかわしくないほど輝きを保っていた。


 ハウスフォーファーは扉へ近づきながら、語りだす。


「ここは過去の技術を復活し、再現したものだ」 


 ハウスフォーファーの言葉にクウヤは驚きを隠さない。過去の技術を復活するということはかつて公爵がやっていたことと同じだったからだ。それゆえ、各櫛通路の構造など見た目がかつて試練をうけたあの遺跡とそっくりになったのだ。


「公爵がしていたことと同じでは?」


 クウヤはハウスフォーファーに抗議するように質問する。


「客観的に見ればその通り。だが今はそのことの是非を問うている場合ではない」


 ハウスフォーファーは事もなげにクウヤに答える。


「しかし……」


 クウヤは納得がいかず、不満げな態度を示す。


「クウヤよ、お前さんの懸念は分からなくもない。しかし君たちは急ぎ強くならなければならない。もはや手段を選べる余裕はないのだ」


 学園長はクウヤを諭す。

 現状、大魔皇帝に対抗しうる方法はここにしかない。それがかつて公爵の悪意に満ちた方法論だったとしても、この世界に他の選択肢はなかった。大魔皇帝の復活が間近に迫った状況ではたとえ悪に手を染めようと、大魔皇帝をこの世界から排除することを優先しなければならない。


 そこまでこの世界の情勢は逼迫していた。


 クウヤにもその理屈は分かっていた。しかし理屈は理解できても感情的なわだかまりはそんなに簡単に割り切れるものでもなかった。


「……この方法を取ったことで世界の非難を受けるのであれば、甘んじて受けよう。それが罪というのならば、罰も受けよう。しかしそれは大魔皇帝を排除してからじゃ。ヤツが存在している今、罪を償う機会さえ与えられないんじゃ。それは分かるな、クウヤよ」


 学園長の話にクウヤはしぶしぶながら同意せざるを得なかった。クウヤにも現在置かれている状況は嫌というほど理解していたからだ。


「ということで、マグナラクシアの力を受け取るためには試練を乗り越えなければならない。特にクウヤ以外の三人はとある試練を乗り越えてもらわねばならない」


 なんとかクウヤを説得した学園長は他の三人に説明し始めた。


「それで試練とは……?」


 ルーは学園長に恐る恐る聞く。意志は固いとはいえ、全く未知の試練には流石のルーでも身震いせずにはいられなかった。


「ワシから説明してもよいが、経験者からのほうが良いじゃろう。クウヤよ話してやれ」


 学園長はクウヤの経験を他の三人に話すよう促す。学園長に促され、クウヤは自身が魔戦士になるときに受けた試練を語る。


 目の前で虐待され、ぼろ雑巾のように殺された魔族の子供の光景や、かわいがっていた子犬を目前でなぶり殺しされた光景を見せつけられたことを包み隠さず語る。


 試練を受けたときの心を引き裂かれる苦痛、眼前で行われる無残な行為に介入できない無力さ、屈辱、その他諸々自分自身を襲った負の感情の数々をクウヤは包み隠さず三人へ語った。


 他の三人は語られた内容に絶句した。


「……結構えぐいな」


 エヴァンが三人を代表して感想を述べた。女性陣二人は顔面蒼白で言葉がすぐには出そうになかった。


「つまり、自身の過去の思い出したくもない記憶と対峙したり、人の醜い闇の部分と対決しなければならない……と?」


 ルーはなんとか言葉をひねりだし、この場の雰囲気と闘っている。


「端的に言えばそうじゃ。ただ口で言うのは簡単じゃが実際に自分の身に置き換えたとき、その苦痛に耐えられるのかな?」


 学園長は補足すると同時に挑発的な問いを投げかける。


「んで、そんな試練が何の役に立つんだよ……」


 今一つ学園長の意図が理解できなかったエヴァンは不満を隠さない。


「強力な力を制御するには通常では考えられない精神力を必要とする。極限状況に追い込まれてなお冷静さを保ちうる強靭な精神なくしてマグナラクシアの力を操ることなぞ望むべくもない」


 ハウスフォーファーは学園長に代わり、やや不出来な生徒にかみ砕いて説明するようにエヴァンに答えた。それでもエヴァンは不満げではあったが、学園長の言わんとするところは理解した様子だった。


「……耐えなければならないのでしょう。いや、耐えて見せます。あの大魔皇帝を倒すためにはどうしても必要なことならば」


 ルーは決意を述べる。自らの義務を果たすためどんな努力も惜しまない様子だった。


「わたしも……どこまでできるのかわからないけれど何もしないままは嫌。頑張ります」


 ヒルデもルーと同じく、覚悟を決めていた。


「……俺か? やるもやらないもないだろう。あの大魔皇帝をぶん殴れるなら、なんだってするぜ」


 エヴァンは考えることをやめていたが、彼なりの表現で決意を明らかにした。


「……どうやら、みな意志は固いようだな。ならばさっそく受けてもらおうか、試練を」


 学園長はさっと右手をあげる。


 学園長は3人を大魔皇帝を模った像の前にある舞台状の場所に立たせた。


「装置起動……」


 どこからともなく低いうなり声のような音が聞こえ始め、辺りの空気がわずかに振動している。


「三人ともよいか? 覚悟せいよ」


 学園長の合図とともに機械音は最高潮に達し、ルーをはじめとする三人は光に包まれ次々と消えていった。


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