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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第七章 討伐大魔皇帝
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第一四八話 惨劇の港

 それは強烈な閃光とともに始まった。


 わずかに遅れて大音響の爆音と衝撃波がクウヤたちのいる軍港まで届く。突然の事態に港は騒然としていた。ほとんどの人は何が起きたのかまるでわからず、右往左往剃ると毛だっただにちた


「いったい何だったんだ、今の?」


 エヴァンは辺りを見回すばかりで、今起きていややや状況が理解できない。


 文字通り港は蜘蛛の子を散らしたような騒ぎが広がり、どんどん収拾がつかない状況になっていった。


「いったい何が爆発したの? あっちの港のほうだえ


 状況の理解という点ではルーは早かった。いち早く民間港で爆発が起きたことを理解する。


「爆発……? 何で港で爆発が……?」


「……爆発事故? 港に爆発物が集積されていたのか?」


 ハウスフォーファーも事態を理解し、現状を分析し始める。


「爆発って……? こんな港に爆発物ってどういうことだよ?」


 エヴァンはハウスフォーファーの言葉にますます混乱する。


「さあてね。世界でも有数の港だ。爆発性あるものがあっても不思議ではないが……あるいは……」


 マグナラクシアの諜報活動を担うハウスフォーファーならではの見解だった。


「ま、現状では原因が確定したわけじゃない。とにかく現場へ急ごう。おそらく負傷者がたくさん出ているはずだ。救助へ向かおう」


 クウヤは仲間たちと現場へ向かうことにした。


 港に面した建物は爆風で窓が飛び、一部では火災も発生していた。自衛団と衛兵が消火と救助にあたっているが道には負傷者が寝転び、十分な手当てができているようには見えなかった。


 埠頭では爆風で吹き飛ばされひしゃげた木箱が散乱し、その周りに誰の者ともわからない肉塊も散乱していた。もとヒトであったと推測される肉塊もあり、いたるところに血の水たまりがあった。


 片腕、片足を失った人々がうめき声をあげのたうちまわり、その様子を頭が半分吹き飛ばされた虚ろな目が見つめている。


 血まみれでもはや息をしていない幼子を抱きしめ泣き叫ぶ母親がいた。そのそばでは父親と思われる男がわめき散らしている。


 半壊し、沈みかけた船が何隻か見えたがそちらには救助の手はまわっておらず、沈むに任せていた。


「……地獄だな」


 ハウスフォーファーはこの光景に絶句していた。裏世界で破壊工作にも従事していた彼ですらそんな様子であった。


 当然、ルーたちは凄惨な光景に立ち尽くすだけであった。


 しかし、クウヤだけは違っていた。クウヤは幼いころ見た屋敷での人間爆弾テロを思い出し、怒りを禁じえなかった。


「まったく……何度こんな光景を見れば……」


 クウヤは拳を握りしめ、まんじりともせず港の悲惨な光景を睨みつけている。


「とにかく手伝おう。エヴァンは瓦礫の撤去、ルーとヒルデは怪我人の治療、先生は……」


「私も救助を手伝おう」


 ハウスフォーファーは一瞬考えたクウヤの言葉のあとに間髪入れず、申し出る。


 クウヤたちは修羅場へ飛び込んでいった。


 元が何であったのかわからない瓦礫を前に呆然とするエヴァン。


「……これ、どうすりゃいいんだよ」


「とにかく、上のほうの動かせる瓦礫から片付ける」


 クウヤは瓦礫の山へ向かっていった。


「クウヤ君、瓦礫の中をよく確認したほうがいい」


 ハウスフォーファーはクウヤへ助言する。変に瓦礫に登り、崩れることで起こる二次災害を懸念してのことだった。


 クウヤはハウスフォーファーのアドバイスに従い、一つ一つゆっくり瓦礫を取り除き始める。


 ハウスフォーファーは自警団団長と思われる人物や衛兵の隊長と思われる人を集め、何か打合せし、指示している。


 クウヤは瓦礫を取り除きながら辺りを見回す。


 土煙がもうもうと巻き上がり、塵や埃の中に元が何の構造物だったのか分からない瓦礫の山がいくつか見える。その瓦礫の山には数人の男たちが蟻のように取りついている。瓦礫を取り除こうとかじりつくように木片や建材だった石を取りのぞいている。その中の一人は瓦礫の中をのぞき込み、声をかけている。


 クウヤはその一つに近づき声をかけた。


「手伝います!」


「おう、助かる! そこの柱が邪魔で中にいる人を助けられない」


「分かりました」


 クウヤは瓦礫をじっと見つめる。瓦礫の中に太い柱がみえ、その下に血の気の引いた手が見えた。


 クウヤは慎重に柱にのっている瓦礫を取り除く。


 その作業は恐ろしく神経を使う作業だった。安易に動かせば柱がぐらつき今にも瓦礫の山全体が崩れそうになる。神経をすり減らしながら、瓦礫を一つ一つ撤去するしかなかった。


「……くそっ、こんな状態じゃ魔法で吹き飛ばすこともできない」


 クウヤはじれったい思いを無理やり抑え込み、瓦礫を動かした。


 どれだけ時間が経っただろう、辛うじて倒れた柱のまわりに人が入って作業する空間を作り出した。


 クウヤは早速救助を開始した。


「おい、しっかりしろ! もうすぐ助かる」


 クウヤは必死で声をかけ、瓦礫の下の被災者を励ました。その声に反応したのか青白い手がわずかに動く。


「生きている! 手を貸してくれ」


 クウヤは周囲にいる人間に助けを求めた。


 周囲の人間はすぐに集まった。しかし柱の下の被災者をみて動きを止める。


「……奴隷紋、それも奴隷魔族だな」


 クウヤは被災者の手を見た。何かの紋章が手の甲に刺青されている。クウヤにはその刺青の意味がわからない。


「どうしたんだ? 手伝ってくれ」


 クウヤは再三お願いしたが、被災者を見たとたん動きを止める。


「どうしたんだよ、早くしないと……」


 クウヤは集まった人間の動きが理解できなかった。


「……そいつ、魔族だよね。それも奴隷の……」


 集まった人間の一人がつぶやいた。


 クウヤは耳を疑う。


「魔族だから……? 奴隷だから……? 魔族だから、奴隷だからなんだよ」


 クウヤの問いかけにすぐ答えるものはいなかった。


「……奴隷魔族なんだからほっとけよ。それより他に助ける人がいるだろう」


 集まった群衆の一人が言った。


「奴隷魔族ならなんでほっとかなきゃいけないんだ? 彼らだってこの街で生活しているんだろう!」


 クウヤは思わず怒鳴る。群衆はクウヤの怒りが今一つ伝わらず、戸惑っている。


「奴隷魔族なんて、野良犬と変わらないじゃないか。それよりもちゃんとした人を助けるほうが先だろう」


 クウヤには聞き捨てならなかった。奴隷魔族は野垂れ死ぬことが暗黙の了解となっていたことに。

 クウヤは拳を握りしめ、己の怒りを押さえるのに必死だった。


 マグナラクシアは違うと思っていた。多くの人が自由を謳歌し、差別もない国だと思っていた。しかし緊急時にはその隠された本性が現れる。マグナラクシアもこの世界の一国家に過ぎないことをクウヤは痛いほど思い知らされる。


 なすすべのないクウヤは群衆に背を向け、一人救助作業を始める。


「すまないが手伝ってやってくれないか?」


 ハウスフォーファーが周囲の群衆を説得し始めた。


「なんで、そんな魔族を……」


「たのむ。後生ごしょうだから」


 ハウスフォーファーはただひたすら頭を下げ続けた。


「……かなわないなぁ。大将にそこまで頭を下げられたら、しないわけにはいかないな」


 自警団の団長はハウスフォーファーに根負けした。そしておもむろに手伝い始める。


 その様子に団員が仕方ない様子で一人、また一人と手伝いはじめた。


「すまない……」


 ハウスフォーファーは深々と頭を下げる。


 だんだん人が集まり、少しづつではあるが瓦礫が撤去され、被災者を救助する作業空間が出来上がった。


「よし、このぐらい広がれば大丈夫だ」


 クウヤはそう言うと、被災者を瓦礫のしたから引きずり出そうとした。すると奴隷魔族は何かを抱きかかえている用だった。


「……何を?」


 クウヤはその奴隷魔族を見た。


 奴隷魔族は女性で、幼い女の子をかばうように抱きしめていた。


「おい、しっかりしろ。助かったんだぞ、おい!」


 クウヤはその奴隷魔族の女性に声をかけ、かるく揺さぶった。揺さぶられ気が付いたその女性はクウヤの顔を弱々しく見る。


「……この子を……この……子……を」


 それだけ言うとまた気を失った。


「おい! おい、しっかりしろ」


 クウヤは叫ぶ。しかし今度はその女性の反応はない。


「クウヤ君、急いで回復を」


 動転しているクウヤにハウスフォーファーは指示をだす。その指示を聞いてクウヤは今自分のやるべきことを思い出す。


「先生はこの子をお願いします」


 女の子をハウスフォーファーに渡すと、クウヤはその女性に回復魔法をかける。


「思ったより、傷が深い……」


 回復魔法の力で多少体力が回復し、小さい外傷はふさがった。しかし背中ある傷は深く、ふさがりが悪い。あまりの深手のためあまり効果が出ていないようだった。


 少し間をおいて、弱々しいながらもその女性はうっすら目をあけ、クウヤを見る。


「安心しろ。あの子は無事だ」


 クウヤがそういうと安堵した表情を浮かべ、わずかに頭を動かした。


「誰か、たのむ! 医者の所へ運んでくれ!」


 周囲にいる自警団の団員に彼女を引き渡した。


 クウヤはハウスフォーファーを探した。


「あの子は……大丈夫でしたか?」


 クウヤはハウスフォーファーのもとへ駆け寄り、子供のことを聞く。


「ああ、心配ない。自警団が後のことをやってくれる」


 ハウスフォーファーはクウヤの肩を叩き労をねぎらった。


 クウヤは大きく息を吐き出す。少し間を置き、周囲を見渡した。


 土煙舞う現場の惨状はそのままで、あわただしく自警団の団員や衛兵が走り回っている。


 かろうじて被害を受けなかった人夫が自警団の指示で被災者の救援を行っている。


 あたりを見回っていた自警団の一人が近寄ってきた。自警団にしてはやけに目つきの鋭い男で、ハウスフォーファーのそばによって何か耳打ちする。


 ハウスフォーファーは何やらあたりを見渡している。次第に目が険しくなる。


「あとは彼らに任せよう。我々は引き上げるんだ」


 ハウスフォーファーはクウヤにそう言って、この場を離れるよう助言した。


「いやでも、まだ瓦礫の下に……」


「引き上げるんだ。我々のするべきことはここにはない」


 いつになくハウスフォーファーはすごみ、クウヤの行動を制する。


 ハウスフォーファーのすごみに何かを察したクウヤは仲間たちを集める。


「……行こう。ここでできることはない」


「何言っているんだよ、クウヤ。まだ瓦礫の下には……」


「君たちのできることはない。ないんだ。わかるな?」


 この場を立ち去ることを提案するクウヤに食ってかかったエヴァンをハウスフォーファーが押さえる。


 さすがのエヴァンもハウスフォーファーには逆らえない。


「……分かりました」


 エヴァンは引き下がり、この場を離れることを了承した。


 ルーたちもクウヤたちに付き従うが、訝しげな視線をハウスフォーファーに送っている。


「ハウスフォーファーさん、何かあったんですか?」


 現場を離れる道すがら、ヒルデはハウスフォーファーに尋ねる。


「……ここでは、話せない。場所を変えたい」


 それだけいうとハウスフォーファーは貝のように押し黙る。 


 その様子にヒルデも黙ってついていく。


 クウヤたちはハウスフォーファーに従い、港を後にするのだった。


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