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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第六章 魔戦士降臨編
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第一二六話 “街道”にて

魔族はクウヤの迫力の前に魔の森への立ち入りを認める。さっそく魔の森へ立ち入ったクウヤたちは魔物の大群に遭遇する。そこでクウヤは……

「ちょ、ちょっとクウヤくん! 何言っているの?」


 ヒルデが慌ててクウヤを咎める。しかしクウヤはやめない。


「貴方がたの不幸な歴史についてはわかります。しかし、過去の過ちを利用して相手を貶め追い詰めるやり方は卑怯ではないですか?」


「何を! 我らの迫害の歴史を理解できない子供が口を挟むな!」

「そうだ! 一体何の資格があって口を挟む。たかが付添人が口を挟むな!」


 魔族たちは舌鋒鋭くクウヤに言い返す。

 

「資格……? 資格ねぇ……この場に来ているのは連合軍のメンバーとしてここにいるのでね。全くの無関係ではない。つまりは資格はある」


「だからどうしたと言うんだ。連合軍なぞ我ら魔族には一切関わりのないものだ。そんなものがどうしたと言うんだ」


「存亡の危機にある国を支援し、守る。その妨げになるものは何であれ叩き潰す力――それが連合軍の力だ」


 クウヤは不敵な笑みを浮かべ、魔族たちを見る。


「我々の活動を妨げるのならば魔族も……これ以上は言う必要がないでしょう」


 クウヤは魔族の前に手を突き出し、何かを握りつぶすようにゆっくりと握る。


「そんなことできるはずがない。我ら魔族の力を見くびるなよ」


 魔族たちは苦し紛れにクウヤへ恫喝ともとれる言葉で反論する。その言葉にクウヤは黒い笑みを浮かべる。


「とすると魔族は魔戦士と全面対決をお望みということか? もしそうならこちらとしては受けて立つだけだが」


 魔族の顔には明らかに怯えの色が浮かぶ。かつて大魔皇帝と一戦交え、一歩も引くことのなかった魔戦士の強さについては彼ら魔族が一番良く理解している。


「少なくとも我々は魔族の領域を侵すために来たのではないんだ。リゾソレニアを襲う魔物の発生源を断ちリゾソレニアの安定を取り戻したいだけだ」


 クウヤは一歩前に出て、魔族に頭を下げる。


「過去のいきさつから思うところがあるのはわかる。しかし今回はそれに目をつぶり我々のすることを静観してほしい。我々の望みはそれだけなんだ」


 先程の恫喝めいた言葉とはうってかわったクウヤの哀願言葉に魔族たちは当惑している。しかし、クウヤが頭を下げたことで剣呑な雰囲気は消えている。


 魔族たちは小声で何か協議している。


「……他でもない魔戦士殿の申し出を無下にするわけにもいくまい。今回は緊急事態における特例として魔の森へ入ることを不問としよう。ただし、監視をつける。いかなる事態になっても、監視役の指示には従ってもらう。そういう条件なら、リゾソレニア代表の希望を叶えよう」


 タナトスは一国代表とは思えないほど喜びを表し、魔族とクウヤに感謝の言葉の雨を降らせる。クウヤはともかく魔族はタナトスの感謝の言葉に苦虫を噛み潰したような表情を見せるだけだった。


「何はともあれ、準備でき次第魔の森へ向かいましょう」


 タナトスは晴れやかに宣言した。その顔は問題が解決したかのような顔であった。


 その後の苦難については全く頭になかった。


――☆――――☆――


「……相変わらずだな、この森は」


 森に生える潅木やツル性の絡み合っている植物を切り捨てながら、エヴァンは嘆く。


 魔の森はいつものごとく、緑の障害物が一行の行く手を阻む。考えようによっては魔物並に厄介な存在だった。一歩進むたびに行く手を阻み、少しずつではあるが確実に体力を削っていく。


「大丈夫か?」

「大丈夫です。初めてではないので対処は可能です」


 クウヤはルーに声をかける。いつもどおりの彼女の答えにクウヤは安心する。

 

「しかし、いつもながらこの森はうっとうしいことこの上ないな」


 エヴァンは手なれた感じで灌木を切り払いながらボヤく。


「……魔の森とは想像以上の場所ですね。クウヤ殿たちはこんな過酷な状況で魔物と戦っていたのですか」 


 タナトスは今までいたことのない過酷な環境に戸惑いを隠さない。


「ま、この森はこんな感じですよ。どこまで行っても魔の森の中にいる限りはね」


 うんざりしながらクウヤが答える。


「こんな状況で魔物と戦うのですか? かなり不利な状況だと思うのですが」


「それでもヤツらが出てくれば戦うしかない。逃げ場もないし」


 クウヤたち一行は魔物の影を追って魔の森の深部へ立ち入る。


 魔の森深部は異形の大木がい茂り、深緑の闇を作り出している。わずかに枝と枝のすき間から漏れ射し込む光は森の闇をことさら強調している。


「この森はどこまで続くのですか?」


 やや息を上げながらタナトスは魔族の付き添いに尋ねたが返事はなかった。


 クウヤたちもその答えを知らず、ただ目の前に続く獣道ならぬ“魔物道”を黙々と進むだけだった。


 しばらく一行が魔物道を進むと道の先のほうがほのかに明るくなってきた。


「もうすぐ“街道”だ。気を引き締めろ」


 魔族の付添人がクウヤたちに注意を促した。


「街道……? 何だこんなところに人の往き来があるのか?」


 魔族の言葉に反射的にエヴァンが尋ねる。


 魔族は一瞬頭を抱え、エヴァンに説明を始める。魔族の説明によると幾筋ものを魔物道がまとまって大きな魔物道になることがあるとのこと。“街道”とはそんな魔物道の中でもことさら大きいもののことを指すと説明した。


「……となると、その街道の先に目指す目的地がある……と?」


 クウヤが魔族に尋ねる。魔族は特に言葉を発せず頷く。


「となれば……行くだけだな」


 周りを警戒しつつ、クウヤたちは“街道”を進む。


 街道は薄暗い森を切り開かれており、暗緑色のトンネルになっていた。粗雑に切り倒された木々が敷石のように道の端に積み上げられ、道の真ん中は下草でさえ文字どおり根こそぎ引き抜かれ、森の基盤となっている土壌があらわになっている。無数の魔物が通ったせいか、土は踏み固められ、石のように固く締め固められていた。


「奥は……見えないか」


 クウヤは一人先行し、道の様子を見ている。


「クウヤ、何か見えましたか?」


 クウヤの様子をみて、さしあたり危険がないと判断したルーが道端に積み上がる木々の合間を抜け、クウヤのところへかけよってくる。


 クウヤは改めて道の奥の方を見ると、土色の道が暗緑色の暗がりが行く手を覆い隠しているのが見えた。


「いや、ずっと奥の方まで森の暗がりが続いているだけだ」


「魔物は……いない?」


 奥の方を見渡しながら、ヒルデがつぶやくように確認する。クウヤたちは周囲を警戒しつつ、街道の奥を注意深く観察する。


 見渡せる範囲には動くものは見えなかった。


「とりあえず魔物の影は見えない。行こうか」


 クウヤはゆっくりと奥に向かって歩きだす。仲間たちもそれにあわせて歩きだした。


 奥へ進むにつれて、道端の切り株が年月が経っているのか、石のような質感に変化していることに気づく。街道の横に敷石のように並ぶ古い切り株は何かの祭壇へ向かう参道のような雰囲気を醸し出している。


(さしずめ、大魔皇帝のすみかへ向かう参道ってところか?)


 クウヤはその光景をみてふとそう思った。


「クウヤ、何かが近づいてきます」


 ルーが唐突に叫ぶ。と同時に、街道の奥から禍々しい気配が近づいてくることに気づく。


「さて、一戦交えますか!」


 エヴァンは愛剣の両手剣を構え、臨戦態勢をとる。少し遅れてルーとヒルデも詠唱を始める。タナトスもそれに続き、得物のスタッフを構える。クウヤは愛剣を肩に担ぎ、仁王立ちしている。魔族の付添いは足早に脇の倒木に身を隠し、様子をうかがっている。


 禍々しい気配は次第に地響きに変わり、クウヤたちが目視できるぐらいになると、弱い地震が起きているように地面が揺さぶられる。


「こりゃまた……団体さんがお越しだ」


 クウヤたちの目の前には、龍種を筆頭にキマイラのような魔法合成された魔物もみえる。その他、取り巻きに有象無象の魔物が群がりつつ、クウヤたちのほうへ向かってくる。


 クウヤはニヤリと笑みを浮かべる。


「ルー、灯を」


 クウヤが指示するやいなや、ルーは魔法で光の玉を召喚、魔物の群れの上空へ飛ばす。


 光に照らされ、土煙を上げ猛然と近づいてくる魔物の群れは百鬼夜行ならぬ千鬼夜行というべきものであった。無数の魔物が眼光鋭くクウヤたち一行にむけて遮二無二突進する。


「穢れし生命をいかづちの鉄槌をもって討ち滅ぼさん! 雷撃ライトニング・ボルト!」


 ルーが真っ先に魔物の群れを攻撃する。魔物は雷に打たれ、炎上する。悶え苦しむもの、即死しその場でこと切れるものと現れたが、最終的には魔物を炭の彫像に変えていく。


 しかし千鬼夜行は止まらず、最前列の炭の彫像を踏み砕き、怒涛の勢いでクウヤたちのほうへ向かってくる。


「悪しきものを燃やしつくせ、業火炎ヘル・フレイム!」


 ヒルデがルーの後をつぎ、魔物たちを地獄の業火で焼く。目の前には炭でできた黒い壁が出来上がった。


 生き物を焼き殺したときの嫌な臭いがただよう中、魔物の勢いは止まったかに見えた。


「まだだな。来るぞ」


 エヴァンが自分の得物を構え、黒い壁を睨みつける。


 その瞬間、黒い壁が音を立てて崩れ落ちる。後続の魔物が倒された魔物の亡骸を踏み越え、溢れだす。


「……さて、今度は俺の番だな」


 クウヤは一人魔物の前に歩み出る。


 愛剣の刃に指を這わせる。クウヤの指が通過したあと、刃が青白く光る。


 クウヤは光る剣を構え、魔物よ群れに突撃する。あふれ出る魔物を右に左にかわしながら、一刀両断していく。さながらクウヤは黒い旋風であった。魔物の間を黒い旋風が駆け抜ける。


 クウヤが通過したあとには二分された魔物の死骸が転がる。


「さて、ザコは片付いたっ……と」


 クウヤは何百という小型の魔物を切り捨て、その魔物の群れを追いかけるように現れた大型の魔物の群れの前に立っていた。


「……喰いでのありそうな魔物ヤツだな」


 大型の魔物の群れの中から、さらに大型の魔物が群れをかき分けるように現れた。


「あれは……!」


 現れたカゲは明らかに龍種だった。大型の龍種が単独でクウヤの前に威嚇しながらまかりでる。禍々しい雰囲気をまとい、血走った目でクウヤを睨む。黒々とした黒曜石のような鱗をテカらせながら、一歩また一歩と距離を詰める。


「さすがにでかいな。龍相手はお初だが……」


 クウヤは剣を構え、龍をにらみ返す。


 龍はクウヤに対し咆哮する。凄まじい音圧が衝撃波となってクウヤを襲う。砂塵がまい、クウヤの姿がかすむ。


 クウヤは剣を盾代わりにして衝撃波を耐えている。砂塵混じりの衝撃波はクウヤの全身を削っていく。


「クウヤ!」


 思わず、ルーが叫ぶ。


「……心配すんなって。この程度どおってことないっ!」


 クウヤは衝撃波を切り裂くように鋭く剣をふるう。クウヤは龍の衝撃波を切り裂いた。今度はクウヤの順番ターンだった。


 クウヤの剣からも衝撃波が放たれる。その衝撃波は砂塵をまとい、半透明な三日月形の刃となる。


 クウヤの刃が龍を切り裂く。この世界でも有数の硬度を持つはずの龍の鱗が割れる。龍の鱗はどんな衝撃にも耐える最高の防具素材として知られているが、その鱗が焼きのもの皿のように両断された。その破壊力にタナトスや魔族が驚嘆する。


 龍は激しい衝撃に天を仰ぐ。痛みに怒りを顕にし、手当たり次第に周囲のものを薙ぎ払う。戦斧バトルアックスのような爪は当たるものすべてを両断し、巨木の丸太のような尾が当たるものすべてをはね飛ばす。近くに倒れていた木々だけでなく、龍を取り巻いている魔物たちも巻き添えにした。ありとあらゆるモノがなぎ倒され、巻き上げられ、周囲へ跳ね飛ばされる。


 クウヤは飛ばされてきた魔物などをあるものは切り捨て、あるものは受け流す。クウヤの後ろのほうにいたルーたちは飛ばされてくる魔物を避けることに必死になる。


「龍ならもう少し楽しませてもらわないとな」


 クウヤは黒々とした笑みを浮かべ、龍へ突進する。龍もクウヤを迎え撃つべく咆哮し、彼のほうへ向き直す。龍の爪がクウヤを捉える。がその攻撃を事も無げに剣で受け流すクウヤ。さながら、武闘大会で龍相手に演舞を披露しているかのようだった。


「……クウヤ」


 クウヤの戦う様をみてルーたちは戦慄していた。強大な龍と戦っているはずなのに、クウヤはまるで龍相手に演舞を披露している――このことはクウヤの戦闘能力がルーたちよりはるかに隔絶していることを示していた。そのことに気づいたルーはクウヤがこの世ならぬ者のように感じる。


 いつも身近にいたはずの彼が、突如得体のしれない存在になって目の前に現れたような感覚に襲われた。

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