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第十一話 早朝訓練②

短めですみません。


 暗い森は明るくなるに連れて(ほの)かにだが木漏れ日が多くなり、行く先を散発的に照らしている。クウヤとソティスの二人は木漏れ日のシャワーの中を歩いている。


 少し歩くと、暗い森の中に開いた広場のようになった空地にでた。朝日が差し込み、光のベールが周囲の森を覆っていた。


「さて、ここでしましょうか」


 ソティスが(おもむろ)に立ち止まり、クウヤに話しかける。クウヤは頷き空き地の真ん中へ歩いてゆく。空き地の真ん中らへんに着いたクウヤは立ち止まり、ソティスの方を向く。


「それでは昨日教えたように、魔法を発動してみてください」


 そう言われたクウヤは前の日の午後、ソティスに教えられたように魔力を練り、詠唱を始める。


「我は求める。世の(ことわり )( つかさど)り万物を()べる万能なる力に、我が魔力を捧げ世の理と万物を我が意志のままに。……我が手に炎を!」


 クウヤはそう詠唱し意識を集中、魔力も手のひらに収束させた。すると手のひらに小さい光が現れ、それが次第に小さな炎に変わっていった。


「できたっ」


 手のひらの炎は不安定にゆらめき、大きさも大きくなったったり小さくなったりを繰り返し、安定しない。


(安定しないな……)


 不安定な炎を安定させようとクウヤは魔力を更に注ぎ込み、様子を見ていた。すると炎は激しく拡大縮小を繰り返し始める。


「?」


「クウヤ様、魔力を拡散してください!」


 ソティスがクウヤに声をかけるとほぼ同時に炎が一気に火柱となって立ち上る。慌ててクウヤは魔力注入をやめる。火柱は一気に火の玉となり一点に収束した。


「投げ捨てて! クウヤ様!」


 ソティスはその光景を見て慌てて叫ぶ。クウヤも慌てて、火の玉をソティスと反対側へ投げ捨てる。


 投げ捨てられた火の玉は地面に着くか着かないかのところで大音響を残し、弾け飛んだ。衝撃がクウヤたち二人のところにまで届いたが、二人は姿勢を低くしなんとかやり過ごした。


「ふぅ……。危なかったな……」


「お怪我はありませんか?」


「大丈夫、問題ない」


 衣服の土を払いながらクウヤは苦笑し、ソティスに答える。


「だいぶ派手にやっちゃったなぁ……。やっぱり、魔力の制御は難しいや」


「初めてですから、やむを得ません。これから練習すればもっとうまく出来るようになりますよ」


「ん……。そだね」


 特に良い励ましの言葉を見つけることができなかったソティスは型通りの励ましを言ったが、クウヤは肯定的に受け止めた。ソティスはクウヤの反応に少し違和感を感じたが、些細な問題に思えたのかすぐに意識の外に追いやった。


「さて、もう一度やってみるか。準備はいい?」


 珍しく、クウヤが積極的にソティスに声をかける。ソティスは多少の違和感を感じたが、理由はどうあれクウヤが鍛錬に積極的になっていることを良しとし鍛錬に集中する。


「それでは続けます」


 ソティスの声が林間に響いた。


――――☆――――☆――――


「日も高くなったことですし、屋敷に戻りましょうか?」


 ソティスの一言に魔法の鍛錬を行なっていたクウヤは構えを解き、帰る支度をする。


「それでは、魔力を練ってください。同じ道を通って帰ります」


「分かった」


 二人は同じ道を通り、屋敷に向けて歩きだした。再び森を通って街へ向かう途中薮の奥のほうから叫び声が聞こえた。


「なんの声だ?」


「あっちからです。行きましょう!」


 二人は薮をかき分け、声のした方へ駆け寄った。薮の奥をみると子供たちが魔物に囲まれ、今にも襲われそうになっていた。


 その光景を見たソティスは一瞬にして冷たい凍てついた表情になる。間をおかず、一気に魔物たちとの距離を詰めながら、いつの間にか取り出した黒爪の爪を一匹の魔物に向けて投げつける。爪は光のように飛び、魔物に突き刺さる。魔物はソティスの方を向き、ターゲットを変えた。他の魔物もそれに習う。


 ソティスはまんじりともせず、短剣を構え魔物たちに相対する。魔物たちはソティスの前に闇の壁となって立ちふさがった。その光景をクウヤは何もできずただ見続けるしかなく、ただ立ちつくし何かしないといけないと焦っているだけだった。


 ソティスと魔物たちは睨み合っていたが、魔物の一匹が業を煮やし、ソティスに襲いかかった。しかし襲いかかった魔物の動きが突如止まる。刹那、崩れ落ちるように魔物が倒れる。魔物が崩れ落ちた向こう側に短剣を構えたソティスが臨戦態勢で立っていた。その光景を見た残りの魔物たちはにはためらいが見られた。ソティスはそのスキを見逃さず魔法を発動し、魔物の前に炎の壁を作った。驚いた魔物たちは森の奥へ這々の体で森の闇へ消えていった。


「ソティス、大丈夫?」


 クウヤが立ち寄ると冷たい氷の表情から普段の顔に戻る。


「大丈夫です。大したことはありません。それより子供たちは?」


 そう言われるとクウヤは子供たちの方に駆け寄った。


「大丈夫?」


 クウヤに声をかけられるまで恐怖で硬直していた子供たちが徐に動き出す。よく見ると、子供たちは普通の人とは様子が違った。妙に毛深く耳が獣のような三角をしている子、人より耳の尖った子など、亜人種の特徴を持った人の子であった。


「怪我はない?」


 クウヤの問いかけに頷く。ソティスは子供たちの返事を確認して、クウヤに提案する。


「クウヤ様早くここから移動しましょう。他の魔物が襲ってくるかもしれません」


「わかった。君たち、行こう」


 襲われた子供たちは、無口でクウヤたちに従う。


「とりあえずどこに避難しよう?」


「教学所へ行きましょう。ここから一番近い安全な場所です」


 クウヤたち一行はあたりを警戒しながら、言葉少なに早足で森を駆け抜けていった。


(この子たちは一体森の中で何をしていたのだろう? それに何で亜人種っぽい格好なんだろ?)


 クウヤは森を駆けながら、そんなことを思う。

 

 森の中は日が昇ったとはいえまだ薄暗く、所々黒々とした闇が散在していた。その光景がクウヤたちの不安感を煽った。森の小動物などや風で茂みなどがざわつくたびに、クウヤたちの緊張が高まる。


(だいじょうぶかな?)


 クウヤが不安にかられるている様子にソティスが気づき、声をかける。


「クウヤ様、もう少しで森を抜けますから頑張ってください」


 どうにか森を抜け、教学所へたどり着いたクウヤたちは教学所の扉を叩いた。


「すみません、何方かいませんか?」


 何度か扉を叩いたが、返事はなかった。


「おかしいわね? ハウスフォーファーさんはいないのかしら?」


 ソティスは疑問に思い、教学所の周りをうかがいはじめた。ソティスは建物の奥のほうに人影を認め、近寄る。そこには農作業に勤しむハウスフォーファーがいた。


「これはこれは、クロシマ子爵のところの……。こんな朝早く何事ですかな?」


「実は森で魔物に襲われた子供たちを保護しまして、ここで一時預かってもらえないかと……」


「そうですか。どの子たちですかな?おや?子爵のご子息もご一緒でしたか」


 ハウスフォーファーはクウヤたちを一瞥し、微笑む。子供たちはクウヤに促され、ハウスフォーファーの元へ近づく。


「もう大丈夫だよ。ここでしばらく休むといいよ。ハウスフォーファーさんが面倒みてくれるし」


 クウヤは子供たちに声をかけ、笑顔を見せる。


「それではハウスフォーファーさん、あとはよろしくお願いします」


「もう帰るのかね。もう少しゆっくりしていけば良いのに。それにクウヤくんはもうすぐここに通うのだから見学がてら、もうちょっと休んでいってはいかがかな?」


 ソティスが踵を返し足早に立ち去ろうとするのを、ハウスフォーファーが引き止めた。


「……ぁ、えぇ……」


「せっかくのお申し出ですが、屋敷にて所用がありますので、これにて失礼させて頂きます」


 クウヤが返答に困り、どぎまぎしているとソティスがキッパリとハウスフォーファーの誘いを断った。


「それは残念。また時間があるときによってくといい」


 ハウスフォーファーもそれ以上は引き止めはせず、クウヤとソティスは教学所を辞した。

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