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魔戦士クウヤ〜やり直しの魔戦士〜  作者: ふくろうのすけ
第六章 魔戦士降臨編
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第一〇一話 遺跡へ ①

魔の森へ再進入するクウヤたち。そんなクウヤたちに魔の森は試練を与える。

 魔族が築いた防壁にある門の前で、前の調査と同じように魔族側の同行人が来るのを待つクウヤたち。友好的な同行人だったらいいなとひそかに期待して門が空くのを待つ。やがて門が重々しい軋みを上げ開き始める。向こう側には魔族の案内人が腕を組み、仁王立ちしていた。彼らはこちらを渋い顔でにらんでいる。お世辞にも友好的に魔の森を案内する雰囲気ではなかった。


「……君らか。こんな時に遺跡調査に向かう愚か者は。もう少し考えて正しい選択をできる者はいなかったのか?」


 開口一番、魔族側の挑発的なセリフにクウヤたちは警戒の色を露わにする。しかし隊長はそんなクウヤたちを手で制する。どうやら隊長にとっては規定事項だったらしい。多少口角を上げ、魔族たちに近づく。


「……ま、それが我々の役目でなんでね。時期がどうであれ、調査対象が存在する限り、我々は調査に向かうのが我々とって『正しい選択』なんでね。悪いが付き合ってもらうぜ。不法に侵入することだってできるんだ。そんなことしたら困るのはそっちだろう。な?」


 隊長はこういう交渉に慣れているのか、実に弁舌滑らかに同行人たちを説得する。といってもその内容は半分以上脅しとハッタリではあったが……。同行人たちは訝しそうにクウヤたちを見ている。


「……魔の森は現在魔物の活動が異常に活性化している。それでも遺跡へ向かうのか? 賢い選択だとは思わんがな……これだから、人間の考えることはわからん」


 心底、呆れたように両手を広げる同行人たち。その様子を顎に手を当てながら見てる隊長。やがて黒い笑みを浮かべ、口を開く。


「ほう。魔の森から魔物があふれ出ているのは魔の森で魔物が騒いでいるからか。そんなに魔物が騒いでいるなら、魔族は無事なのか?」


 冗談めかして隊長は軽く魔族に聞いてみる。軽い調子とは裏腹にその目は鋭い。どうやら、隊長は同行人の発言にいい感情は持っていないようだ。


「ヨモツの街の守りは鉄壁だ。人間の街とは比較にならん。魔物がいくら騒ごうと、どうとでもなる」


 同行人は胸を張り、見下したような目で隊長に話す。隊長は魔族の態度に若干の怒りを覚えたようだった。同行人たちを見つめる目は先ほどより鋭く光る。同行人の反応を無視するように隊長は言葉を続ける。


「で、街の外の魔物は放置ってわけだ。人間の領域に魔物があふれ出たとしても」

「そうだ。我々は人間の領域で起こることに関して干渉しない。それだけだ」


 同行人たちは本当に魔族の領域外のことには関心がない。そのことが隊長には不満のようだった。そのためか、隊長の口から出た次の言葉は若干魔族に対する嫌味が含まれていた。


「干渉ねぇ……魔物の流出を放置していることは無干渉に見えるが、結果的には人間の領域に対する侵攻と変わらないのでは?」

「何……!」


 その隊長の言葉に同行人たちが反応する。彼らは従来の方針通り行動しているだけなのに何故、一介の調査隊隊長に批判されなければならないのかという顔をしている。しだいに険悪な空気が広まってくるのをクウヤは困惑して見つめていた。


「ちょ……ちょっと待ってよ。今ここでそんな言い争いをしても、どうしようもないよ。時間が無駄になる」


 隊長と同行人の言い争いに割って入るクウヤ。放置しておけばいつまでたっても魔の森へ向けて出発できないどころか、出発前に彼らと仲違いしてしまうところにまできていたので我慢しきれず、口を出してしまった。


 隊長と同行人たちはその言葉で冷静さを取り戻した。年端のいかない少年から暗に感情的な言い争いをしていることを諭され、互いにばつの悪い感じになっている。


「……とにかく、今の状況で魔の森へ行くことに賛成できない。今から取りやめにできないのか?」


 同行人たちのリーダーは隊長に尋ねる。


「行かないわけにはいかないのです。おそらく行くことで、現状の問題を変える力を手に入れることができるはずなので」


 隊長の代わりにクウヤが同行人たちに強く主張する。クウヤの強い意志を込めた言葉に彼らは何か話し合っている。


「……力だと? お前たちまさか……」

「おっと、それ以上は機密事項なんでね。あくまで我々は『遺跡調査』に行くことになっているのが規定事項だと理解しておいてくれ」


 同行人のリーダーが言いかけるのを隊長が制する。訝し気に隊長をにらむ彼ら。


「今の混乱した状況を変えるために行くんです。あの遺跡にはそのカギがあるんです。お願いです、行かせてください!」


 クウヤも同行人のリーダーに懇願する。同行人のリーダーは何かを迷っているようだった。


「しかしだな……」

「このままでは、いずれ魔族の領域も魔物に埋め尽くされますよ。そんな未来を変えたいんです!」


 クウヤは熱弁した。凶悪な魔物を倒さんばかりの気迫で同行人たちを説得する。少しづつ同行人たちが押されていく。


「……ここで引き返したら、もうやり直しは効かないんです。後悔するような状態に陥ってからじゃ遅いんです。それはヨモツも同じです。今は魔族だ、人間だなどと言っている場合じゃないんです! もう、そんな時間の余裕はないんです。急がないと世界が破滅する」


 感情が高ぶり、次第に大げさな話になったが、気迫が同行人たちを押し切った。


「……どうなってもしらんぞ。それほど行きたいのなら行かしてやろう」


 同行人のリーダーはクウヤの気迫に負けた。それと同時に隊長が号令をかける。


「よし、行くぞ! 全員続け!」


 クウヤたちの調査隊は同行人を筆頭に魔の森へ向け、出発した。


――――☆――――☆――――


 魔の森は相変わらず、進入するものを拒み、緑の波がクウヤたちの行く手を阻む。その上、散発的に襲ってくる魔物たちを排除しなければならず、クウヤたちの道中は前回以上に困難を極める。


「……前も酷かったけど、今回はそれ以上だな。森の空気がまとわりつく感じがする。汗が引かない」


 クウヤは滴り落ちる汗を拭いながらぼやく。魔の森の中は蒸し暑く、粘りつく空気が充満していた。まるで生ぬるい粘る液体の中を歩いているような感覚さえ感じていた。明らかに前回の調査とは状況が変わっている。

 魔の森を庭としているはずの同行人たちでさえ、森の空気に苦しめられている。明らかに動きが鈍く、疲労の色を隠せないでいる。


「……なんだ? 何かいるのか?」


 うっそうとした茂みに囲まれ、周囲が見渡せないところに聞き及びのない怪しいうなり声が聞こえる。隊長が指示を出し、クウヤたちを集め周囲を警戒する。途端に周囲の茂みがざわめきだす。


「来た! 魔物だっ!」


 絵にかいたような魔物の襲撃だった。茂みから飛び出した魔物は牙をむき出し、両腕を振り上げ、調査隊を威嚇する。その数は数匹だったが、黒い剛毛に覆われたいたがその下にある筋肉の盛り上がりがはっきりとわかり、爪も鋭く巨大なクマのようにも見える。そんな魔物が牙をむき出しにし、前足の爪を振り上げ威嚇している。そのプレッシャーは筆舌に尽くしがたい。


 クウヤたちは自らの得物を構え、魔物の威嚇に対抗する。


 魔物は再度うなり声を上げ、クウヤたちに襲いかかる。うなり声は衝撃波となり、周囲の木々を揺らす。クウヤたちは得物を盾代わりにして、衝撃波を耐える。


「クソっ……! 厄介な」


 動きが制限される中、精一杯の抵抗を試みる。

 魔物がゆっくりとクウヤたちに近づいてくる。


「来るぞ! 構えろ!」


 隊長は発破をかける。同行人も含め、魔物の突撃に備える。魔物はクウヤたちの構えを見たためか、段々と近づく速度を上げる。雄叫びを上げ、近づく姿はこの世の悪意が形を持ち、目の前に顕現したかのように思わせるおどろおどろしさがある。


 クウヤたちは魔物の黒い圧力を耐えながら、迎撃する。先手は魔物のほうだった。調査隊の隊員に向け、大上段から振り下ろす。振り下ろされた爪は一つが調査隊の隊員が装備している片手剣よりも大きく、それが三、四本まとめたようなものだった。そんなものが襲いかかるため、並の戦士では対応は困難である。しかもそんな武装をした存在が力任せに襲ってくる。敵味方見境なくやみくもに襲い掛かる狂戦士バーサーカーとも言うべき存在とクウヤたちは戦っている。


 クウヤも剣を振るう。見通しがあまりきかない状況のため、魔法も使いづらい。魔法を放っても木々が邪魔をして、魔物を一掃できない。一気に形勢を逆転したいところだったが鬱蒼とした森がそれを阻んでいた。


(ちっ……こんなに見通しがきかないんじゃ、下手に魔法が使えない。同士討ちの可能性もあるし……よし!)


 クウヤは周りの状況から一つの考えが浮かんだ。リスクの高い方法だったが、現状を打開するための他の方法を思いつかなかった。かなり危険な方法だったが長引けばじり貧になることは間違いないとクウヤは確信し、行動に出た。


「みんな! 地面に伏せて! ヤツらを木々もろともなぎ倒す!」


 クウヤは雄たけびを上げるように叫ぶ。と同時に魔法を発動する。同行人を含めた全員が何が起こるのかわからないまま、クウヤの言う通り地面に這いつくばった。


「いくぞぉっー! ふせろぉー!」


 クウヤは短縮詠唱し、風の魔法を発動、強大な風の刃を生成した。


「いけー!」


 巨大な風の刃は木々もろとも魔物を切り裂いていく。風の刃が通り抜けた後には、屠殺されたような魔物の死骸がなぎ倒された木々とともに転がっていた。腹を割かれ、臓物をまき散らし暴れまわるものや手足をもがれ大量の体液をまき散らしながらのたうちまわるもの、身体を真っ二つにされその場で絶命したものもいた。


 その光景に同行人を含め、呆然とするだけだった。中には絶命した魔物の死骸に驚き、飛び跳ねるように逃げ出す隊員や腰が抜けて動けなくなるものもいた。


「今だ! 殲滅しろ!」


 隊長が指示を飛ばす。その声に我に返った隊員たちが魔物たちの掃討を始める。魔物のほとんどは手負いになりまともに動くことも難しい状態であった。そのため、生き残った魔物の掃討は家畜の屠殺程度の作業と化してしまった。先ほどまで命がけの戦いをしていた強敵が家畜並みに比較的簡単に掃討できることに全員は驚愕しつつも、魔物を屠っていく。ほどなくして魔物の掃討が終わり、全員がクウヤのそばに集まる。


 クウヤに対し恐れを抱くもの、賞賛するもの様々であった。その中で隊長は不機嫌な顔をしている。


「……クウヤ。今回は仕方がないが、できるだけ力任せ、魔力任せの戦いはするなよ。そんなことを続けていればお前の身が危なくなるぞ。もっと仲間との連携を重視するべきだ」


 言いたいことを言うと隊長は隊員たちの様子などを確認し、出発の号令をかけた。一方、言われたクウヤは言われたことは理解できるものの、何となくはっきりとしない不満を抱えてしまった。彼としてはほめられることはあっても、ダメ出しをされるとは思っていなかったからだ。


 何となく不満そうな顔でいると、仲間たちが寄ってくる。


「クウヤ、お前毎度ながらすごいな。もう魔戦士ならなくてもいいんじゃないか?」

「クウヤくん、元気出してよ。隊長さんだって、クウヤくんがすごいってわかっているはずだから」


 ルー以外の二人は不機嫌なクウヤをなだめに来た。クウヤはすこしくすぐったいような感覚をもち、思わず苦笑いする。その様子を見ていたルーはそんなクウヤに冷や水を浴びせる。


「……クウヤ、今回は何とかうまくいったものの、次があると思わないほうがいいわ。隊長の言う通り、あんな戦い方は長くはもたないわよ」

 

 真正面から冷や水を浴びせられたクウヤは途端に不機嫌な顔に戻る。彼が不機嫌な顔をしても言った本人は態度を変えない。


「……どういうことだよ。あそこで魔法発動しなければ、全滅したかもしれないんだぜ? 現に襲撃した魔物は一掃できただろう?」


 クウヤは不満げにルーに反論する。ルーも引かない。


「確かに魔物は殲滅できたわ。でもあの数だったから殲滅できんじゃない? 後続が次から次へときたらどうするの? あのとき、他の人たちは全く動けなかったのよ。そんなところに次々と魔物が襲ってきたら……どうするつもりだったの?」


 ルーは淡々と説明する。クウヤは反論できなかった。あの時力任せ運任せで魔法を最大出力で放ったが次のことはまったく考えていなかった。


「……悪かったよ。肝に銘じておく」


 ようやく、自らのミスに気づき反省するクウヤに対しルーは悲しそうな目をして、彼を見つめている。


「……私もあまりこんな言い方したくなかった。でも貴方が何もかも一人で抱え込むのを見ているのがつらいの……分かって。貴方は一人じゃない、一人じゃないのよ……」


 ルーの目は潤む。そんな目で見られたクウヤはただ優しく肩を抱き寄せるしかなかった。


 そんな二人の前にはまだ魔の森の暗がりが果てしなく続き、先行きは暗がりの中にしかなかった。

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