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藍燕

作者: 幸紗

 赤い夕日が辺りの山々を燃やし、太陽が眠りにつこうとしている。

どんな国のどの様な人間、いや、生きとし生けるもの全てに対し平等に時間は流れ、やがて日没を迎える。

東京の杉並では桜の開花宣言が成され、各地で花見が催されている。毎年話題に登るマナーの悪い花見客も、もう一種の風物詩と化している。


かと思えば、春には似つかわしくない様な暑苦しい人間というのも存在していたりする。

此処にいる大学生風の彼女も、その暑苦しい人間の中の一人だ。

「おーい!これは?」

どうするんだ、と聞きたいのだろう。伯父が年代物のランプを手に2階の窓から階下に見えるようにかざした。

「机の上でーす」

実家で使っていたのを持って来たのだ。シェードが硝子で出来ている為、梱包には少し手間取ったが、祖父の形見のランプは彼女にとって宝物であるので

「わざわざランプなんか持って来なくても。ドンキ行ったら腐る程有るぜ」

と言われても、

「ドンキにはアンティーク置いて無いぜ」

と切り返す始末。引っ越す時にも持って行くとは誰も思わなかったようで、当たり前の様に箱に入れてる姿を見た母が少々驚いていた。


引っ越しの先は伯父夫婦が昔住んでいた一軒屋。もうずいぶん前に違う場所に引っ越したが、中々売れず今日に到っている。最近ではもう売ることを諦め、借家にする事を考えていた矢先、姪が東京の大学に進学が決まった知らせと同時に引っ越し先の世話を頼まれた。

掃除を定期的にしていた甲斐あってか、荷物を運び入れる前殆ど掃除をせずに済んだ。


荷物を運び入れ、すぐ使う物を出した段階で既に日が暮れていた。

「じゃあ、俺はもう帰るけど。来週から学校なんだから、準備しとけよ。」

伯父がまだ開けていない段ボールを顎で指して言う。入学式は来週あり、次の日から講義の説明やら履修登録やらでほぼ一週間潰れる。肝心の講義はその次の週からになり、その日から勉強とサークル、バイトに忙殺される事になる。

つまり、荷ほどきやら身の周りの整理を集中して出来るのは実質今週しかない。

「分かってるよ。まだ6日あるから、その間に出来るだけ片付ける。」

家の鍵を置き帰ろうとした時、

「あ、庭のな」

「うん、知ってるよ。春紅葉に水を忘れずにやる。でしょ?」

庭の木に水をやる事は、この家を貸す事の唯一の条件だ。それ以外は全く条件らしいものは無いが、それだけ大事という事だろう。

何故、水やりがそこまで大事なのかは聞いていない。


伯父が帰り、風呂から上がるとリビングがかなり広く感じられ、昨日までの実家をつい思い出してしまう。祝いとして買ってもらったテレビでは内閣総辞職の可能性について議員が議論を戦わせている。総辞職をすれば、もう一度選挙をし、その分税金が大量に投入され、ただでさえ財源不足であるのに総辞職は時期尚早ではないかという意見と、現内閣では将来が見えている、総辞職をし早期解散をしなければという意見の大きく2つの意見に別れている。

正直どちらでも良い。どうでも良いのではない。が、どちらに転んでも前とあまり変わらないのでは?というように思ってしまう。 時計を見ると針が2時を差している。

ーヤバイ!

が、ここはもう実家ではないのだ。急にこれからの生活に解放感と不安感がご茶混ぜになって押し寄せてきた。


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