夢の連鎖 1.シエナの場合
強い風が吹いた。
シエナは身を低く保ち、手綱を握り締めてやり過ごした。長い空色の髪が靡いて、耳飾りがチリチリ鳴る。背に乗せている主人の意を汲んでか、それとも自然の摂理か、クルルカはその風をうまく利用して気流に乗った。空に点在する浮島の間を縫うようにクルルカを操る、この時間がシエナは好きだった。
ヒュウヒュウと耳元で風が鳴る、心が逸る。もっと遠くへ、果てしなく遠くへ行ける気がする。
「おい、シエナ! この馬鹿娘!」
後方から男の怒鳴り声が聞こえた。
「いつまでも遊んでんじゃねえぞ!」
「分かってるってば、レイズン!」
シエナも負けじと怒鳴り返した。獲物はすでに見つけている。シエナの目の良さは村一番を誇る。
「サドン島の陰にワッパの群れを発見! いくわよ!」
目指す浮島の位置を確認すると、クルルカの手綱を右に引いて体重を傾けた。クルルカは得たりとばかりに羽を止めて、急旋回する。全体重をかけている鐙に力を入れつつ、鞍に付けていたドンキを素早く取り出した。レイズンもシエナに倣う。
風下にいる為、ワッパの群れはまだシエナたちに気が付かない。風が止んだタイミングを逃さずに、シエナは勢いよく回していたドンキをワッパの群れめがけて放った。
ワッパたちは慌て騒ぎだしたが、時すでに遅し、次々と繰り出されるドンキにぶち当たり一羽、二羽と悲しげな悲鳴を上げながら地上へ落ちていった。
「こりゃしばらく狩りに出なくていいな」
草原に転がるワッパを器用に束ねながら、レイズンが嬉しそうに言った。レイズンが嬉しいとシエナも嬉しい。でもそれを正直に出すのは、なんだか気恥かしい。回収したドンキを鞍に取り付けた革袋に入れ終えて、大人しくうずくまっているクルルカの首に唇をそっと当てる。ひんやりとした子竜独特の鱗の感触がした。
「お前もよくがんばったね」
キュウルルー、とクルルカが甘えた声を出す。本当はレイズンの首にもこういうことをしてみたいのだけど。したらとても気持ちが良いと思うのだけど。そう思うだけで顔が熱くなる。何でだろう、最近までちっともこんなんじゃなかったのに。狩りはともかく、どんな話をしたらいいのか話題にも困る。
――ああ、そうだ。今朝見た夢の話をしよう。わたしは全然違う少女になっていて、奥深い山道を歩いていた。楽しそうに夢の話を姉にして、その先についた山小屋にいた男の人にもした。その人は私たちの持ってきた草を調合して見たことのないような、美しい色の雲を作った。あれはなんという葉なんだろう。レイズンなら薬草にも詳しいから分かるかな?
「おーい、シエナ。いつまでそうやっている気なんだ。帰るぞー」
当の本人の呑気な声が聞こえる。シエナは慌てて返事をして、クルルカにまたがった。
草原は静かに風の歌を歌っている。