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異世界恋愛系 作品いろいろ

私が愛し信じるものを彼は理解できないようです……。~ならどうして婚約したの? といった感じです~

作者: 四季
掲載日:2026/07/12

 両親が営む薬草の店で働いている私ディアナには婚約者がいる。


 彼の名はアンデミス。

 三つ年上で艶やかな金髪が印象的な人物だ。


 見た目は悪くない人なのだが、正確には少々難がある――というのも、私が薬草を扱う店で働いていることを良く思っていないのだ。


 彼は元より『薬草を扱うなど悪しき魔女のすること』と考えていて、それゆえ、私がそういった店の店主の娘でありそこで働いていることをマイナスな方向に受け止めている。


 私がそういう店の娘であることは初めから分かっていたのだから、それが嫌なのなら最初から関係を作らなければ良かったのに、そもそも婚約しなければ良かったのに……とは思うのだけれど。


「ディアナちゃん、いつもの、頼むねぇ」

「はい!」

「今日も元気そうだねえ」

「おばさんこそ! 肌のつやがとても良いですよ!」

「あっはははぁ、そうだねぇ。ここのお茶がいいからだよ。毎日飲んでいるからねぇ、元気になれているんだよ」


 アンデミスとの関係は何とも言えないものだ。それゆえモヤモヤは少なくない。たびたび嫌みを言われたり、私が大切にしている仕事を否定されたり。そんなことをされながら婚約者同士という関係を続けていると、どうしても、時に複雑な心の状態になってしまうのだ。


 けれど、だからといって、落ち込んでじっとしているつもりはない。


 批判的な人に心を支配されるのは嫌だ。

 だから前を向く。

 たとえ心が重い日があったとしても。

 友好的な目を向けてくれる人もいるのだから、私は、そういう人たちのために日々を生きていきたい。


「お待たせしました! こちらになります」

「間違いなさそうだねぇ」

「いつもありがとうございます!」

「それはねぇ、もう、こちらこそだよ」


 ――そんなある日のこと。


「やぁ、ディアナ」


 アンデミスが突然店へやって来た。


「あ……アンデミスさん、珍しいですね、ここに来られるなんて」


 この場所で彼を目にするなんてかなり珍しいことだ。


 なんせ彼はこの店のことを良く思っていないから。


「こんな店、可能であれば来たくはない」

「ええっ……」

「だが伝えなければならないことがあったので来てやったのだ」

「用事でしたか」

「ああ」


 少し間があって。


「お前との婚約だが、破棄とすることとした」


 彼ははっきりと告げてきた。


「薬草を扱う仕事をまだ続けているお前とはこれ以上付き合えない」

「そうですか……」

「分かったか? そういうことだ。ではな。俺はこれ以上穢れを移されたくない、だからお前とは縁を切るのだ」


 こうして、アンデミスとの婚約はいきなり破棄となったのだった。


 理不尽というか何というか……。


 いや、でも、よくよく考えてみればこれは悪い展開ではない。


 むしろ圧倒的な解放。


 これで私は自分の道を自分で選ぶことができる。


 つまりこれは自由への旅立ちなのだ。



 ◆



 ――あれから数年。


 私は今、国内で最も有名な薬草店の店主として、忙しく働いている。


「あの話だぜぇ」

「ご予約の方ですね!」

「ああそうだぁ」

「冒険者さんだとお聞きしました」

「がはは。そうなんだぁ。健康維持にめっちゃくっちゃぁ役に立ってんだよぉ、ここの薬草」

「それは良かったです」

「じゃあまた今回もよろしくなぁ」


 私は薬草店の店主として成功した。

 それゆえ今は充実した日々のただなかに在る。


「次の方、どうぞ!」

「はぁーい」

「ご予約の方ですか?」

「そうですぅー。先月くらいにぃ、予約してぇー」

「確認しますね」

「ありがとうございまぁーす」


 一方、元婚約者であるアンデミスはというと、あの後少しして四肢に影響が及ぶ奇病にかかってしまったそうだ。

 それで家の近くの病院に行って治療を受けようとしたそうなのだが、医師から「薬草の力を利用しましょう」と言われると「俺の身を穢すな!」と断固距離、その結果「ではここでは治療はできません」と言われてしまったらしい。


 アンデミスはその後別の病院に転院し治療を受けることにしたそう。

 だがそこの医師は典型的なやぶ医者で。

 怪しい薬を大量に投与され、それによってアンデミスは体調を崩し、やがて落命してしまったそうだ。


 亡くなる直前はほぼ人体実験のような状態になってしまっていたらしい。


 そんな感じで、彼は孤独にこの世から去ることとなった。


「ご予約確認できました、腰痛の症状の方ですね」

「そうなんですよぉー」

「腰痛に効く薬草を幾つか用意しますね」

「お願いしますぅー。いやいや、もう、本当に酷くってぇー。毎日大変なんですよぉー……治るといいなぁ」


 かつて、私の信じる道を否定した彼は、呆気なくこの世界から消えた。


 ……まぁべつにもう無関係なのでどうでもいいのだけれど。


「ご用意しました! どれにしましょうか」

「うわぁー……すっごぉい……! 色々あるぅ……! 木の実みたいなのもあるんですねぇ」

「そちらはちょっと苦いです」

「あ、じゃあ、それはやめときます」

「苦みが苦手ですか?」

「そうなんですよぉー」

「ではこちらが良いのではないでしょうか。苦みはなく、優しい味、です」

「じゃ、それで! お願いしまぁーす」


 私はこれからもこの道を歩んでゆく。


「治ったらまた連絡しまぁーす」

「お大事に」

「はいはぁーい、ありがとうございまぁーす。飲むの楽しみすぎるぅーっ」


 決して迷わない。



 ◆



 私が経営している大人気薬草店は大規模なものとなった。

 あれから十年以上経っただろうか。

 なんだかんだ時間はかかったけれど、業績は着実に伸び、その規模は今も年々大きくなっていっている。


 でも、一番大事なことは、思いやり。


 目の前の人に幸せになってほしい。

 目の前の人に笑って暮らしてほしい。


 そこだけは、どんなことがあっても変わらない。


 ちなみに私はというと、昨年ついに結婚した。


 仕事が忙しいので結婚するつもりはなかったのだけれど。意外な場所で出会いがあって。信頼できる関係を築けている、そう思えたので、夫婦という特別な関係へと一つ先へ歩み出すことを選んだ。


 今は彼にも色々なところで支えてもらっている。


 仕事面でも。

 私生活でも。


 彼が隣にいてくれているからこそ、こんなにも理想的な現在があるのだ。



◆終わり◆

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