九話 奥の手は委ねられてるし
「はぁ、はぁ、ははっ、やるじゃんか後輩」
息も絶え絶えに砂浜に倒れ伏すノレンが由美を褒める。
「ふぅ、ふぅ、そ、そっちこそ、マジリスペクトだわ、先輩っ」
こちらも奥の手の反動で疲労困憊となりつつも、ノレンを認める由美。
「てか、最初から、使えよな、その技」
「先輩こそ、まだなんか、か、隠してるっしょ」
「バレてた、かあ」
由美の指摘に、ノレンはにやりと笑う。ノレンの奥の手、ぶっちゃけこれを使うと始末書どころじゃすまなくなるので使えないだけなのだが、それだけの代物を今回の事案に持ってきていたということは、まぁマズくなったら使う気だったのだろう。
然して、最悪は起こって欲しくない時に起きるものである。
海がうねり、何者かの接近を知らせる。それはどんどん形を大きく変え、20mほどの大きさになって疲労困憊の二人の前に現れた。
「あー、クソ、マジクソ。第三形態とかありかよ。後輩逃げれる?」
悪態を付きつつ、ノレンが起きあがり由美に声をかける。
「ぶっちゃけ立って歩くぐらいしかできない。先輩は?」
砂を握りしめつつ、恨めしい顔をしながら由美は対象を見上げる。
「舐めんな。まだピンピンしてるわ。さっさとコイツの徒歩圏内から出とけ。あとはオレがケツ拭いてやるよ」
そう口でまくしたてるノレンだが、その顔に余裕はない。
相手の顔に、意志は感じられない。しかし歩みは止まらない。このままいけば三時間後には都心部に入り、ただ歩くだけで人、建物等に甚大な被害が出るだろう。
正一郎は過去一で思考を巡らせていた。住民避難、迎撃要請、どれも圧倒的に時間が足りない。急に降って湧いた災害を一人で対処している気分になる。シ〇シティじゃねぇんだぞと悪態を付きたくもなった。脳に栄養が足りない。アイデアが足りない。知識が足りない。何か自分にできること。過去に経験した何かが生かせないか。これがファンタジーの世界なら都合よく勇者でも来るものなのに……
勇者、勇者?そういえば勇者のような恰好の人物が、一人いたな。魔王を許さぬ絶対正義を振りかざすものが。もしあれが、魔王をサーチする何らかの魔法を行使できるとしたら?これは賭けだし来たところで本当にアレを倒すだけの力があるかもわからない。何よりこちらがbetしない賭けなど賭けと言えるのか?しかし時間は刻々と迫っている。やるしかない。
由美が安全圏にたどり着いたことを確認したノレンは、自身の奥の手を取り出す。かつて地方県警が暴力団から押収したというものを、悪友経由で取り寄せた50口径の化け物拳銃、デザートイーグルである。ぶっちゃけ使ってしまえば始末書どころか非力なノレンの肩が外れるため出来れば使いたくなかった代物であるが、こうなってしまった以上使うほかない。もっとも、ノレン自身は肩が外れようとも連射してダメージを与え、軌道をそらすことでもできれば御の字程度に考えていた。
「よし、プラスに考えるか。このおもちゃを連射できるまたとないチャンスなんだから楽しんだもん勝ちだよな」
覚悟を決めたノレンが一発目くらい狙い通りを通してやろうとデカブツの頭を狙ったその時、後ろから叫び声が聞こえた。
「魔王がでたぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
驚いたノレンが後ろを振り向くよりも早く、デカブツの体に何かがぶつかり、デカブツが浮いた。
「魔王は、狩るっ」
勇者は現れた。デカブツが地面に着くよりも早く、斬撃が複数回デカブツの体を切り裂いた。しかしまだ核まで届いていないようで、デカブツの動きは緩慢ではあるものの完全に封じ込めてはいない。それは勇者も承知しているようで、一度デカブツから距離を取って剣を構えなおす。
「屠れ、軍神」
勇者が何事かをつぶやいた瞬間、勇者の体はデカブツの後方に位置し、デカブツは一瞬でバラバラに切り刻まれた。
「ノレン!宝来さん!大丈夫か!」
デカブツが倒されてからややあって、正一郎がやってきた。
「おせえよバ課長。重役出勤か?」
ノレンの悪態にホッとしながらも、その手に握られている新しい銃に正一郎は目を奪われた。
「おま、これ、デザートイーグル、なん、は?」
新たな始末書案件の発見である。
「あ、やべ」
ノレンは慌てて懐にデザートイーグルをしまった。が、全て後の祭りである。
「み、皆川くん、あれ、あれって……」
正一郎がノレンの飛んでも不始末を糾弾しようとしたところで由美が戻ってきた。由美の指さす先には、勇者(仮称)が一人立っている。
「アイツ、アイツ!」
興奮とも畏怖とも取れぬような声で、由美が声を荒げる。
「なんか魔王が許せない人らしい。だから今回も魔王がいるって叫んだら一瞬で来てくれてな?」
それで助けてくれたんだと正一郎が言おうとしたその言葉を遮るように、由美が叫ぶ。
「アイツが!魔王だよ!」




