七話 仲間は未だ集まり切らないし
「はい、という訳でウチの嘱託職員第一号になってくれました、宝来由美さんです」
「が、がんばります!」
あの後すぐ嘱託員になれるという訳でもなく、必要な書類とか手続きとか上司へのお伺いとかいろいろあったので、牛丼屋でのプロポーズ事件から三日たった。
「おう、オレは課長の愛人二号、押野ノレンだ、よろしうぶぇ」
早速新人を騙し始めたノレンの脳天にグーを落とす正一郎。
「早々に嘘を重ねるな馬鹿」
「あ、愛人?しかも二号?あのプロポーズは嘘だったん?」
そして騙された新人こと由美はなんか出してはいけないオーラを出している。ちょっと中学時代の幻影も見える。
「欲しかったのは事実だよ。これからもよろしくな」
プロポーズなどとかけらも思っていなかった正一郎は、脳みそをフル回転させて今自分に起こりそうな危機を回避する。
「はい……!一生懸命頑張ります!」
どうやら危機は去ったようだ。逆に由美はあまりにもちょろすぎる気がする。もっと危機感を持った方がいい、と正一郎は思うのだが、精神年齢が14から変わっていない人間にそれを期待するのはあまりにも酷というものであろう。
「っはー、俺にも正式な後輩かぁ。感慨深いねぇ。これまでの後輩は全員上司になったからなぁ」
しみじみとノレンが茶をすする。その気持ちも分からないでもないと正一郎も頷いた。ちょっと暇だったからという理由でトロイの木馬作って署内のパソコンに感染させたため左遷された正一郎が全面的に悪いのだが。
「そ、それで、これからどういった活動をしていくん?悪い奴ら全員ぶっ飛ばせばいい感じ?」
少し落ち着いてきたあたりで、由美が質問を正一郎に投げかけた。発想が物騒である。
「それもするが、基本的には嘱託員のスカウトだな。このままだとこの部署内で休みも取れない。宝来さん、なんか伝手とかあったりする?」
事件に休みがない以上、部署ごと休み、なんてことは出来ない。仕事が回るように課の中でも何班か分けて、シフトを組みたいのが課長としての本音だ。
「伝手、うーん、ウチ基本的にソロで相手ぶっ潰してたからなぁ」
額に指を置き、うんうん唸る由美。
「あ、この前とっ捕まえた電気マンは?」
ノレンが先日保護した電気使いの転生者を推薦するも、正一郎にすぐ却下される。
「なんかブレイキング何とかって配信チャンネル見てから、動画配信者になるって言って別の夢見つけてたから勧誘しても袖にされたよ」
楽しくないのは環境のせいだった!と、転生者を集めてガチンコバトルする配信を始めるらしい。その伝手をこちらにも回してくれれば楽になるのにと正一郎は思ったが、そんな血の気の多い奴らの中から嘱託に回りたいと言ってくれる人間は果たしているのだろうか、という根本的な疑念にぶち当たってから考えるのをやめた。
「んじゃアレは?勇者っぽい奴」
さらにノレンは先日電気使いの転生者捕縛に一役買ってくれた勇者のような存在に言及する。
「まぁ、正義感はありそうだが、如何せん捕縛した人間に剣を向けるのはちょっとなぁ……」
正一郎はまたも難色を示す。得体が知れない以上慎重にならざるを得ないというのが正直な見解であるからだ。
「ま、まあ、最初の内はウチらで対処すればいいと思うよ?転生者なんて不眠不休で七日は戦える体力してるから」
などと仰るのは由美の談。しかし嘱託の人間にそんな無茶な指示は与えられないのが正一郎である。
「対処、って言っても、不定期に起こる転生者事案を解決する部署だからなぁ。現にこの三日間は暇だったわけだし、連絡だけ取れるようにしてもらって宝来さんは週五日出社してくれればいいよ」
その三日を過ぎても未だ始末書が残っているノレンの図太さには呆れを通り越して関心すらしている正一郎であるが、同級生並びに嘱託職員という立場の由美には強く出れないのが現状だ。
「い、いやいや、ウチも頑張るから!ちゃんと役に立つから!」
語尾に”だから捨てないで”と付きそうな勢いで懇願する由美に、どうしたものかと思案する正一郎の耳に、外線が入る。
『荒浜にてマルテンと思しき事案発生。当該部署は至急応援に向かってください』
荒浜、ここから車で大体3~40分はかかる地域である。流石に自転車で行くのは厳しいと判断し、パトカーへ乗り込んだ一行は、ノレン運転の元、法定速度ガン無視で乗り込んでいくのであった。




