五話 本人は悪気ないし
「んで、戻って早々何パソコン弄ってんだ?暇なのか?」
ロイヤルミルクティーをちゅるちゅる吸いながら、ノレンが正一郎に突っかかる。始末書は一枚も減っていないあたりこいつさぼってたなと思いながらも、正一郎は真面目に答える。
「馬鹿、業務の範囲内だ。異世界騒ぎがある以前の失踪者当たってんだよ」
主に14年前の失踪者を重点的に調べた。もし予感が当たっていれば、この失踪者リストの中に名前があるはずと踏んだのだが……宝来由美の名前は何処にも乗っていなかった。
「思い過ごし……いや、見過ごしがあるのか?」
純一郎は悪い事とも思わずハッキングを開始した。対象は市役所のデータベース。苗字が特殊なためすぐ宝来由美の周辺情報がスラスラ出てくる。
「んー、14年前に転校したのなら住所が変わっていたとしてもおかしくないのに、家族はまだあの家に住んでいるな。本人の転居歴もなし、じゃあ少年院か?」
次は警察のデータベースに手を付ける。少年院から宝来由美の情報はでた、が
「最終入院歴が15年前?じゃあ14年の秋からの情報と一致しないな……」
純一郎の中で何かの歯車がかみ合いそうなところでノレンが茶々を入れる。
「さっきからなんか物騒なことやってない?オレやだよお前のとばっちり食らうの」
見れば時刻はもう朝の六時に差し掛かっており、なんやかんやで貫徹してしまったなぁと正一郎は伸びをした。
「そんなへましねぇよ。俺は一市民の困りごとを解決してやろうとしてんの」
軽口をたたき合いながらも正一郎は情報を整理する。失踪届は出ていない。何処かに言った形跡もない、中卒で仕事をし始めた?そんなことをさせるようなとこがあれば摘発されて保護の形で警察に履歴が残るはず。何を見逃しているのか正一郎が悩んでいると。
「あーね、久々に会った奴が転生者なんじゃないか疑ってんだ」
ノレンが再度声をかけてきた。当たりなので黙ってうなずく。
「俺も悪い友達がいっぱいいるからわかるけどよぉ、失踪届が出されないパターンってのもあるぜ?例えば密入国して国籍がないとか、身寄りがないから失踪届を出す奴がいないとか」
的外れだ、と正一郎は思った。少なくとも宝来は日本国民だし、両親も健在だとツッコミを入れようとした時
「……親がそもそも失踪とすら思っていない時、とか」
正一郎の頭が跳ねるように動いた。なるほど、あれほどの不良ともあれば余り両親ともうまくいっていないこともあるだろう。家を数日、数か月単位で開けることもあるだろう。その間、家の中には平穏が訪れる。つまり戻ってこられる方がマズいのだ。親なんだから心配するのが当たり前という、世の中の前提条件に正一郎は引っ張られ過ぎてしまっていた。親である前に人間なのだ。いないほうがマシということも頭に入れておかなければいけなかった。
「はぁ、これは児童相談所の案件だろ」
そもそもこれはすべて仮定の話でしかない、実際の顛末は全く違うこともあるだろう。更に言えば宝来はもう成人している。しかしこれは一人の子供の失踪事件の顛末の可能性があるのなら、一人の大人となった今、やれることはやっておきたいと正一郎は腹に力を入れなおす。
そんな折、一通のメッセージが届く。宝来からだ。曰く”今から会えない?”とのこと。
「……マルテンと思しき人間からの接触メッセージだ。行ってくる」
「マジ?じゃあ俺も行くわ!」
ワキワキと拳銃をバラして整備していたノレンが素早く拳銃を組み立てるがそれを正一郎は制した。
「お前まだ始末書書き終わってねぇだろ。書ききったら来い。場所は―――――」




