四十五話 内情を知るには現地調査が必須だし
寒風吹きすさぶ栗原氏の一角に、聖網教の宮城県支部はあった。雪道にがたつく道路を、正一郎の車は突き進む。
今回は教会の実体を調査するという名目から依頼を受けた麗、何かあった時に対処できるようの太陽、ハッタリで全てを支配する女ノレン、運転手の正一郎という布陣で向かっている。
「ここが例の金づるか」
目的地に到着するなり、身も蓋もない言い方をするノレンを糾弾する人間はここにはいない。何故なら全員何かしらの手柄並びに報酬を期待しているからだ。
「いいか、今回はあくまでも実情の把握だ。前回みたいなへまはしない。ノレン、お前の交渉術を主体に組み立てていくからそのつもりでよろしくな」
「任せとけ、一週間あればここの実権すら握れるぜ」
頼もしすぎるノレンの言葉に若干の不安を覚えつつも、正一郎たちは聖網教の入り口から堂々と侵入した。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
やたら小奇麗なエントランスの受付に、あくまでおずおずと、まるで自信がないようにノレンは近づいた。
「あの、入信ってどのようにすればよろしいんでしょうか。私自分を変えたくて、友達に付いてきてもらってここに来たんですけど……」
普段の様子から一変し、まるで捨てられた子猫のような顔をしながらノレンが訴える。受付はノレンを心配する様子を見せ、カウンターから身を乗り出してノレンに寄り添う。
「それはそれは、これまで苦労されたのでしょう。もう大丈夫ですよ。生憎教祖様は本日不在ですが、一週間後にはこちらに来ていただけますので、ご心配なさらず。この世の不安や心の辛さから解放されますよ。それまでの辛抱です」
受付の法要にヨヨヨとしな垂れかかるノレンの目は、(これから潜入するか対策よろしく)と言っているようであった。
「では、彼女のことは頼みました。あとは俺たちはこの辺で」
正一郎は他の面々を連れて引き下がろうと踵を返す。しかしここに留まり続ける女がもう一人
「あなた、今田光利って人入会してる?合わせて欲しい」
元の依頼を完遂すべく、情報を収集する麗であった。いきなりの言葉に正一郎や受付含めその場の全員が面食らったが、しかし受付は柔和な笑みを崩さず答える。
「ええ、彼は新人深き信徒です。今では一日も欠かさずお祈りをしていますし、今も教団の内部にある祭壇に手を合わせている頃だと思われます」
「会える?」
麗の進撃は止められない。ずずいと前に出た麗に、受付の笑顔が引きつった。
「申し訳ありません、部外者の人間を教団の中へ入れることはできないんです。あなたが信徒になるというのであれば、話は別なのですがね」
どうやら、どうしても入れたくない事情があるようである。ここで踏み込んでも大した情報は得られないだろう。
「そう。わかった。無理言ってごめんなさい」
もっと引き下がるのかと思いきや、意外にも従順に指示に従う麗。何か意図があるのかと正一郎が訝しんでいるうちにも、麗はずんずんと出口の方へ進んでいった。慌てて後を追う正一郎と太陽。
こうして、ノレンを教団に残したまま一行は転生者対策課に引き返すこととなった。
「正直、正攻法では勝ち目がないと思います」
今回唯一同行した転生者の太陽が、帰りの車内でそう零す。
「根拠は?」
恐らく同じことを考えている麗が、答え合わせをしたいがために太陽へ追及した。太陽は少し考えてから、己の中で感じたことを口にする。
「相手は恐らく催眠系の転生者でしょう。前の世界では対策としてそれを防ぐ術がいくつかあったのですが、でもこの世界にそういうものはありません。せめて技術に特化した転生者と接点があればまだ勝負の土台に載れるのですが……」
太陽の言葉に、麗は深くうなずく。概ね考えていたことと合致したのだろう。
「じゃあどうする?このままだとノレンも変な宗教に傾倒しかねないぞ」
正一郎の懸念ももっともである。いくら信用ならない相手とは言え、ノレンはれっきとした警察官である。そんな彼女がいいように扱われてしまったら、更に言えばあの弁論技術が警察署内で存分に発揮されれば、きっと宮城県警内はあの宗教に乗っ取られてしまうだろう。それはまずい、非常にまずい。
「あ、私一つ心当たりある。今から行く?」
正一郎がハンドルを握りながら苦悩していると、麗から助け船が出た。これは乗らない手はないと、正一郎は行先を変更し、麗の指示した場所へ車を走らせるのであった。




