四十三話 他人の金で喰う肉ほどうまいもんはないし
結果として、正一郎は酒田との直接的な交渉がほぼ永久的に潰えることとなった。なんせ相手が転生者の組織に属していたことが分かったからだ。しかし酒田は魔王という言葉に激しく反応し、そしてこちらに友好的なことがわかっている。ならば有用な運用方法というものもあるというものだ。
落としどころはここらへんでいいだろうと一息ついた正一郎は肩を落とし、現実に目を向ける。
「おい!オレの育てた肉だぞ!テメェドタマカチ割られる覚悟あるんだろうなぁ!」
「残念!私はそういうの気にしないタチなんだ!悔しかったらまた一から肉を焼くんだね!」
「なんかここ異様に煙くない?ウチそういうのめっちゃ気にしちゃうんだけど」
「おかわりお願いします!あとビールもお願いします!」
目の前では正一郎行きつけの焼き肉屋で宴会が開かれていた。正一郎の金で。
確かに正一郎の油断から全員を危険にさらしたかもしれない。だが回復魔法でノレンの傷も塞がったことだし、ここまでする必要はないんじゃないかと正一郎は思う。
しかし人間の感情はそんなに簡単に割り切れないものである。回復したとはいえ痛みの記憶は消えない。それはノレンも、更に言えばノレン以上に傷ついた太陽も同じである。
「てか正一郎よぉ、オレの体に傷跡が残らなくてよかったな。もし少しでも残ってたら責任取ってもらってたとこだぜ?」
「せ、せせせ責任!?!?」
ノレンの爆弾発言に、由美が思わず立ち上がった。また由美の心をもてあそんで……と正一郎がどう言い訳しようか考えていた時、更にブッ込む者が現れる。
「え?皆川お前独身なの?じゃあ私貰っちゃおうか?籍」
雲類鷲 麗である。
「あば、あばばばばぁぁぁ!!!!」
耐えきれないNTR、いやこの場合はBSSであろうか、ともかくとんでもない負荷が由美の脳にかかり、オーバーヒートしてぶっ倒れた。
「おっ、モテモテですね正一郎さん!僕も異世界ではモテたんですよ!転生者様転生者様と崇められて、美女もより取り見取りで……」
正一郎を囃し立てるかと思いきや、自身の過去を振り返り、どんどん沈んでいく太陽。
「……最終的に、何故か分からないんですけど全員僕の事”見た目だけの飾り”とか”見てくれだけの張りぼて”とか言って捨てたんですけどね……」
沈んだ勢いそのままに、ビール瓶を一気飲みして同じく倒れた太陽。正一郎たちは掛ける言葉が見つからなかった。なんとなく想像できちゃったからである。
「さて、転生者組は沈んだ。ここからは大人の会話と行こうぜ」
一応転生者組も全員成人しているのだが、如何せん精神的に幼いところがあるとノレンは思っていたようで、神妙な面持ちで二人と話を進める。
「ぶっちゃけお前ら、あのよくわからん会社のことどう思う」
ノレンの話したいことは、Reincarnated Person Company、即ち転生者の会社のことである。確かに下手な方向に話が進めば由美はともかく太陽は傾きそうだなと正一郎は思い、ノレンの話に乗っかった。
「そうさな、転生者が徒党を組んでいるのは由々しき事態だが、相手の実体がつかめない以上こっちから手を出すには厄ネタ過ぎるだろ」
これが、正一郎の率直な感想であった。今の転生者対策課の面々では手を出すのは余りにも得体が知れなさすぎる。今回の一件で転生者が三人だけだったからよかったものの、それ以上の戦力がいることは酒田が所属している時点で明らかな上に相手の全戦力が分かっていない現時点で攻め込むのは余りにもリスクが高すぎるのだ。
「ああ、それなら私が独自に調べてみようか?デジタルは強そうだけど、案外原始的な捜査には弱いかもよ?」
探偵の勘なのか、はたまた今回の尾行で何か感づいているのかは不明だが、麗が胸を張って提案する。
「いや、業務提携している人に、俺はそこまでの責任を負わせらんねぇよ。最悪アンタ一人で三人以上の転生者を相手取らないといけなくなるんだぞ?」
正一郎は冷静に麗の案を却下する。むぅと不貞腐れた麗を尻目に、今度はノレンが名乗りを上げる。
「じゃあやっぱ、オレの言いくるめ力が火を噴く時だな!見とけよ?オレの口にかかれば酒田なんざ赤子の手をひねるようなもんだぜ!」
ノレンも酒で気が大きくなったのか、大言壮語を並べ立てる。いや、ノレンなら実際にやりかねない凄みもあるのだが、正一郎は懸念点が一つ。
「ノレン、お前痛みで蹲ってたから気が付いていなかったかもしれんがな、話の通じる奴もいたが、武力だけが正義みたいなのもいたぞ。その手の輩を乗せられるか?」
そう真剣な目で自身を見る正一郎に、ノレンは酒をグイッと煽ってから考え始めた。
「……殴り勝てるんなら、ありかもしれねぇけどなぁ、面倒なんだよなぁ……」
さしものノレンでも、戦闘バカに対抗する手段は持っていないようだ。そうしてこの話は終わりだとばかりに正一郎は二界手を叩き、酒の席をお開きにしようとする。
「さ、お前らも十分飲んだろ。今日はお開きだ。明日も仕事だぞ?」
「げー、オレその言葉嫌い」
「私はフリーの探偵さんだから、まだまだ飲めるもんね。二軒目行く人ー!」
正一郎は後はもういいかと今まで食べた分の会計に向かい、この店屈指の高級肉をこれでもかと食らった面々に恨み言を頭の中で呟くと淡々と支払いをした。




