四十二話 凡人は凡人なりにやれることがあるし
「俺たちのことを狙ったのはまぁ分かる。あの会社、Reincarnated Person Companyの直訳が転生者の会社だからな。そして俺には、別にこの状況から覆せる一手があるわけでもない」
正一郎が取った手は、己の手札の開示であった。いきなりの情報に、ダンクは訝しがる。
「解せませんね。この場において己の手の内を開示していて、そのくせ命乞いをする顔にも見えない。何が目的ですか?」
当然の疑問を投げかけてきたダンクに、正一郎は肩を竦めて当たり前のようにこう答えた。
「簡単な話だ。アンタらはこの一件から手を引いたほうが得だぞ?」
「それこそ理解できない。この状況を覆せる手がないのは、アナタが口にしたばかりではないですか」
相手の心理が理解できないダンクに、正一郎は言葉を紡ぐ。
「俺のパソコンが逆ハックされた時点でデジタルに強い奴がいるのは分かってる。だがこの情報がこの場にいる奴だけに共有されてると思ってるのか?」
正一郎はおもむろに自らのカバンを開きパソコンを取り出す。
「ここにあるパソコンの逆探知の痕跡は、既に別の場所にあるパソコンに転送してある。もちろんいろんな国のサーバーを介して足取りはつかめないようにしているぜ?ここで手を引けば、これ以上アンタらを詮索するのはよしておこう」
だが、と一言置いてから、正一郎は話しを続けた。
「よしんばここで誰か一人でも息の根を止めてみろ、情報は全世界に発信される。いくら戦力に自信があっても、世界が相手なら無理が出てくるよな。この世の全てを敵に回す覚悟があるなら、このまま戦いを続けるといい」
ダンクは少し考え、やがて結論を出そうと口を開いた。しかしそれを遮るように正一郎は再びしゃべりだす。
「おっと、無駄なブラフはやめておいた方がいい。アンタだろ、逆探知のプログラム組んだの。同業者の匂いだ、分からない訳がねぇ」
丁度その時、太陽がイヴを連れてこちらに飛来し、由美もゴライアスを打ち倒した。太陽は戻ってきた勢いそのままにノレンへ回復魔法をかけ始め、由美はダンクと正一郎たちの間に割って入った。
「形勢は逆転したな。だが俺はあえて交渉の道を行く。撤退か、徹底抗戦か。どっちか選べ。提示した以上、こっちから仕掛けることはもうしない」
もはやこれまでと悟ったダンクは一歩身を引き、イヴとゴライアスを担ぎ上げた。細身とはいえやはり転生者としての膂力は一般人のそれを凌駕しているのかと驚く正一郎に、ダンクは背を向けながらも言葉をかける。
「今後はこういった形で会わないことを望みますよ」
それだけ言うと、ダンクは歩いて帰っていった。途中起き上ったノレンが慌ててダンクに銃口を向けるが、それを正一郎は手で制した。
「もう終わったんだ。庇ってくれて感謝するよノレン」
正一郎からの素直な言葉に複雑な顔を浮かべながらも、ノレンは銃口を降ろし、髪が乱れるのも構わず頭を掻きむしった。
「あーもう!……これで貸し借り無しだからな」
こうして酒田の住所が詳しくわからないまま、そして謎の集団の正体がつかめないまま事件は終幕を迎えた。




