三十九話 合わせたくない人ほど何故か会うものだし
「超スピード?それとも瞬間移動?いずれにせよ想定外」
酒田の備考失敗後、正一郎たちは合流し近くのカフェで落ち合った。紅茶をすすりながらぼやく麗を見てから、ノレンが信じられないような顔で正一郎を睨んだ。
「おま、情報売るだけじゃ飽き足らずまだこの女と関係続けてたのかよ……!」
「人聞きの悪い。業務提携と言ってくれ」
ノレンの言葉に反応した由美から不穏な空気が漂ってきたので、即座に訂正する正一郎。そのままコーヒーに口をつけ、今後の展開を考える。また尾行を麗に頼んでもいいが、また今日のようなことがあれば徒労に終わる可能性が高い。
「まぁいいさ。コイツが有能かどうかはさておき、度胸と戦闘面はオレとタメ張れるのは買ってやる。せいぜい利用しあおうや」
「そもそも業務提携はそういう関係」
ノレンが麗に突っかかっているが、正一郎は気にせず思考に入り浸る。職場に聞けば早いかもしれないが、警察が聞きに来たとなれば職場で不穏な空気が流れて酒田が変な気を起こしてしまうかもしれない。
「そ、それで、雲類鷲さんは皆川くんのことどう思ってるの?」
「仕事相手」
由美も麗に何か聞いているが、正一郎はそれどころではないのでまだまだ考える。ノレンに一任してしまえばいずれは家を特定できるかもしれないが、情報の独占が怖い。
ここは自分がやるしかないかと腹を決め、いつも持ち歩いているノートパソコンを立ち上げた。
「何するつもりですか?」
いきなりパソコンを操作し始めた正一郎に太陽が質問する。正一郎は画面から目を離すことなく、悪びれもせずこう答える。
「あの会社にハッキングかけてんだ。なんの会社か知らんが、今時書類だけでデータ管理しているとこなんてないだろうし……よし、出た、が、マジ?」
正一郎のパソコンに表示された酒田のデータは紙をそのままスキャンしたもので、肝心の住所や前歴の部分が黒く塗りつぶされていた。
「情報管理が随分徹底してるな……電話番号に至っては書かれてすらいないし、一体どうやって連絡とり合ってんだこの会社。そもそも何を取り扱ってるんだ?」
ここに来て初めて会社名に注目した正一郎は、改めて勤務先を確認する。どうやらReincarnated Person Companyという海外資本の会社らしい。しかしいくら検索をかけてもそれらしい会社はヒットしない。
「ダミー会社なのかもしれんなこりゃ。じゃあ元をたどらせてもらいますかっと……」
再び正一郎の指がせわしなく動く。会社のネットワークを通じてメールの一件でもと探したが、しかし務めている人間の黒塗りファイルしかこの会社にはデータが存在していないようだ。と、ここで正一郎ははたと気が付いた。そうして自身のパソコンに何者かが侵入した形跡を見つけると急いでパソコンを閉じ、席を立ちながら全員に声をかける。
「すまんお前ら。ここから逃げるぞ」
「皆川くん、逃げるってどうして?というかどこに?」
困惑する由美と太陽、逃げるという言葉に反応して既に席を立った麗とノレン。正一郎は会計に余分な金を叩きつけるように置き、自分の車へ走りながら説明する。
「データが少ない時点で疑うべきだった!あの会社をハッキングした時点でこっちの居場所がバレるように仕組まれてたんだ!」
そう正一郎が言うか言わないかの内に、空から何かが落ちてきた。これを太陽が浮かせることで直撃は免れたが、余りに高速で落ちてきたためさしもの太陽も完全に勢いを殺すことはできず、それは地面に落ちる。
「おぉん?一撃必殺を狙ったんだが、なぶり殺しがお望みか?」
地面から立ち上がるは、身の丈二メートルはあるかと思われる巨漢と、それ以上に巨大な槍。顔立ちからして白人だろうが、その国籍までは今は分からない。ともかく正一郎はこの場から離れようとしたが、ノレンに押される形では倒れた。
「っがぁ!」
直後、ノレンの左肩が何かに貫かれる。急ぎ振り返ると、ビルの上に何者かがいるのが確認できた。
「ほう、イヴの弾丸をも躱すとはやるな。だがこれまでだ」
巨漢が感心したように笑い、その手に持つ槍を振るう。が、これは由美のバットに阻まれた。続いて太陽が宙に舞う。
「皆川くん!ここは私が!」
「僕は狙撃手をやります!正一郎さんはノレンさんと麗さんを連れて逃げてください!」
絶望的な状況に逃げの一手を打つしかないと踏んだ正一郎は、ノレンを肩に担ぎつつ自身の自動車へと走り出す。
「俺らだけかと思ったか?ダンク!」
「……やれやれ、黙っていてくれれば楽な仕事だったんですがねぇ」
巨漢が声を荒げると、車の影からやせぎすの男が出てきた。手には何も持っていないが、恐らくこいつも転生者だろうと正一郎は直感する。
「三人……これはちょっとばかし、マズいかもしれん」
正一郎の口から絶望がこぼれる。しかし、やるしかない。覚悟を決めた正一郎はノレンを地面に降ろし、彼女のカバンから40口径マグナムを取り出す。麗も手にタクティカルバトンを携えた。
「すまんな雲類鷲さん、やれるか」
「依頼はきっちりこなすのが雲類鷲探偵事務所のモットー」
麗もやる気十分のようである。ダンクと呼ばれた男は嘆息し、そうしてこぶしを構える。
「やれやれ、荒事は得意ではないんですがね」
こういっているが、ダンクが引くことはなさそうだ。そうして、三方向で戦いが始まった。




