三十七話 一度しっぽさえ掴めば後は芋づる式だし
正一郎からのメールを受け取った麗は、すぐさま分厚い資料とにらめっこする二人にこう告げる。
「資料と格闘する時間はお終い。ターゲットは見つかった」
「え?もう見つけたの?」
困惑する由美をよそに、いそいそと外に出る支度をする麗。
「相手は酒田代美子。住んでる場所はこれから探すけど、とりあえず問題ない」
いつもの帽子をかぶり準備万端と言わんばかりの麗に、後れを取るまいと太陽と麗は身支度を始める。
「探すってったって、外でどうやって探すんですか?」
「皆川から送られてきたメールには、勤務先が掛かれていた」
外に出る準備を済ませた太陽からの質問にさらりと麗は答え、タクティカルバトン入りの手持ちカバンを腰に下げる。
「なら、後は簡単。退勤まで粘って、そこからターゲットを追跡する」
そう言って麗は事務所の電気を消したので、あわてて二人は外に出ることになった。
「もし、追跡がバレたらどうするの?」
エレベーターの到着を待ちながら、由美が麗に問う。
「そしたらもっと簡単。数日仕事場を張って、来なければ失踪を心配した家族からの依頼を装い会社に接触。家を突き止める」
麗は事も無げにそう言って、エレベーターに乗り込んだ。
「貴方、空を飛べると聞いた。職場付近に付いたら空から追って。貴女、結構強いと聞いた。もしもの時はお願い」
エレベーターの中で太陽と由美に指示を出すと、麗は一目散に最寄りの駅へと向かう。
「ここから大体三十分圏内に仕事場がある。覚悟はいい?」
麗からの真っすぐな視線に、太陽と由美はちょっと待ってくれと思った。そうして疑問は太陽がぶつける。
「あの、一応聞くんですけどこの場の指揮ってアナタが執るんですか?」
「うん。この場で場所を知ってるのは私だけ。皆川と業務提携を取っている以上、私が仕切るのは当然」
ここまで言い切られてしまうと、由美も太陽も何も言えなくなってしまう。無言を肯定ととらえた麗は、歩みを止めることもなく駅に到着した。
転生者対策課は、ドタバタしていた。主にノレンが。
「あークソ!十中八九アイツらに向かわせてんだろ!あの女は色々面倒だから直接会うのは避けてたのに!!」
ニューナンブ、40口径マグナム、ついでのデザートイーグルと、拳銃をより取り見取りカバンに詰め込み、それを背負って外に出る。生憎パトカーと原付は全部出払っており、今使えるのは正一郎の軽自動車だけであった。
「おやおやお嬢さん、向かう脚が必要かな?」
後ろから正一郎がにっこり笑いながら近づいてきたのを見て、ノレンは露骨に舌打ちをする。そしてしばらく考え込んだのち
「……あークソ、マジクソ!分かったよ!車出せ!」
と、吐き捨てるように言った。
「安心しろ、貸しにはしねぇよ」
「うるせぇ!テメェとの貸し借りなんて無しだ無し!」
悪態を付きながらも正一郎の軽自動車に乗り込むノレンは、凄く焦っているように見えた。
「何をそこまで焦ってんだお前、酒田ってそんなにやばいのか?」
同じく車に乗り込みエンジンを掛けながら正一郎がノレンに問う。ノレンは以外にも正直に正一郎へ答えた。
「アイツはな、超が付くほどの人見知りなんだ。同時にパニック障害も併発してるから手に負えない。転生してたことは知ってたが、何がどうしてああなったかは全く分からん。下手に暴発してみろ、荒浜で振るわれたあの火力が誰彼構わず振るわれることになんだぞ」
ここにきて、正一郎も事の重大さに気づいた。確かに接触は慎重になるべきかもしれない。しかし正一郎が麗に頼んだのは住所の特定だけである。それだけで終わればなんともないかもしれないが、万が一に備え正一郎は少しアクセルを強く踏んだ。




