二十九話 これは皆の為にもなるし
「だーかーらー!太陽貸してくれるだけでいいんだっての!」
ノレンの元気な声が、転生者対策課に響く。正一郎は目をつぶり、断固反対の姿勢を見せていた。ノレンの悪だくみから一夜明け、早朝にての出来事である。
「あのな、急にマルテン案件かもとまくし立ててもだ。話を聞く限り迷惑してるのは社員で、それは民事の話だ。建物を占拠してるならともかく、ただ建ったり消えたりするだけのペンションに今のところ害はないから俺らは動けねぇの」
正一郎の話もごもっともである。刑事的な事件が起こってから、初めてマルテン案件と動くことが出来る。しかしノレンはこれくらいの言葉で流されるほどやわな舌をしていない。
「おいおい、これは何もオレ個人の感情で動いているわけじゃあねぇんだぜ?移動できるペンションがあれば、今後オレたちは何処でも安心して過ごせる拠点を出すことが出来るんだ。何もこの部署はマルテンの対処だけで動いちゃいねぇ、人材確保だって立派な業務だろう?」
そう、ノレンはここで『転生者対策課全体の利益』『太陽の時も動いたよな』という二枚のカードを切ったのだ。流石の正一郎もこれには一瞬たじろいだが、すぐに体勢を立て直す。
「そのペンション、今使用者がいるんだろ?その、蒸発した社長さんとやらだ。その社長さんがマルテンなのか、マルテンと関係があるのかは分からんが、そう簡単に手放すとは思えないぞ」
相手は雲隠れしている身、そんな便利な隠れ蓑をそうそう差し出してくれるとは考えにくい。そんな正一郎の言葉を待っていたとばかりにノレンの言いくるめは炸裂した。
「そこでオレだよ。今までの功績、お前昨日パソコンで見ただろ。オレの言葉はどんな人間も動かすことのできる力がある。だから何とでもなるんだ。だが場所ばかりはさしものオレの弁論でもどうにもならねぇ。そこで太陽だ。アイツの空を飛ぶ能力で索敵して貰えば、怪しいペンションの一つや二つ簡単に見つかる。そうなったらオマエ、移動式且つ簡易的、更に転生者という戦闘能力を持った完璧な建物が手に入るんだ。二月も終わったとはいえ、仙台は寒いぜぇ?この倉庫も隙間風が寒いし、夏になったらクーラーのないこの倉庫は地獄と化す。そんなとこに居たくないだろ?オレに任せとけ。な?」
一気に言葉の洪水をワッとかけられた正一郎はその勢いに飲まれ
「あー!分かった!分かったから!もう行ってこい!」
ノレンと太陽に、出動の許可を出した。
「着いたなあ、泉ヶ岳!」
「本当にここに謎のペンションがあるんですか?」
数日後、ノレンと太陽は宮城県の南、泉ヶ岳に来ていた。訝しむ太陽の言うように、なにもノレンは当てずっぽうで泉ヶ岳にたどり着いたわけではない。この数日で彼女なりの情報筋に当たり、色んな可能性を加味した結果、ここだと確証を得たのだ。ちなみにここにたどり着くまでに少なくない額をノレンは投資している。後には引けない状態なのは言うまでもない。
「まぁまぁ、とりあえず偵察よろしく。オレはここらへんで聞き込みするから」
太陽をうまく丸め込み、付近の土産物屋や宿泊施設に聞き込みを開始したノレン。そこで分かったのは、どうやら自分の勘が当たっていることと、自分より先回りして情報を聞いている奴がいるということだ。自分よりも耳の早いそいつは、ノレンより少し幼く、探偵の帽子をかぶっているとのこと。
「アイツ、俺より先に来てやがるのか……!」
ノレンは戦慄した。如何に情報を効率よく集めようとも、雲類鷲が自分よりここに早くたどり着くことは完全に想定外だったからだ。しかし近隣での話から、どうやら雲類鷲が来たのは今日の事。いくら鼻が利くからと言って、転生者の太陽より早く場所を割り出せるはずがない。
だがしかし、万が一の可能性もあるとノレンは腹をくくった。なりふり構ってはいられない、ここからはタイムアタックの時間だと言わんばかりに、近くのスキー場でスノーモービルを半ば強奪の形でレンタルし、雪山へと足を運んだ。




