二十六話 俺らはヒーローなんかじゃないし
気絶した女をパトカーに乗せ、正一郎とノレンは一仕事終えたように壁にもたれかかった。いつ女が目覚めて癇癪を起こしても大丈夫なように、続いて駆けつけた太陽を付き添わせているので本当に一仕事終わったようなものである。
「それにしても、よくオレがピンチって分かったな」
正一郎のコートを握りしめながら、ノレンが正一郎に問いかける。
「まぁ、相手が阿呆で助かったってことだ。ぶっちゃけ海外ハブを複数経由されてたら俺も分かんなかったよ」
正一郎は正直に今回は偶然であると答えた。今日の一件は相手が正一郎の、引いては敵対する相手がネットに疎い事前提で行われていたのが解決の決め手である。もっと狡猾な相手であれば、ノレンは無事で済まなかったであろう。
「ま、今回は貸しにしといてやるよ。そのうち熨斗付けて返してやるからな」
ノレンが笑いながら寄り掛かっていた壁から離れ、正一郎を見る。その目は正式に相棒として、仲間として認めてやるとでも言わんばかりで、正一郎は思わず苦笑した。
「分かった。だけど覚えとけよ?この貸しはかなりデカいからな」
「分かってるよ。この貸しの為ならアンタに抱かれても構わないぜ?」
「よせよ気持ち悪い」
悪態を付きながら二人は笑い合う。そんな中割って入る影が一つあった。
「だ、だ、だだだ抱かれる!?」
誰よりも遅く駆けつけてきた由美である。どうやら由美と戦っていたブライトナイトは、最後の最後、女が気絶するまで残っていたようだ。由美の中で良くない計算式が持ち上がる、いい感じの二人、正一郎のコートを羽織るノレン、抱かれるという言質。つまり二人は……
「わぁぁぁ!!!ウチがいない間にそういうことしたんだぁぁぁ!!!」
半狂乱になった由美が、二人を襲う。幸いにもバットは持っていないが、それでも転生者の拳はそれだけで狂気になりかねない。何とか由美の拳から逃れた正一郎は疲れた脳みそを何とか動かし、現状の打破を狙った。
「誤解だ!!!ノレンが俺のコートを着てるのはその、服が破けてしまったからで」
「服が破けるほどハードなプレイをぉ!?!?!?」
逆効果であった。狂気に飲まれた由美の怒りの矛先は、次にノレンへと向かう。
「ノレンさん!いくら先輩だからって、人の恋路を邪魔する奴はぁぁ……!」
「してない!マジでコイツとはしてないから!」
正一郎を指さすノレンが、器用に由美の連撃を避けつつ叫ぶ。ひとしきり暴れて少し冷静になったのか、由美が息を荒げながら二人に改めて質問する。
「じゃ、じゃあ、何があったんですか。返答によっては、ウチは、ウチは……!」
由美のただならぬ迫力に飲まれた正一郎とノレンは、その場に固まりながらも交互に説明し始めた。
「いや、なんつーか……アレだ!オレがヤバくなった時に、コイツが助けに来てくれてな?」
「そうそうそう!それで、間一髪で犯人を取り押さえることに成功したんだ!」
「そうなんだよ!それでオレの服が破けた理由は、その……あの……」
羞恥心の人一倍強いノレンが言葉に詰まる。由美からの圧は更に高まった。じりじりと近づきつつある由美に気圧され、正一郎はノレンを急かす。
「……ノレン?何だその間は。ビシッと言ってやれ!おい!なぁ!」
「だって、恥ずかしいし……」
「恥ずかしがってる場合かよ!?状況を考えろ!言葉が途切れたら俺たちは死ぬんだぞ!」
切羽詰まった様相の正一郎に対し、異様に恥じらうノレン。しばらく時が止まったかのように静まり返る空間、その静寂を破ったのは由美であった。にっこり笑ってバットを魔法で作り上げ、結構な音と共に地面を割る。
「えーと、とりあえずどっちから死にますか?」
「違う!マジで違う!」
結局、正一郎が凄くがんばって、それはもう一時間ほど頑張って由美の誤解を解いたのであった。




