二十四話 ヒーローは弱きを守るものだし
由美のバットが、ホームレスの作った建物を蹴り壊そうとしていたブライトナイトの右側頭部を捉える。予想外の衝撃にブライトナイトは吹っ飛び、そのまま川に落ちる。
「今のうちに逃げてください!」
「ひ、ひえぇ!」
そう叫ぶ由美に、お礼も言わずホームレスは自分の荷物を集めるのもそこそこに逃げ出した。まぁ、お礼を言われたいわけでもないしと由美は早々にブライトナイトへ向き直る。
「お礼参りだコラ。立てよ銀ピカ、ケリつけてやる」
何も言わず川から起き上がるブライトナイトを睨みつけ、由美は首をゴキリと回し、両手に持つ二本のバットを握りしめた。自分の裸を見て、気絶させ、あまつさえ何度も踏みつけてきたブライトナイトに、由美はしっかりキレていたのだ。
「この俺を殴りつけるとは、貴様死にたいようだな」
「こっちのセリフだよボケ、楽に逝けると思うなよ?」
ブライトナイトと由美はお互いに言葉を交わし、直後川べりで両者は激突した。戦闘スタイルはどちらも近接格闘。武器がある分由美の方にリーチの利はあるが、体格的、筋力的な意味で言えばブライトナイトに分がある。ブライトナイトはリーチ不利を埋めるため、蹴りを由美に放つ、が
「見え透いてんだ、よぉっ!」
由美はその膝目掛けバットを振り下ろした。瞬間、ブライトナイトの膝から葉野菜を引きちぎった時のような音が聞こえ、逆方向に曲がった。
「ギッ、ブァッ!」
思わず口からうめき声が出るブライトナイトの顔面を、由美のもう片手に握りしめられたバットが捉える。片足では踏ん張りがきかず、ブライトナイトはその場に崩れ落ちた。
「こんなもんで済むと思ってねぇよなぁ。人様コケにしてよぉ!」
直後、ブライトナイトの膝が光り、元の形に戻る。顔面も同様に光ったところから、どうやら回復魔法を使用したようである。
「ヒーローは不滅だ!」
今度は自分の番と言わんばかりにブライトナイトが由美へ飛びかかる。ダメージ上等の特攻は、由美のバットすら押しのけその顔面にこぶしを見舞う、が、由美の顔面もブライトナイト同様に光った。転生者は膨大な魔力の使い方を異世界で学び、行使できる。魔力量に比例してその効果が変わる回復魔法はその初歩として誰でも使うことが出来るのだ。
「はっ、そう来なくっちゃいけねぇよ。こちとらまだまだ殴り足りねぇからよぉ!!」
狂暴な笑顔で由美がブライトナイトを迎え撃つ。ブライトナイトの脇腹を捉えたバットからは、確かに人の骨を砕いた感触が伝わった。吹っ飛んだブライトナイトはやはり光を放ち、回復を行使する。由美はこの時確信した。銭湯で戦ったアイツは回復をしなかった、最初にノレンと一緒に戦った時も回復をしなかった。
なら目の前のコイツは、戦いの最中に自分をせっせと治すコイツは当たりなのだと。
しかし他の面々にそのことを伝えても、即座に来れるのは空を飛べる太陽のみ。そうなると分身体とはいえ転生者の身体強化を使えるブライトナイトの処理を正一郎単体に押し付けてしまうことになる。ならば自分が一人で戦闘不能まで持っていけばよい。由美は目標を更新し、目の前の男をどう打ちのめそうかと画策するのであった。
太陽は、圧倒的な制圧を見せていた。何しろブライトナイトは空中では何もできないからである。周りを壊すなという正一郎からの指示に従い、ブライトナイトをペデストリアンデッキの中空に固定、一方的に攻撃を続ける。
「ヒーローなら!これくらいの逆境!何とでもできるだろっ!」
もはやヒーロー狂信者と化した太陽を見つめる正一郎は、これはもう決まったなと一安心しつつもひとつの疑問点が引っ掛かっていた。
「なんでアイツはギャラリーを求めるんだ?」
自身を見せつけるために戦うのであれば、その場に証拠を残すやSNSに自身でアップするなど方法はいくらでもある。それをしないのは何故かと正一郎はずっと考えていた。まるで、観測者が居なければ存在できないとでも言いたいような言い草である。
「……まさか」
正一郎はひとつの仮説に行きつき、荒浜の一件から持ち歩くようにしていたパソコンを立ち上げた。
「ええと、すみません警察です。ちょっとスマホ借りていいですか」
そうして近くにいた『ブライトナイトを撮影する一般人』のスマホをパソコンに接続したところ、正一郎の読み通り何者かにハッキングされた跡がある。今もデータを送信しているようであり、幸いにも日本国内のネットワークのみを介しているためすぐさま受信元へたどり着けた。
「こいつは、マズい!」
正一郎はすぐさま行動に移った。近くの交番で原付を借りると、すぐにフルスロットルで走り始める。
受信元のすぐ近くであり、今も戦っているであろうノレンの元へ。




