二十一話 ヒーローって正々堂々が求められるし
男女別の行動を余儀なくされた転生者対策課は、それぞれ自由時間を謳歌していた。正確に言うと、室内にいる組と外食組に分かれていた。男性陣は紳士という名の事なかれ主義だったので、最初は女性陣の自由時間である。
「っだはぁー!仕事中に飲むビールは格別だわだっはっは!」
そんな自由時間に、あろうことかノレンは由美と入った中華料理店で酒を煽っていた。
「の、ノレンさん。その、職務中にお酒を飲むと、あの、戦う時に気持ち悪くなったりしません?」
今後いつ襲ってくるかもわからない敵に警戒する由美とは対照的に、餃子をパクつきながら追加のビールを頼むノレン。
「ああ?そんな気を張ってても襲ってくるときは襲ってくるんだから割り切って楽しまねぇと損だろ!」
豪気というか、無責任というか、凄い悪い言い方をしてしまえば何も考えてなさそうなことを言うノレン。この女がどういった生き方をこれまでしてきたがありありと思い浮かばれる。
「そうかも、しれませんけど……」
そう言って頼んだタンメンをすする由美。どんなに気を張っていても、おいしいものはおいしいのである。野菜のしゃきしゃき具合を楽しんでいる由美を見ながら追加のビールを飲み干し、ドラゴンハイボールを頼むノレンはちらりと外を見る。誰かが視線を送っていればすぐにわかるように窓際の席を陣取ったのだが、特に何者かが見ている気配も感じない。余裕ぶっこいてんだから襲って来いよなと思いつつ、届いたドラゴンハイボールをグイッと煽るのであった。
「あの、ノレンさん?お酒飲んだ後にこういった場所に来るのは……」
「飲みすぎたからなぁ、一回抜いとかねぇとアイツらにバレんだろ」
次に二人が来たのは、銭湯である。ここに来たのは至極単純で、普通にノレンが入りたかったからだ。酒を飲んでからサウナに入るといい感じに酒が回るのだ。しかし飲酒後の急激な体温変化は様々な体調不良を引き起こす。敬虔な読者諸君は飲酒後の入浴、サウナは控えた方がいいだろう。
「それにしても、お前アレだな、着やせするタイプだな」
ノレンは由美の胸部をマジマジと見ながら感想を述べる。サウナに入った後に湯船につかっていたノレンと由美だが、由美の胸部は浮力に負けて浮かぶくらいの大きさであった。
「あんまり見ないでください…!ノ、ノレンさんだって結構ある方じゃないですか!」
「だろぉ?見惚れんなよ、金取るぞ?」
由美の言葉ににやりと笑うノレン。実際ノレンのモノは大きさは元より形がとてもよい。体型も食生活から考えられないほどスレンダーであり、性格以外は完璧な女なのであった。
「さて、さっぱりしたことだしそろそろ男連中と交代してやっか……更衣室騒がしくねぇか?」
ノレンが湯船から上がった時、更衣室から悲鳴が次々と上がっていることに気が付いた。まるで変質者が出たような、とノレンが眉をひそめた時、由美がノレンの前をかばうように立ち上がった。
「これは、ちょっとまずいかもしれません。ノレンさんは隠れて、隙を見て応援を呼んでください」
直後、入り口が吹き飛んだ。そこにいたのはブライトナイト。
「見つけたぞ悪人ども!今度こそ目にもの見せてくれる!」
「うひぁ!」
ブライトナイトは工場を上げ、女湯へずかずかと入ってきた。ノレンは羞恥心から普段の彼女から考えられない声を出しながら前を隠すが、由美は羞恥心より敵との交戦を優先。バットを魔法で作り出し、ブライトナイトの前に躍り出た。
「ぅおらっ!!」
魔法で作られたバットが、ブライトナイトの頭に直撃、するかに思われたが、ブライトナイトは見てから対処したと言わんばかりにバットを片手で止める。
「ヒーローは!一度食らった攻撃は効かん!」
そのバットを握りしめ、由美を振り回そうと回転し始めたブライトナイト。相手の行動に気が付いた由美はバットから手を離し、勢いそのままにソバットをブライトナイトの鳩尾へ放った。もんどりうって倒れたブライトナイトに、再び魔法でバットを作り上げた由美が追撃の振り下ろしを決める。
「ヒーローなら女子の裸見んな変態!」
顔を赤らめながら由美が叫ぶ。何も由美に羞恥心が全くないわけではない。しかし異世界生活が長かったために、旅中で入浴中の襲撃なども日常茶飯事であったので耐性が付いていたのだ。
「悪人に情けなど無用!」
しかしブライトナイトは健在であった。グルっと足を回転させて器用に立ち上がると、未だ前を隠したままのノレンへ向かう。
「うぎゃあこっちくんな!」
羞恥に染まったノレンは慌てふためきながらも回避行動をとった。この女、人を騙すことに関しての外面は広辞苑よりブ厚いが、本来の自身を晒すことに対しての免疫はまるで無いようだ。何とかブリッジの要領で迫りくるブライトナイトの攻撃を避け、脱衣所へ走る。タオル一枚あるとはいえ、全裸で戦うなぞごめん被るからだ。
「む!逃がすか!」
しかし回避を読んでいたとばかりにブライトナイトは追撃する。彼の手がノレンに届きそうなその瞬間、カバーするように由美がバットをブライトナイトにぶん投げた。足にぶつかり少しよろけたが問題ないとばかりにノレンへの追撃を再開したブライトナイトに、今度は由美渾身の膝蹴りが入った。由美の全体重が乗った攻撃に、さしものブライトナイトも大きく体制を崩すこととなる。あまりの衝撃音に、ノレンが思わず振り返ったほどである。
「やらせるかよ馬鹿!」
そのまま両腕でブライトナイトの頭を封じ込める。じたばたして由美に攻撃を与えるブライトナイトだが、転生者である由美には大したダメージになっていない。
「ノレンさん!今のうちに応援を!」
由美決死の時間稼ぎを無駄にするわけにはいかない。ノレンは再び脱衣所へ走り、たどり着いた。それを見届けた由美はつかんだ腕そのままにブライトナイトを投げ飛ばそうとするが、それをよしとしないブライトナイトが由美の腰をがっちりホールドし阻止する。
「掴むな変態!」
投げることのできない現状を嫌った由美が肘鉄でブライトナイトを攻撃するが、ブライトナイトも転生者であるが故に大したダメージにはなっていない。
「ヒーローは怯まぬ!悪を倒すその時まで!」
ブライトナイトはつかんだ形そのままで、ジャーマンスープレックスを由美に仕掛けた。回避する術のない由美はまともに頭から地面に突き刺さる。上半身が完全に埋まり、腹から上が完全に露出した状態になった。
「悪め!悪め!滅せよ!」
身動きの取れない由美に対して蹴りを何度も打ち込むブライトナイト。さしもの転生者と言えど、同じ転生者の全力の蹴りを何度も食らえば生命の危機になりかねない。ブライトナイトが大きく足を上げた時、その体がふわりと浮き上がる。体制を大きく崩されたブライトナイトはなんとか地面にたどり着こうと体をばたつかせるが、しかしそれもかなわない。
「何してんだアンタはぁ!」
続いて時速120キロで、太陽がブライトナイトに突っ込んできた。




