二話 同僚は油断ならないし
正一郎は署長に指示された場所へ歩いていた。辞令が出て早々の部内異動である。
「ここであってるはず、なんだが……」
たどり着いた彼は、思わず手に持った荷物を落としそうになった。自分と押野という署内の二大廃棄物をあてがったあたりから薄々期待はされていないんだろうなという気はしていた。もしかしたらボロボロの部屋とかあてがわれるんじゃないかなーとか、そんな気もしていた。しかしここは、ボロボロの部屋とかそういうレベルではなく…………
「…………外の、倉庫じゃねぇか」
雪が残る二月、仙台の外の気温は一桁台である。寒さを嫌い、正一郎はせかされるように倉庫の中に入った。そこには金髪を器用にまとめた髪型の、美少女と言っても過言ではない女がそこにいた。
「せぇんぱーい!掃除おわってますよぉーう!」
甘ったるい声を出してこちらに媚を売る仕草。間違いない、コイツが
「押野ノレン、だな」
「はぁい!押野ノレンでぇす!」
押野はスススと近づき正一郎の荷物をブン捕ったかと思うと、荷物棚にドンッと置いた。
「ささ、お好きなお席にお座りくださぁい!」
手を揉みしだきながら座席に座ることを推奨してくる押野。とりあえず席に着き、罠の類がないか確認する正一郎。疑心暗鬼に陥った正一郎の行動を察してか、押野が声をかけてきた。
「やぁだぁ!私が何か仕掛けてくると思ったんですかぁー?」
などと押野は笑うが、目が笑っていない。値踏みをするような目だ。正一郎の価値を推し量っているように見える。
「お前も気づいてんだろ押野、ここに飛ばされたのが俺とお前って意味に」
ハナから信用していない旨を、正一郎はすぐに差し出した。これから同僚として、上司部下の関係としてやっていくのに建前は一番不要であると考えているからだ。意図が伝わったか、押野の表情が変わった。
「……っパ駄目だな、性に合わねぇわ。オレの事はノレン様、もしくはファムファタルと呼べ。これからお前の同僚になる女だ、光栄に思うがいい」
邪悪な笑みを浮かべながらノレンが改めて自己紹介を始めた。自分から様付けの強要並びに魔性の女を自負する奴に絶対まともな奴はいない。そう結論付けた正一郎はノレンの言葉を無視して話を続けた。
「押野、これから嘱託での職員を探す。公募してもいいが、生憎予算がないからな。外でスカウトしてくるぞ」
無視されたことを不服と感じ、ノレンは頬杖ついてむくれた。正一郎は更に言葉を続ける。
「更にだ、この部署はもう稼働してる。つまり今日にも転生者の起こしたトラブルを解決しつつ、必要とあればそいつらをスカウトしていく形になるな」
流石のノレンもこの言葉には驚きを隠せないようで、信じられないものを見るような目で正一郎を見た。
「は?んじゃ何か?このか弱いノレンちゃんが凶悪な転生者共に立ち向かいつつも、殺すことなく捕まえて、あまつさえそいつを身内に引き入れろってことか?」
一部訂正したい面もあるが、概ねその通りなので正一郎は頷いた。それを見たノレンは深いため息をついて、
「ここに来て月給も上がるし銃も打ち放題って聞いたから喜んで来たっつーのに、当てが外れたぜ畜生……これなら前の部署で延々と弾を数えてた方がましだったかもしれんなぁ」
などとぶつくさ文句を言い始めた。正一郎としても似たような感想を抱いていたので否定はしなかったが、仮にも自分が上司なのだから聞こえないところで言って欲しいと思うなどした。
と、互いが互いに後悔の念を抱いていた時、館内無線が入る。
『仙台駅東口にてマルテンと思しき事件発生。当該部署は至急応援に向かってください』
マルテンとは転生者絡みという隠語である。幸いここから車で5分ほどの距離であるので早急に駐車場へ向かおうとするノレンを制止し、正一郎は自転車置き場を指さした。
「おいおい、お前正気か?普通こういう時は車で行くのが相場だろ。かっこよく封鎖線を乗り越えていくんだよ」
頭の横で指をくるくる回し正一郎の脳みそを疑うノレンに対し、正一郎は軽くキレたい衝動を抑え、冷静に問題を指摘する。
「あのな、この時間帯あの辺は帰宅中の車でごった返す上に一方通行が多いからパトカーで行くとむしろ遅くなんだよ。死ぬ気で自転車漕げ」
その指摘に対するノレンの返答は
「かっこわりーからヤダ。寒いし汗かくし」
明らかな拒否であった。こいつマジで殴ったろかとこめかみに欠陥が浮き出る正一郎であったが、事態は一刻を争う状況。言い争いなどしていられないので無視して自転車置き場へ走り、自転車を使って現場へ急行した。
一方ノレンは正一郎が言ったのを確認した後、原付で交通状況をガン無視し、なんなら歩行者天国であるアーケード街を爆走して、正一郎よりも早く現場へ到着するのであった。
押野ノレン(25)
身長150㎝ 体重45キロ
ハーバード大学飛び級卒業のエリート。フランス人の父、日本人の母を持つハーフで、持ち前の正義感を生かすため刑事となった。
一人称は私。
二人称はきみ、あなた。
趣味でバイオリンを手習いしており、プロに迫る勢いの上手さであるともっぱらの評判らしい。
左手に小さな青い石がついた指輪をしている。祖母の肩身のダイヤモンド。
―――――――――全て噓である。
見た目がハーフっぽいのでそう名乗ってるし、正義感とかない。銃が撃てるのが楽しそうなので警察官になった。、息をするかのように嘘を吐き、道は堂々と間違え、酒をべらぼうに飲む。多分年齢も嘘ついてるし身長体重名前も嘘だと思う。たまに虚構と真実が自身でもわからなくなっている。彼女の明日はどっちだ。
一人称:俺
二人称:お前
左手に小さな青い石がついた指輪をしている。ガラス細工のようにも見える。本人曰くダイヤモンド。




