十九話 ヒーローってどこかイカれてないと出来ないし
とにもかくにも二人の戦いを止めなければこの騒動も終わりはない。
「はい、警察です。とりあえず争うのやめて、こっち来て」
警察手帳を片手に双方が収まるのを待とうと正一郎が前に出るが、どちらも止まる気配がない。これは聞こえてないのか?と正一郎は訝しみ、語気を荒げて止めに入る。
「おい!警察だ!争うのやめろ!」
しかしなおも止まることのない戦い。嘘だろこいつらと正一郎の目がストレスでぴくぴくし始めた時、ノレンが正一郎たちに気づいた。
「正一郎!コイツイカれてる!早く銃寄越せ!」
「む!悪人の仲間か!」
そう言ったブライトナイトがノレンへの攻撃をやめ、代わりと言わんばかりに正一郎へ襲い掛かる。正一郎が身じろぎするよりも早く、由美がバットを魔法で生成し、ブライトナイトの拳から正一郎を守った。
「テメェ、こんな力で皆川くん殴ったら死ぬぞ、何してんだコラ」
元ヤンの素を出した由美が振るうバットを、ブライトナイトはまともに受けて地面に沈んだ。正一郎は冷静を装いつつも、その内心冷や汗でいっぱいだった。一歩間違えれば即死待ったなしのこの状況、由美を連れてきてよかったと心から思った正一郎は、倒れたブライトナイトに声をかける。
「だから、警察だって言ってんだろ。とりあえず話は署で聞くから、一緒にこい」
なおも動かないブライトナイトを見て、これはやってしまったか?と心配になった正一郎が近づこうとしたのを由美がバットで制する。その目線は未だブライトナイトから逸れていなかった。
「皆川くん、コイツ倒れたふりしてるだけだよ」
「……よくわかったな悪人」
そう言って勢いよくブライトナイトは起き上がり、ファイティングポーズをとる。あー、コイツも全然話聞かない奴だ、なんでそういうのに限って実力あるんだよ。そう正一郎は悲しくなりながらもノレンにニューナンブを渡す。
「なんでこれなんだよ。マグナム持って来いよこいつに効かねぇぞ」
ぶつくさ言いながらも拳銃を構えるノレン。それを見たブライトナイトは、更に闘志をみなぎらせたように拳を握る。
「銃だと!やはり悪人、シンジゲートから密売されたものを持ってきたのだな!」
「何だシンジゲートって」
滅茶苦茶なことを言うブライトナイトに突っ込みつつ、もはや狂人だなと正一郎は溜息を吐く。
「で?なんでコイツに絡まれてんだお前」
とりあえず状況を確認しようとノレンに話しかける正一郎。ノレンはブライトナイトから視線を外すことなく話し始めた。
「いや、なんかオレにぶつかってこようとしてるおっさんがいたから、肘鉄でカウンターしたらこいつに絡まれた」
「どんな理由があろうとも暴力は悪だ!」
ノレンの言い訳に対するブライトナイトの補足に、ツッコミを入れたのは由美である。
「じゃあお前がしてることも悪じゃねぇか」
それに対してブライトナイトは正義は我にありと言わんばかりにこう反論した。
「悪を構成させるための暴力は愛である!」
ブライトナイトの詭弁に眉を顰めた由美とは対照的に、ああなるほどと正一郎は納得した。つまりブライトナイトの行動原理は『悪の粛清』であり、その善悪の基準は彼の中にしかない。そして悪と断定されたものに対しては絶対にその行動を是正させるまで粘着するタイプなのだ。
「宝来さん、ノレン、とりあえず制圧してくれ」
「はい!」
「言われなくてもボコボコにしてやるよ」
二人に指示を出しつつ、この場に太陽が居なくてよかったと正一郎は安堵する。憧れのヒーローと戦わせるのももちろん悪いと思ったが、最悪この狂人に感化されて敵側に回りかねないからだ。いずれにせよこれから激戦が行われることは必至、そして万が一ノレンの撃った弾が一般市民に当たったら一大事なので、正一郎は周りを避難させることにした。正一郎が行動に移ったのを確認した由美は、攻勢に出る。
「っだらぁ!」
由美のバットは確実にブライトナイトの胸部を捉えたが、今度は倒れることもなく数歩よろけただけに留まり、逆にブライトナイトが放った蹴りを避けれずまともに由美が吹っ飛ぶ。スイッチと言わんばかりにノレンが前に躍り出たが、ブライトナイトの背後には市民がまだいるため拳銃はその方向に放てない。なので蹴りを放ったばかりのブライトナイトの地面に立つ脚を、転げる形で自らの足で絡め取る。
「食らっとけボケ野郎」
自重に引かれ地面へ落ちたブライトナイトに、ノレンはここぞとばかりに拳銃を2発放った。いくら転生者に殴られた程度の威力しかないニューナンブとはいえ、地面に倒れたものに対してなら殴打くらいの攻撃にはなる。攻撃をまともに受けたブライトナイトが足元をばたつかせたのに合わせ左手で倒立する形で回避を行ったノレンを避けるように、由美のバットがブライトナイトを襲う。それを横に転がる形で回避するブライトナイト。
一方正一郎は周りの避難を粗方終わらせ、自らのニューナンブを片手に近づいた。何しろ近接戦闘の応酬である、下手に拳銃を撃てば、味方に当たりかねない。器用に足を回転させつつ起き上ったブライトナイトは、周りに人がいないことを確認すると
「む、誰もいないではないか。勝負は預けた悪人ども!」
と、アーケードの天井を突き破って消えた。厄介な相手が逃げたと正一郎は他の警察へ通報という形で警戒を行ったが、ブライトナイトを特定することはついぞ叶わなかった。




