十八話 ヒーローって認可無いと不審者だし
「正一郎さん!ブライトナイトを仲間に入れましょう!」
始業前の準備をしていた正一郎に、太陽がそう切り出してきた。
「ブライトナイト?」
「はい!最近ネットで話題のヒーローですよ!」
怪訝そうな顔をする正一郎の眼前に、太陽はスマホをぐいぐい突きつけてくる。近い近いと太陽を引っぺがした正一郎が見たのは、ポイ捨てをした40代ほどの男性を執拗に追いかけ空き缶をぐいぐい押し付ける、全身鎧に包まれたような見た目の人物であった。
「いや、そういうタイプの不審者だろコイツ」
「不審者じゃないですよ!ブライトナイトです!正義を守るヒーローですって!色々動画も上がってるんです!」
いちいち訂正してくる太陽を鬱陶しく思った正一郎は、わかったわかったと太陽の話題から目をそらすことを諦めブライトナイトをネットで検索してみた。確かにブライトナイトはSNS上で人気らしく、その正体は不明らしいが時折仙台市内に出没し、マナーの悪い人間に食って掛かり、相手が手を出して来たら華麗に倒すらしい。事実、SNSに上がった動画の中に、複数人の暴行を一度受けてから倒す動画も上がっていた。
「一部界隈では転生者がヒーロースーツに身を包み、この世の悪を退治しているって噂なんです!」
つまりマルテンの可能性のある事案か、と正一郎は改めて暴行事件が起こっている動画を見直す。暴漢からの攻撃に身じろぎを起こすこともなく、特撮ヒーローじみた行動から繰り出される攻撃は二メートルほど暴漢を飛ばしている。確かに一般人にこの行動は不可能かと正一郎は考察し、建物の位置から場所を特定して行動範囲を見定める必要があるなとネットの中を探し始めた矢先、ノレンから電話が来た。
「はい皆川」
『やべぇ!変なのに絡まれてる!今アーケードの中!銃持ってきて銃!』
よほど緊迫した状況なのか、端的にそう伝えたノレンの電話は切れた。銃を持ってきて欲しいという言葉からマルテン案件が濃厚ということは伝わったが、アーケードと言っても結構広い。一体どこだよと正一郎はあきれながらも、同僚のピンチに向かわないという選択肢はないのでニューナンブを片手に取った。
「おはようございま、あれ?皆川くん出るの?」
そんな矢先由美が出社してきた。相手がどんなものか分からないので彼女を連れて行くという選択肢もありだろう。正一郎はそんなことを思い
「ああ、ノレンが変なのに絡まれたらしくてな、宝来さん付いてきてくれる?」
「え?う、うん!いいよ!」
道ずれを頼んだところ快諾された。正直ここからアーケードのどの位置に行けばいいか分かってはいないが、まぁ道なりに進んでいけばノレンとぶつかるだろうと思い腰を上げた正一郎。
「待ってください!行くなら僕も!ヒーローやりたいです!」
それに待ったをかけたのは、動画を見てからムラムラとヒーロー熱が上がっていたらしい太陽。
「いや、太陽はここで留守番していてくれ」
誰も転生者対策課にいないという状態は出来るだけ避けたい正一郎はとりあえず太陽に待機を命じた。
「嫌です!僕もカッコよく戦いたいんです!」
無論それだけでは太陽が納得しなかった。それもそうである。最近あったことと言えば田中さんからの攻撃を空中で避けただけの太陽が、カッコよく味方のピンチに駆け付けたいという欲求に抗えるはずがないのだ。だが最近太陽の操作方法がわかってきた正一郎、それを覆すだけの手札が先ほど転がってきていたので、遠慮なく使うことにした。
「ここで待ってたらブライトナイトと共同で戦えるチャンスが来るかもしれないぞ?」
と正一郎が言ったところ
「待ってます!」
太陽はワクワクしながら着席した。扱いやすい奴、と正一郎は内心呆れながらも、自分の行動が少しずつノレンじみてきたことに恐怖を覚え震えたのであった。
アーケードまで徒歩で来た正一郎と由美は、どこにノレンがいるかすぐにわかった。というのもアーケード内で人だかりができていたからである。
「待て悪人!神妙にお縄につけ!」
「誰が悪人だ!オレは警察だってさっきから言ってんだろボケェ!」
その中心から何者かが争う声が聞こえる。一人はノレンということがわかるが、もう一人はノレンを悪人と評している辺り、何かあったんだろうなぁと正一郎は思った。
「はい、ちょっと通りますよー、警察でーす、ごめんなさいねー」
人ごみをかき分けて正一郎が到着したところに見えたのは、曲芸的な動きで攻撃を避け続けるノレンと、
「ブライトナイト……」
そのノレンに攻撃を続ける正義のヒーローブライトナイトであった。




