十三話 追えば逃げるが理の如し
転生対策課を乗せた軽自動車は、アクセルベタ踏みしながら高速道路を行く。
「なぁ、聞いておきたいことがあるんだが」
正一郎が運転しながらノレンへ問いかける。当のノレンは急用を思い出したかのようにイヤホンを付け始めた。何も話したくないということの表れである。しかし正一郎はそれを無視して言葉を続ける。
「お前のその戦闘技術、どこで磨いたんだ?」
話したくない内容(過去の違法行為諸々)とは触れていなかったのか、ノレンはイヤホンを外した。
「ああ、それね。オレってさ、帰国子女じゃん?俺の祖国って紛争が絶えなくてさ、否が応でも戦闘技術を叩き込まれたってワケ。お分かり?」
ノレンのたわごとを聞いて正一郎は目の奥が痛くなってきた気がした。これ以上話してもノレンの法螺しか出てこないことを悟り
「ああそうかい」
と、それだけ言って正一郎はFMラジオの音量を上げた。今日はこれから雨が降るらしい。ちなみにノレンの実家はゴリゴリに東北であるし、髪の毛も染めてるし、目の色もカラコンで青にしている。宮城県警内でそれが許されているのは、彼女の口車が何よりも強いから、という他ない。かつて一度だけノレンを激しく叱責した上司が居たそうだが、現在は仙台から遠くの駐在所で何者かを恐れながら生きているという噂である。
かくして一行は、太陽氏のショーの時間内に仙台空港へたどり着くことが出来た。
「クソッ入り口近くに駐車場がねぇ!」
悪態を付く正一郎が車を停めたのは、入り口の二回に上がる階段から遠く離れた所であった。
「まぁショーは30分あるらしいし、ゆっくりいこうや。焦んな焦んな」
ゆったりと車を降りたノレンは、走る正一郎とは対照的にゆっくりと現場へ向かう。ショーダウンまでは正一郎は手を出さないだろうというノレンなりの考えがあってのことだった。
勿論正一郎も、観客がいなくなるのを待ってから話を聞くつもりだった。しかし観客が全くいないのであれば話は別である。休日であるというのにもかかわらず、ごった返した人並みの中、まるでそこだけぽっかり穴が開いているかのように人がよりついていなかった。
「えーと、浮かんでるよー!凄いよー!見てー!」
それもこれも、朝日太陽の絶望的な口下手さによるものである。確かに浮いている。風船を掴んで空を飛んでいる。顔も決して悪くはない。凄いことはしている。しかし彼の言葉は「浮かんでるよ」「凄いよ」「見て」の三単語であるため、一種の置物として周りから見られていた。あまりの惨状に、正一郎はぼやく
「アンタ、商売向いてないよ……」
そんなぼやきを空港の喧騒の中で耳ざとく聞いていた朝日は、空中をするりと移動して正一郎の上に浮かんだ。
「何でそんなこと言うんだ!せっかく持ったこの浮遊の力を、生かさない手はないじゃないか!僕はこの力を生かして、大マジシャンになるんだ!」
などとフワフワ浮かぶ脳内フワフワ青年に、
「いや、浮遊できるなら高層ビル直通のデリバリーとか、空を飛ぶ実在のスタントマンとか、なんかやりようはあったんじゃないか?」
さっくりと突っ込む正一郎。朝日は今まで思いつきもしなかったと言わんばかりに目を見開き
「そうだそうだよお兄さん!僕が成るべきはマジシャンじゃないんだ!世にも珍しい空飛ぶサンドウィッチマンだったんだ!」
明後日の方向に思考を飛躍させた。どうにも頭のフワフワ具合はデフォルトの様である。正一郎には正直これが転生者対策課の力になるかはなはだ不明ではあるが、22口径なら銃弾を跳ね返す強靭な肉体と、膨大な魔力がデフォルトでついているのであればそれは動く生物兵器である。一応確保しとくか、と正一郎は警察手帳を構えて名乗った。
「あー、実は俺警察なんだけどさ」
瞬間、疾風のように朝日は逃げた。場所代を払っていないけど、特段集金をするでもない朝日に空港側が目をつぶっていたということもあるのだが、とにかく太陽には負い目があったのだ。フワフワとした思考回路の癖に、こういったところだけ現実的である。
「あ、おい!待て!」
浮遊というかわいげな特性に似合わない俊敏な速度で、エスカレーターの上を急降下する朝日、その前にいたのは
「こいつか」
狂犬である。流石に捕縛対象に対してマグナムを抜くことはなかったが、それでもニューナンブですり抜けざまにその頬面を打ち抜く
「ばびしっ」
哀れ不正滞在道化師は、その場でお縄となった。




